日常、起こり得るトラブルや疑問を法律を通して考えるページ

取引と金銭貸借 2

割賦・訪問販売についての法律

訪問販売の再勧誘の禁止

 私達主婦仲間の間でたまに「セールスマンが家に訪問し、執拗な勧誘をしていく」という事が話題になります。このような勧誘に対して法律上、何か規制はされていないのでしょうか?


Ans
特定商取引法の改正により、執拗な勧誘については禁止されるようになりました。


継続勧誘・再勧誘の禁止

 近頃の訪問販売においては、執拗な勧誘・販売行為による高額な被害の増加などによる深刻な問題が発生しています。1度事業者の勧誘が始まると、はっきりと断る事はなかなか困難である事が多く、言葉巧みな話術に乗せられてしまったり、数時間にわたり粘られたりすること等により、最終的には契約に至ってしまうケースが多くみられます。

そこで、特定商取引に関する法律(以下、特定商取引法)は、特定の訪問販売に関する契約締結を受け付けない意思表明をした相手方については、「勧誘の継続(継続勧誘)」や「再度の来訪による勧誘(再勧誘)」を禁止しています。

 継続勧誘とは、その訪問時において、そのまま勧誘を継続する行為の事であり、再勧誘とは、勧誘を行った後日、改めて訪問して勧誘する行為(同一会社の他の勧誘員が後日、勧誘を行う事も含まれる)の事をいいます。
又勧誘が禁止されるのは、「当該契約」についてであり、「当該契約」にあたらない別の商品等の契約についての勧誘は禁止されていません。
もちろん、その場合においても契約締結を受け付けない意思表明をすればよいことになります。


契約締結を受け付けない意思表明

 契約締結を受け付けない意思表明とは、契約の意思がない事を明示的に示す事をいいます。具体的には、相手方に対して「関心ありません」「お断りします」「結構です」「間に合ってます」といったように明示的に契約締結の意思がない事を表示した場合であります。

これと似た表現として「今は忙しいので後日にして下さい」と言っただけの場合等、その場、その時点においての勧誘行為に対する拒絶意思の表示は、契約締結を受け付けない意思表明にはなりません。
その他、家の門戸に「訪問販売お断り」といった張り紙等を貼っておくという光景をよく見かけますが、これらは意思表示の対象や内容が不明瞭であるため、契約締結を受け付けない意思表明にはあたりません。


再勧誘禁止の対象となる「当該契約」

 再勧誘禁止の対象となる「当該契約」とは、特定の訪問販売に関して契約締結を受け付けない意思表明をした場合における、その意思表明の対象を指します。具体的に「当該契約」にあたるかどうかは個別事例ごとに判断する事になりますが、以下のような事例が考えられます。

  • サプリメントの売買契約の締結についての勧誘
    このサプリメントはいりません」という意思表明がなされた時は、当該サプリメントの売買契約が再勧誘禁止の対象となる「当該契約」にあたります
  • 清水器の売買契約の締結についての勧誘
    清水器はいりません」という意思表明がなされた場合には、その際に勧誘している特定の型式の清水器のみならず、広く清水器全般についての売買契約が再勧誘禁止の対象となる「当該契約」にあたります。
  • システムバスリフォームについての役務提供契約の締結についての勧誘
    うちはリフォームはしません」という意思表明なされた場合には、お風呂場のみならずリフォーム工事全般についての役務提供契約が再勧誘禁止の対象となる「当該契約」にあたります。


同じ商品でも実質的に別の商品等の契約と考えられる場合

 同じ商品等の契約であっても、数カ月から1年単位での契約が通常である商品等については、その期間が経過すれば別の商品等の契約と考えられます
季節ごとの商品の入れ替えや毎年の新機種の市場投入がある商品等については、商品の旧型化による価格低下等が生じるおよそ数カ月から1年が経過すれば、別の商品等の契約と考えられる等、その商品等の性質等に鑑みて、相当な期間が経過した場合には、実質的に別の商品等の契約であると考えられる場合もあります。


行政の措置

 特定の訪問販売に関する契約締結を受け付けない意思表明をしたにもかかわらず再勧誘がなされ、購入者等の利益を保護する必要性が生じた場合には主務大臣は販売業者等に対し、違法状態又は不当な状態を改善する為に必要な措置を具体的に指示して行わせたり、業務停止命令を発したりする事が出来ます

(特定商取引に関する法律3条の2、7条、8条)


過量販売とは

 少し前に、健康食品のセールスマンが私の家に来て、使い切れないほど商品を大量に買わされてしまいました。
今は返品したいと思っているのですが、可能でしょうか?


Ans
このような過剰に商品を売りつける「過量販売」については、法改正により解除する事が出来るようになりました


過量販売とは

 近頃、訪問販売によって、全くといっていいほど必要とは考えられないような過剰な量の商品の販売による被害が多発しています
こうした一般の消費者の日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えて商品等を販売する事を「過量販売」といいます。

過量販売において、消費者が一度でも不用意に取引をしてしまうと、事業者が過剰な商品を購入する消費者であると考えて狙い撃ちされ、
次から次へと様々な契約を押しつけて行く「次々販売」に発展してしまうおそれもあり、現に被害も発生しています。


過量販売(次々販売)の種類

過量販売(次々販売)の方法もいくつかの種類があります

  • 1回の契約で大量に販売する場合
    健康食品や化粧品などを相当期間に使い切れないほど買わされる
    まとめて数年間分の学習教材を買わされる
  • 同じ業者が何度も訪問する場合
    前に買ってもらったものより良い商品があるからと言われ、勧められるがまま繰り返し契約させられる
  • 違う業者が入れ替わり訪問する場合
    数年前に床下工事をした後、関連業者やメンテナンス業者と名乗る業者が来て、いろいろな工事の契約をさせられる


過量販売にあたる分量

 過量販売であるかどうかの判断基準として、「通常必要とされる分量を著しく超える」かどうかによりますが、事前にこの基準を定める事は困難であり、個別の事案ごとに判断される事になります
しかし、形式的にみて量が多すぎていれば特別な事情がない限り過量販売として認められます。

一業者の販売量だけを見れば過量とはいえなくても、過去に消費者が購入している累積量を知っていながら悪意をもって商品を販売した場合は過量販売と認められます。


解除できる

 これまでは、クーリングオフ期間を過ぎてしまうと、勧誘方法や契約上の問題がなければ、どんなに過大な分量の商品等を購入する契約をさせられてしまっても、解除することが難しい状況でした

しかし、平成21年12月に施行の改正された法律で、「過量販売」の契約後1年以内であれば契約を無条件で解除する事が出来るようになりました
また、過量販売契約の代金の支払いについて、個別クレジットで行う契約を締結していた場合1年以内であればクレジット契約そのものを解除する事が出来、既にクレジット会社に対して支払った代金の返還を請求する事が出来ます

これに加えて、契約した商品が消耗品であった場合、原則としてクーリングオフの適用除外となっていたののですが、過量販売契約においては、この場合でも、契約の解除が可能です


解除できない

 但し、消費者にとってその通常必要とされる分量の商品を著しく超える契約を締結する特別な事情がある場合には、過量販売を理由として解除する事は出来ません
この特別な事情であると認められる場合として、親戚に配る目的や一時的に居宅における生活者の人数が増えるといった事情が考えられます。
この場合、事業者は消費者が購入した当時の特別な事情の存在を立証する必要があります。

(特定商取引に関する法律9条の2)
(割賦販売法35条の3の12)


月賦払いが遅れてしまいました

商品を分割払いで購入したのですが、事情が代わりまして月賦払いを続けていく事が出来なくなりました。商品を返品したいのですが、できるのでしょうか?
また、支払いをこのまましないとどうなるのでしょうか?


Ans
 現状を推察する所、既に契約は成立しており、支払いが続けられなくなったのはあなたの事情にすぎませんので返品はできません。
そして、支払いを続けられなくなった場合、それは契約の不履行という事になりますので、業者から契約を解除され、商品または権利を引き上げられ、もしくは役務の提供を停止されます。
それに加えて、損害賠償を請求される事も覚悟しなくてはなりません。


契約の履行

 民法の原則ですが、契約をなされたならばそれを守らなくてはなりません

ですから、商品を購入した以上、業者に契約の不履行があったとか、クーリング・オフの適用が認められる場合であるとかの特別な事情でない限り、代金または対価を支払い続けなけらばならない事になります。
これを怠れば、購入者側の契約不履行という事になります。

 そのような場合でも、購入者側の事情を売主側に話して解約の申し入れをし、売り主側がこれに任意に応じてくれる事もあるでしょう。
しかし、その場合であっても無条件という事はまず考えられず、最低限、損害賠償の負担をしなければ、「最初に契約という約束をしたのは何だったのか」という事になってしまいます。


解除とその制限

 月賦払いが続けられなくなったという事ですので、契約不履行という事になり、売り主側は契約を解除し商品等を引き上げる事が出来ます。

 契約書に「1回でも分割金の支払いを怠った時は直ちに契約を解除する事が出来る」と書いてある事もあります。
しかし、契約が割賦販売法で指定されている商品等にあたる場合は、この契約条項は適用されません

なぜならば、割賦販売法によると、買主が分割金の支払いを怠った場合、「20日以上の期間を定めて書面で催告し、その期間内に支払がなかった場合」でなければ契約の解除をする事が出来ない事になっていますので、これに反する契約は無効とされるからです。

この20日間以内に分割金を支払う事が出来れば解除されませんが、これが出来なければ業者は、商品等を回収する事が出来る事になります。
業者側としては、20日以上待ったのですから買主側としては仕方のない事です。


損害賠償とその制限

 商品等の回収等がなされてもそれで終わりという事ではありません。更に損害賠償をしなくてはならないからです。
但し、既に支払った部分がありますので、それと清算するという事になります。

以前は、既払金は全て損害賠償として業者が取切りにしておくという約束がなされていた事もありました。
しかし、今では割賦販売法により、商品等が返還された場合には(役務の提供を除く)

  • 当該商品等の通常の使用料
  • 当該商品等の販売価格と返還時の時価との差額

のどちらか多い方と、

  • これに対する契約解除の日からの法定利息(通常は年6分)

の限度に抑えられる事になっています。

ここで問題になるのは、「通常の使用料」がいくらなのかです。
業者によっては、「標準使用料表」を契約書の中に提示している事もあります。
しかし、これには必ずしも従う必要はなく、公正な機関等により合理的に算出された額に従った方が宜しいかと思われます。

(民1条)
(割賦販売法5条、6条)


その他の消費者取引についての法律

迷惑メールが来た場合の対応策

 最近、よくいわれる迷惑メールが頻繁に送信されてきます。本当に必要なメールを探すのに大変苦労しています。この迷惑メールに対してどのような対応をすればいいのでしょうか?


Ans
迷惑メールに対しては、その送信を拒否する事が出来ます。送信者がこれに応じない場合は、行政に対して一定の措置を求める事が出来ます。


社会問題となった迷惑メール被害

 平成13年頃から、携帯電話の電子メールアドレス宛てに、一方的に公告や宣伝が昼夜問わず頻繁に送りつけられるという、「迷惑メール」の被害が生じ、社会問題にまでなってしまいました
 「迷惑メール」による被害は、頻繁に不要なメールが送られてくる、削除に手間を要する、料金を取られるものもあるといったことだけではなく、メール送受信サービスを行うサーバーも、大量なメールの送受信をしなくてはならない結果、正常なメールの送受信に支障をきたすという事態にまで、発展していきました。

 その対策として「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」が新しく制定、平成17年5月に改正され、また「特定商取引に関する法律」の一部が改正され、平成14年7月から施行されています。その後、平成20年、21年に改正されました。


規制

 「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」では、「迷惑メール」に対する包括的な規制を定めたものです主な内容は次の通りです

  • 規制の対象
    規制の対象は「自己または他人の営業につき広告又は他人の営業につき広告又は宣伝を行う為に送信をする電子メール」です。(あらかじめ受信者が同意している場合を除く)これを「特定電子メール」といいます。
  • オプトイン方式の導入
    平成20年の改正により、取引関係にある者への送信などの一定の場合を除き、予め送信に同意した者に対して、送信を認める方式を採用しました。
    これをオプトイン方式といいます。
    以前は、原則として、送信を自由とし、送信を拒否した者について、送信を禁止するという規制の仕方(オプトアウト方式)をしていたましたが、この方式を変え、より厳しい規制方式を採用したのです。

    なお、同意については、同意を証する記録を保有しなくてはならない事になっています。
  • 表示義務
    送信者が表示しなければならない事項があります。
  1.  送信者の氏名または名称
  2.  特定電子メールの送信を拒否する通知をする事ができる旨とその通知をなす為の電子メールアドレス
    送信者に上記の事項を表示させることにより、予め送信に同意した者等から送信者に対して、送信をやめるように申し入れることができるようになりました。
  • 送信者情報を偽った送信
    送信者は、送信に用いたメールアドレス等を偽る事は禁止されています。この送信者情報を偽った電子メールの送信に対しては、電気通信事業者は、電子メール通信の役務継続を拒否する事が出来ます。
  • 違反に対する措置
    上記の規制に違反した者に対しては、総務大臣又は内閣総理大臣は、送信者(送信委託者を含む)に報告をさせ、また立ち入り検査をするどして必要な措置を取る事を命令する事が出来ます。
     迷惑メールの受信者は、総務大臣又は内閣総理大臣に適当な措置を取るべきことを申し出ることができます。

    また、上記の規制や措置命令に違反した時は送信者には刑事罰が科せられます。(平成21年改正により内閣総理大臣は、特定商取引法に基づく権限を消費者庁長官に委任する事になりました)


改正「特定商取引に関する法律」

 販売業者の広告の提供についての規制を新たに加えたものです。内容は以下のようになっています

  • 規制の対象
    「特定商取引」のうちの「通信販売」(郵便などの通信方法により指定商品等の売買の申し込みを受けるもの。出会い系サービス、アダルトビデオの販売等はこれにあたる。電話勧誘は除く)、「連鎖販売取引」(いわゆるマルチ商法)、「業務提携誘因販売取引」(あるものを買えば内職を紹介するといった内職商法)
  • 原則禁止
    あらかじめ同意のあった消費者に限って、電子メール広告ができる事とされています。
  • 表示義務
    広告提供者は、予め同意しても、消費者が電子メールによる広告の受け取りを拒否する場合に、その連絡を行う方法を表示しなくてはならない事となりました。
  • 広告提供の禁止
    消費者が電子メールによる広告の受け取りを希望しない旨の連絡をなした場合には広告の再送信が禁止されています。
  • 違反に対する措置
    この義務に違反した場合には、主務大臣による指示、業務停止命令等の対象になります。そして、この指示、業務停止命令に違反すると罰金刑が科されます。

(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条~9条、28条~35条)
(特定商取引に関する法律11条、12条の3、35条、36条の3、53条、54条の3)


デート商法

 たまに週刊誌で載っている「デート商法」とはどのようなものなのでしょうか?


Ans
 一般的に、恋愛感情に付け込んで、物品を購入させる商法の事を指します。デート商法によって締結させられた契約は、無効とされる事があります。


特徴

 正確な定義があるわけではないのですが、以下のような事をデート商法といいます
よくありがちなパターンとして、アンケート調査や出会い系サイト、電話勧誘から始まるといったところでしょうか。通常、販売員は顧客にとって異性であり、その販売員が言葉巧みに誘い出して、喫茶店などで会い、打ち解けた雰囲気の中で相手に好意を持たせ、商品の販売店や展示場に連れ込み、甘えてねだる等して商品を買わせるという手口です。

 デート商法の特徴

  •  恋愛感情を利用した商法 
  •  宝石、アクセサリー、絵画などの高額商品が対象
  •  次々に被害に遭う事が多い
  •  恋愛感情を利用して、クーリングオフの行使を妨害しようとする
  •  クレジットなどが利用される

 このように、デート商法は、その気もないのに好意があるかのように装い、顧客に恋愛感情を抱かせ、その弱みにつけ込んで高額な商品を購入させるといった、非常に卑劣な商法でです。


デート商法に遭ったならば

 デート商法はアポイントセールスや訪問販売に該当する事が多く、したがって、クーリングオフを利用して、契約を取消す事が出来ます。クーリングオフは契約書面を受け取った日から8日間の間に取消しの書面を発送する事によって行います。
又、デート商法で締結させられた契約は、公序良俗違反であり、無効とする判例もあります

 この判例によると

デート商法は、異性の販売員との交際が実現するかのような錯覚を抱かせ、契約の存続を図るという著しく不公平な方法による取引であり、公序良俗に反して無効である

としています。
ですから、デート商法により締結させられた契約について、その代金を支払う必要がありません。もし、クレジット契約を締結したならば、クレジット会社に対し、契約が公序良俗違反で無効である旨を主張して、その後の割賦金の支払いを拒絶する事が出来ます。
しかし、既払の割賦金の返還については争いがあります
 

 被害に遭わない対策としては、見知らぬ異性からの電話等に対しては警戒すべきです。また、誘われて販売店などに連れて行かれても、すぐに購入しない事です。
そして、万が一デート商法に引っかかった場合は、消費者センターなどに相談する事をお勧めします。

(民90条)
(特定商取引に関する法律9条)
(割賦販売法30条の4)


外国為替証拠金取引

 先日、知人から外国為替証拠金取引は儲かるから、「私に教えてあげるからやってみない?」などと誘われました。よく内容を聞く事もなくその場は終わったのですが、少し興味があります。
これはどういったものなのでしょうか?


Ans
 外国為替証拠金取引とは、いわゆる「FX取引」と言われているものであり、外国為替の取引を一定額の証拠金を預託する事により、その証拠金の額の何十倍もの額の取引を行えるという金融商品です。
取引の仕組みが極めて複雑であり、少しの為替変動で大きく損をする事がありますので、この取引に対する知識がない人や余裕資金がない人にはあまりお勧めする事が出来ません。


FX取引の仕組み

 まず、FX取引をする際には、証拠金を業者に預けます。証拠金の最低単位(これを「1枚」といいます)の額は1万ドルとする事が多いようですが、3000ドルぐらいの場合もあります。
業者はこれをインターバンク市場に何らかの形で取り次いで為替取引を行います。インターバンク市場で取引を行える銀行は限られていますので、業者が直接インターバンク市場で取引をしているとは限りません。

1枚当たりの取引価格は10万ドルとされているのが普通ですので1万ドルの証拠金で10倍の10万ドルの取引をする事が出来るのです。
ここでドルを売ったり買ったり、円を売ったり買ったりして為替取引を行います。取引は1日単位で決済されるのが原則ですが、翌日に持ち越すこともできます。

 取引の決済は、差金決済によって行われます。
例えば、今の相場が1ドル100円だとして、1ドル100円で買ったとします。円安傾向になり、130円で売れば30円の利益が出る事になりますし、逆に円高になって70円になってしまったら30円の損失を出します。この30円の損益だけを決済すればいいのでわかりやすいかも知れません。

 業者はこれらの事を取り次いだ費用としていくらかの手数料を取ります。為替取引の損益にこれらの費用を差し引いたものが顧客の損益となります。その結果、利益が出れば利益金がもらえ、損益が出れば証拠金から差し引かれます。


FX取引の危険性

 FX取引の危険性としてどのような事が考えられるか、いくつかあげてみます

  • 少しの相場変動で大きな損が出る
    相対的に小さな証拠金で大きな額(10倍位)の取引をするので、少しの相場変動で大きな損失が出る事があります。
    取次手数料やスワップ金利を除いて考えても、10パーセントの相場の変動で証拠金はなくなってしまう計算になります。かなり危険な取引(?)であると言わざるおえません。
  • インターバンク市場に取り次いでいない
    先程、インターバンク市場に取り次ぐといいましたが、取り次ぐといいながらこれを取り次がない悪質な業者もかなり多くあるようです。
    もしそうだとすると、この取引は顧客と業者の相対取引という事になり、相対取引という事は、顧客の得は業者の損という利害関係が対立する取引になるということです。
    悪質業者が、相場についてインターバンク市場の為替レートを参考にしたとしても、市場につながっていない取引では、業者によって思うように操作をされてしまい顧客が必ず損をするという危険性があります。
  • 取引の仕組みが複雑
    FX取引の仕組みは複雑であり、わかりにくい事があげられます。
    特にスワップ金利は素人には理解しにくく、又インターバンク市場に取り次いでいない場合には、なぜ取次手数料やスワップ金利が発生するのか理解に苦しみます。


規制の強化

 このような危険、不明瞭な取引であるにもかかわらず、この取引に対する規制・監督は全くありませんでしたので、悪質業者は、「必ず儲かる」などといったセールストークをして、十分に取引の危険性を説明していませんでした

 外国為替証拠金取引は1998年に外国為替及び外国貿易管理法(現在は外国為替及び外国貿易法)が改正され、外国為替取引が自由化されるとともに登場し、2002年頃からその被害が急激に増えて社会問題になりました。
こうした状況を改善する為に、2005年には、FX取引業者は「登録制」になり、2007年には、「金融商品取引法」の対象とされ、契約書面の交付の義務化、顧客の意思を確認しないで勧誘する行為の禁止、そして、勧誘、断定的判断の確保の禁止などの規制がなされるようになりました。

 このような事からFX取引による被害は2006年頃から減少傾向になっています。
更に2010年からは、金融庁により

  1. 業者の破綻が増えた事から、その破綻から証拠金を保全する為、預かり証拠金は「金銭信託」に付し、区分管理を徹底させる
  2. ロスカットルールの整備遵守の義務付け
    ※ロスカットルール⇒損失があらかじめ業者と委託者が決めた額に達した時は、業者は強制的にその取引の決済を行うというルール
  3. あまり投機的になり過ぎないように、定額以上(2011年8月から4パーセント)の証拠金を預かることの義務付け

以上の事から、かなり資金に余裕のある人でなければ手を出してはいけない金融商品なのではないかと思います


悪質リフォーム商法

 先日、私の家に営業マンがやってきて、「無料で建物を点検してあげます」と言いました。
無料という言葉についついつられてしまい、家を点検してもらいました。
そうした所、その営業マンが、「床下の柱がシロアリに食われていて腐っていますねぇ。耐震補強をしないと今度また大きな地震が来たら倒壊するおそれがありますよ」等と言って強くリフォームを勧めてきました。
そこで私は、「それではその補強工事においくらかかりますか?」と質問したところ、かなり高額な金額を提示してきました。
営業マンの話を半信半疑で聞いていたのですが、信用しても大丈夫なのでしょうか?


Ans
近頃、こうしたセールストークで必要もないリフォーム工事を法外に高額な金額でさせられる悪質リフォーム商法による被害が増えてきています。
このような事で被害にあった時は、特定商取引に関する法律や消費者契約法による救済が可能です。


悪質リフォーム商法の手口

 営業マンが訪問して来て、屋根や床下を「無料で点検します」などと述べるといった事はありませんか?
無料ならばと思ってみてもらうと、「耐震基準を満たしていない」とか「シロアリが巣食っていて根太が腐っている」といったように、不安をあおり、高額のリフォーム工事の契約をさせられるというのが悪質リフォーム商法と呼ばれているものです。

大方、高齢者や主婦が被害者となるのが実情です。又、契約金額も法外に高額なものが多いです。
そして、契約の解除のの申し入れをしても受け付けてもらえなかったり、手抜き工事をされてしまうという実例もあります。

飛び込み営業で家に来て、無料点検をして、建築士などの専門家でもないのに「地震に耐えられない」などと即断するといった場合や、一式金額のみ記載されていて工事内訳書のない見積書が提出されるなどの場合には、悪質リフォーム商法ではないかと疑い、気を付ける必要があります。

特に、平成23年3月11日に発生した東日本大震災以降は、こうした悪質リフォーム商法が横行しているようです。
いくつかの事例として

  • 業者が訪問してきて、屋根の修理をさせてくれと言ってきたので依頼したら高額な工事を勧められた
  • 業者が屋根工事の必要があると言っておきながら、見積書を出してくれない
  • 工事の内容がずさん、低レベルなものだった
  • 断っても断っても執拗に訪問を繰り返し、契約する事をせかす
  • 「明日にでも工事をしないと大変な事になる」というように、不安感をあおって契約させようとする
  • 当初の見積りよりも高額な代金を請求させられた

このような勧誘には十分な注意が必要です


悪質リフォーム商法に対向する手段

 もし、悪質リフォーム商法に遭遇しましたら次のような事をすることができます。

  1. クーリング・オフ
    悪質リフォーム商法をする業者は、「とびこみ」や「訪問販売」を行うのが一般的です。ですので、この契約には特定商取引に関する法律が適用され、書面でクーリング・オフをする事が出来る事を知らされた日から8日以内(その日も含む)であれば、無条件で解約する事が出来ます。
  2. 消費者契約法による取消し
    悪質な業者が、重要事項について不実の告知をしたなどの事情があれば、消費者契約法により契約を取消す事が出来ます。又、悪質な業者が契約締結を求めて、強引に居座り、退去を求めても退去せず、その為困惑した結果、契約を締結した時も同様です。
  3. その他
    悪質リフォーム商法において、クレジット契約が結ばれた場合、割賦販売法による保護(クーリング・オフ契約条件の明記、書面の交付、
    損害賠償の制限)も受けられます。又、悪質業者のセールストークが詐欺にあたる場合には、詐欺取消し、錯誤無効、不法行為など、民法に
    よる救済も考える事が出来ます。

(特定商取引に関する法律9条)
(消費者契約法4条)


知的所有権(著作権)商法

 ある方から、アイディア、ネーミング、デザインなどを著作権として民間団体に申請・登録すると、長期にわたる強い権利が速く、安く取得でき、企業への売り込みに非常に有利ですとの説明を受け、この登録を勧められています。
こうした制度は、本当に効力があるのでしょうか?


Ans
 あなたの知人から勧められているような、民間団体への著作権申請登録により、権利が取得できるという制度は法的に認められていません。
むしろ勧められた権利の登録により、あなたに不利な事態が生じる事も考えられますので、このような勧誘には乗らないのが賢明かと思われます。


知的所有権

 最近、「知的所有権」という言葉をよく耳にします。
知的所有権とは

  1. 特許権(発明を保護する)
  2. 実用新案権(考案を保護する)
  3. 意匠権(デザインを保護する)
  4. 商標権(商標を保護する)
  5. 著作権(文芸・学術・美術・音楽などの創作による著作物を保護する)

これらの総称をいいます。
これらの内でを工業所有権といいます(産業財産権といわれる事もあります)。
工業所有権は発明、考案(これらの事をアイディアといいます)、デザイン、商標を、特許庁に登録して初めて権利が発生するものなのです
つまり、特許庁に登録する事が権利を取得する要件なのです。

 これらに対して、著作権は、文芸、学術、美術、音楽などの創作をすれば、登録するしないに関わらず、その時点で発生するものなのです
著作権には、文化庁長官における登録という制度がありますが、これは、権利取得のための要件ではなく、著作権の権利変動の公示などを目的としたものなのです。

 これらから言える事は、デザインやアイディアや商標は、著作権のようにその時点で発生する権利ではなく、特許庁に登録しなければ権利は取得できないのです。
今回のように民間の団体に登録しても権利が発生する事は決してありません


知的所有権商法(著作権商法)

 知的所有権商法(著作権商法)とは、本来、工業所有権で保護されるべきアイディア、デザイン、商標などを著作権として民間団体に申請・登録する事により、あたかも工業所有権より長期にわたる強い権利が安く早く取得できるので、企業の売り込みにも有利になり、その効力は工業所有権にも及ぶかのような宣伝を行って、これについての「登録業務」を有償で行う商法をいいます。

具体的に知的所有権商法の手続きは

  1. 申請者がアイディアなどの簡単な図面、説明文を一枚の申請用紙に記載し、料金を付してその民間団体に提出する
  2. 当該民間団体はこれに対して「登録証」を発行する

といった流れかと思われます。


工業所有権と著作権

 このような民間団体の言葉を信じて、申請をし、対価を払って登録をした場合、その効果はどうでしょうか?

 まず、申請したアイディア、デザイン、商標が、仮に本来、特許法その他の工業所有権法により保護されてしかるべきものであったとしても、特許庁への登録手続きがなされているものではないので、申請者は権利を取得する事は出来ません。
著作物であれば、著作権法で保護されますが、おそらく、簡単な申請用紙に記載した程度の図面・文章では創作とは言えず、著作権法でも保護されないでしょう。
仮に、著作物であるとしても、そのアイディアやデザイン、商標そのものは、著作権法では保護されません。
つまり、このような民間団体に申請・登録したのでは、権利は取得できていないのです。

 したがって、このような民間団体に登録をし、登録した事に対して、他人が「権利侵害」をしていると思い、その行為に対して「差し止め」をするのは違法という事になってしまいます


新規性

 特許法や実用新案法でアイディアを登録する時には、そのアイディアが今まで人々が知らなかった新しいもの(新規性)でなくてはならない事になっています

 したがって、申請・登録したアイディアが、仮に特許法や実用新案法によって保護する程度のものであったとしても、この民間団体への登録をした事により「公表」してしまっていますので、登録をしようとしても、「新規性」がなく、登録できないという事にもなりかねません。

以上の事から、民間団体への知的所有権の登録には問題が多く、一般的にはこうした勧誘には乗らない方が宜しいかと思います。

(特許法2条、66条)
(実用新案法3条、14条)
(意匠法3条、20条)
(商標法3条、18条)
(著作権法6条~9条の2、75条~77条)


金銭貸借等についての法律

消滅時効

 私は仲の良い友人に10年ほど前に200万円を貸しました。その後、特に返済を催促する事もなく月日が流れていきました。
 最近、私にお金が必要になってしまった事が起きましたので、その友達に返済を求めました。ところが、その友人は「僕の債務は時効にかかっているから消滅した」といって返してくれません。私には一銭も返ってこないのでしょうか?


Ans
 あなたの友人に対する貸金返済請求権は、消滅時効にかかっていると思われますので、その友人が時効の援用をすれば、貸金を返済してもらう事はできないのが原則です


権利の上に眠っている人を保護する必要はない

 時効とは、ある事実状態が長期間継続した場合、それが真実の権利関係に合致するか否かにかかわらず、その事実状態を尊重して、それをそのまま権利関係として認めてしまおうという制度です
 時効には、消滅時効取得時効の2種類があります。
今回のケースは消滅時効が問題となります。
消滅時効は、一定の期間にわたり、権利を行使しないとその権利が消滅してしまうという制度です。権利を行使しないという事実状態は、権利がない場合と同じですから、この事実状態を尊重するなら、権利はなくなったものとして扱う事になるのです。
 
 権利がある人にとっては釈然としないかもしれませんが、このような制度が認められている理由があります。

  • 社会の法律関係の安定を守る為
  • 証拠保全の困難を救済する為
  • 権利の上に眠っている人を保護する必要がない

といったようなことが挙げられています。
 法は、時効によって利益を受ける人の良識に期待して、時効の効果が生ずる為にはその人の援用が必要であるという事にしています。
消滅時効でいうなら権利が初めから存在しなかったことになるには(時効の効果が生じる)、その人が時効によって権利が消滅したと主張することが必要である(援用が必要である)と言いかえる事が出来ます。


時効期間

 では、どれだけの期間が経過すれば時効は完成するのでしょうか?時効期間は法律で定められています。

  • 民事上の債権10年
  • 商事上の債権5年
  • 特に短い時効期間が定められている債権
    請負人の工事に関する債権、約束手形の振出人に対する請求権 3年
    生産者、卸売商人、小売商人の売掛代金債権 2年
    運送賃、旅館・料理店等の宿泊料飲料の債権 1年

 今回、あなたの友人に対する貸金債権は、民事上の債権ですから10年で消滅時効期間を経過します。したがって、友人が「消滅時効により債権は消滅した」と言って時効を援用すれば、あなたは貸金の返還を請求する事が出来なくなってしまいます。


時効完成後の債務承認

 少し違ったケースを考えてみましょう

時効が完成した後(10年経過した後)に友人が、弁済をしたり、利息を支払ったり、返済期間を合意したり、債務承認書を差し入れたなどといった債務がある事を認めるような行為をしたときはどうなるのでしょうか。
 この場合にも先程のように時効の援用を友人ができるとするならば少しおかしな話になります。なぜなら、友人は債務がある事を認めているのに、その後やっぱり債務はなかった事にしようとするのは、正義感に反します。
そこでこのような場合には、もはや時効の援用をする事は出来ないと解されています。今回の場合も、友人にとりあえず貸金債務を承認してもらえば、たとえ10年経過していても、貸金を返してもらう事が出来ます。


時効の中断

 時効が完成する前(時効期間が進行中)であっても、裁判上の請求をしたり、差押えなどをしたりして、債務者が債務の存在を承認したりした場合には、「時効の中断という事が生じます
 
 時効の中断とは、時効の基礎となっていた事実状態と相容れない事実が生じると、それまで進行していた時効期間は全く意味がなくなり、再び権利不行使の状態が生じるまで進行を始めない事をいいます。
言い換えますと、権利不行使の状態と相容れない請求や差押え等といった事実が生じると、今までの時効期間は無くなり、またゼロから進行する事になります。

 もし、あなたの友人が7年目に利息を支払ったという事実があるしたら、それは先程の「承認」に該当する事になりますので、その後、再び権利不行使の状態となったとしても、その利息を支払った時から10年経過しなければ時効は完成しない事になります。この場合でしたら、最初に友人にお金を貸した時から10年が経過したとしても、まだ時効は完成していませんので、あなたは貸金の返還を請求する事が出来ます。

(民145条、147条、156条、167条)


家の差押えを逃れるための背信的行為

 私は、ある知人にお金を貸しています。どうやらその知人は、他にも多額の借金をしているといった事を聞きました。
ある日、その知人は自宅の差押えを免れるために、唯一の財産である住宅の名義を、他人の名義に変えてしまいました。このような事をしても大丈夫なのでしょうか?


Ans
 あなたの友人の行為は背信的な行為であり、許されないと思われます。債権者がどのような形で救済を受けられるかについては、その住宅が現実に譲渡されたのかそうでないのかによって分けて考える必要があります。


友人の譲渡が仮装であった場合

 所有権の移転は、当事者間において、本当に移転させる意思があって初めてその効果が生じるのが原則です
しかし、友人と現在の名義人が通謀して、住宅の譲渡(売買、贈与)を装ったのであれば、所有権は移転しません。

 このような事を「通謀虚偽表示」といいます。
民法によると通謀虚偽表示は無効になりますので、あなたをはじめとする債権者は、その友人に代わって、その名義人に対して、住宅の登記名義を元に戻すよう請求する事が出来ます。(債権者代位権)

その他に、友人の行為は強制執行免脱罪という犯罪にも該当しますので、公序良俗違反による無効の主張もできるかと思われます。但し、名義人が仮装譲渡である事を知らなかった場合は、名義人も一種の被害者となりますのでその利益を守る必要から、無効の主張をする事は出来ません。
通謀→相手方とあらかじめ示し合わせて事をたくらむこと。共謀


友人の譲渡が仮装でない場合

 譲渡が真実であった場合については、
①譲渡が贈与のような無償又は時価よりかなり低廉な価格により売却された場合
②時価相当で売却された場合
の2つに分けて、今回の事について考えてみたいと思います。

 ①の場合ですと、あなたの友人はかなりの借財を抱えているようですので、住宅はその引当になる唯一の重要な財産であったはずです。その様な財産を無償又はかなり低廉な価格で譲渡してしまったわけですから、その行為はあなたをはじめとする債権者の利益を損ねるものとなります。

このような場合、民法では、債権者取消権(詐害行為取消権)という権利を債権者に与えています。債権者取消権(詐害行為取消権)は、債権者の利益を損なうような譲渡を取消し、友人の元へ所有権を戻すように請求する事が出来る権利です。

しかし、債権者取消権(詐害行為取消権)は、以下の要件を満たさなければなりません。

  • a.務者の財産が減少し、債権者への弁済が十分行えなくなる事。不十分な弁済しかできない状態がさらに悪化した場合も含みます。
  • b.受けた名義人が、aの事情を知っている事
  • c.によって行う事

なぜこのような要件を満たさなければならないかといいますと、債権者取消権(詐害行為取消権)は債務者の自由を制約するものであり、譲り受けた名義人の利益を損なう可能性が大きいからです。

 ②の場合について考えてみます。
住宅を時価相当で売却したという事ですので、計算上は財産の減少はみられません。そうであるなら先程のaの要件を満たしていない事になり、債権者取消権(詐害行為取消権)の対象にはならないと考える事も出来ます。
しかし判例は、消費しやすい金銭に変えてしまう事も債権者を害する場合に当たるとして債権者取消権(詐害行為取消権)の対象となるとしています。


刑事問題

 刑法96条の2は、強制執行を免れる目的をもって財産を仮装譲渡した者あるいは、金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で譲渡をした者は強制執行の妨害罪にあたるとしています
したがって、あなたの友人が差押えを免れる目的で仮装譲渡をしたとき、また、仮装でないとしても無償譲渡等をしたときは、この罪にも該当する事になります。

(民90条、94条、423条、424条)
(刑法96条の2)


自己破産した後の免責

 私は自己破産をしました。
友人から聞いたのですが、債務を免れるには裁判所に免責許可の決定をもらう必要があるとのことですが、どのような場合に免責を認めてもらえるのでしょうか?


Ans
 破産者の免責許可を認めてもらうには、破産者が免責許可の申立てをします。そうすると裁判所は、その破産者に「免責不許可事由」がないかどうかを調査し、それがない事を確認すると免責許可の決定を出します。


免責とは

 破産手続き上の配当によって弁済されなかった破産者の債務について、裁判によりその責任を免除する事を免責といいます

この免責を得れば、残りの債務について支払いをしなくていい事になります。
債権者にとっては非常に迷惑な話ですが、破産者が、破産手続き終了後も残債務について責任を負う事にすれば、破産者は経済的に立ち直る事が極めて困難になります。
こうした事から免責制度を利用する事により破産者の再起を可能にしようというのがこの制度の目的です


免責の手続きの流れ

 免責の手続きについての流れとしては

  1. 破産者が裁判所に申し立てる事により開始します
    (その際には、裁判所に費用の予納をしなくてはなりません)
  2. 申立てが出来る期間
    破産手続き開始の申立てがあった日から破産手続き開始の決定が確定した日以後1ヶ月を経過する日までです。
  3. 免責許可の申立てがあると、裁判所は期日を定めて、破産者を呼んで審尋(しんじん;裁判官が破産者に陳述の機会を与える事)という手続きを行います
    (ここで免責不許可事由があるかどうかを調べます)
  4. 免責不許可事由がなければ、裁判所は必ず免責許可決定を下さなくてはならない事になっています

 免責不許可事由は条文に定めてありますが、以下のような事が免責不許可事由がある(つまり免責許可決定が出ない)という事になります

  1. 自己や他人の利益を図って、財産を隠したりした場合
  2. 虚偽の担保を設定した場合
  3. 法定の商業帳簿を作らなかったり、作っても虚偽の記載をしたり、あるいは隠したりした場合
  4. 浪費、賭けごとをする事により財産を著しく減少させた場合
  5. ある債権者に対してのみ特別の利益を与える為に担保を供与したりする事
  6. 破産手続き開始の決定の1年以内に、既に破産状態になっているにもかかわらず、取引先などを騙して財産を取得した場合
  7. 免責許可決定の確定から7年以内に免責許可の申立てがあった場合

債権者や破産管財人は、この免責許可の申立てについて異議を申し立てる事ができ、異議を申し立てられた時は、裁判所は異議申立人及び破産者の意見を聞かねばなりません。


免責許可決定

 以上のような免責不許可事由がない場合、裁判所は免責許可決定を出しますが、裁判所によっては、一定額の任意配当をさせたうえで免責を認めるという運用をしている所もあります

免責許可決定が確定すると、残余債務についての責任を免れる事になりますが、租税債権、雇人の給料債権、悪意をもってなした不法行為による損害賠償債権、罰金等についての責任を免れる事は出来ません

その他にも、身分上の公私の権利や資格(公証人、弁護士、弁理士、公認会計士、後見人、保佐人、取締役、監査役等になれない)がなくなります。

(破産法248条、252条、253条、255条)


違法年金担保融資対策法

 年金をお金を賃す際の担保に取る事を禁止する法律があるそうですが、どのようなものでしょうか?


Ans
 平成16年12月及び平成18年12月に貸金業の規制等に関する法律「貸金業法」が一部改正されて、年金担保融資の規制が強化されました。


年金を担保に差し入れ禁止

 以前から、年金などを貸付金の担保に差し入れる事は、独立行政法人福祉医療機構、国民生活金融公庫などからの借り入れの場合を除いて禁止されていました
また、貸金業法12条の6や、金融庁の貸金業者向けの総合的な監督指針においても、年金担保の手段として、貸金業者が印鑑、預貯金通帳、年金受給証等を徴収する事を禁止していました。

 これは年金が国民の生存権の確保を目的としているものである事や、年金の受給権が一身専属的な権利であり、貸金を返済としての引当財産とする事になじまないからです。


年金担保融資

 しかし、上記の規制だけでは十分な対策ではありませんでした。平成11年頃から「中高年歓迎」「シルバーローン」「年金ローン」といった文言で借入れの勧誘広告が増加し、それと共に、年金を担保に借入れをする人の数も増加していました。

このような年金担保融資の実態は

  1. 業者は預金通帳、年金証書、キャッシュカード、印鑑を借入れをした人からあらかじめ提供させておきます。
    そして2カ月ごとに年金が振り込まれる借入れをした人の口座からそれを業者が引き出して、貸金の返済に充当します。
  2. 業者は借り入れをした人に、返済をさせる為、年金を担保とする事が出来る公的機関(独立行政法人福祉医療機構など)から、お金を借り入れさせて、高金利を含めてそこから回収します。業者が回収した後、借りた人はその公的機関へその後の年金で返済するという事になります。

     しかし、毎日の生活の糧である年金を奪われた年金受給者は、当然ですが生活に困る事になります
    そして、再び生活資金が必要となり、再び業者から「追加融資」を受ける事になり、債務が増えていくという悪循環に陥ってしまいます。

このように高齢者が狙われる事になったのは

  • 高齢者には収入がない人が多く、一般の金融機関から借り入れする事が困難でありますので、その弱みにつけ込まれるという事も原因としてありました
  • その他にも、年金担保禁止に違反しても刑事罰などの具体的な制裁がなかったために、禁止が実効性を持たない

といった事が原因かと思われます。


今回の規制

そして、今回の改正による規制として

  1. 広告、勧誘にあたって禁止される行為の追加
    「公的な年金、手当等の受給者の借入れ意欲をそそるような表示または説明」をしてはならない事になりました。
    この規制に造反すると、営業停止等の行政処分の対象となります。
  2. 公的給付にかかる預金通帳等の保管等の制限
    貸金業者は、法律で差押え等が禁止されている年金などの公的給付について、受給者の預金口座に払い込まれた給付から、貸し付けの弁済を受ける事を目的として、預金通帳等の引き渡し等を求める事は禁止されました。
    又、平成18年の改正により、上記目的をもって弁済を金融機関に委託する事を求める事も禁止されました。
    これらに違反した時には、1年以下の懲役、300万円以下の罰金に処せられます。

(国民年金法24条)
(厚生年金保険法41条)
(貸金業法16条、20条の2、48条)


保証と担保についての法律

私が買った車の販売店が倒産してしまいました

 私は車が欲しかったので、あるディーラー(Z)で購入し、代金は既に完済しています。
しかし先日、(Z)は倒産してしまいました。その様な状況の中、(Z)にその車を卸したディーラー(A)から連絡があり、その車の所有権は(A)が留保しているから車を引き渡して欲しいと言ってきました。
どうやら、(Z)は(A)から分割払いで車を仕入れていたらしく、まだ仕入れ代金を完済していないまま倒産したとの事だそうです。
私は全く知らなかったのですが、車の名義は(A)のままでした。
私は車を(A)に取り上げられてしまうのでしょうか?


Ans
原則としては、貴方は(A)の引渡請求を拒む事は出来ません。
しかし、権利濫用を理由に(A)の請求を拒む事が出来る場合があります。


所有権留保

 所有権留保とは、売主が、買主の代金支払いを担保するために、目的物の引渡し後も所有権を売主の所に留保しておくというものです。(所有権留保については、お時間がありましたら下記設問「所有権留保」を参照してみてください)

所有権留保の法律的な考え方には2通りあります
1つは、文字通り所有権が売主にあるとする考え方。
もう1つは、実質に着目して、所有権の外形をもった担保権が売主にあるとする考え方です。

少し難しいお話ですが、いずれにしても所有権ないし担保権は売主にあるわけですから、買主は完全な所有権を取得する事が出来ません。
このような考え方で今回の事に当て嵌めると、貴方は(A)の引渡請求に応じなければならない事になります。


民法の善意取得

 ここで、動産(テレビ、時計等といった不動産ではない物)が目的物である売買について考えてみます

このような場合において
民法では「善意取得」という制度があります。
これは動産の売買取引などの際に売主が無権利であったとしても、買主がそれを知らなかった(売主が無権利者である事を知らなかった)場合には買主は保護される(権利を取得できる)といった制度です。
この制度を利用すれば今回の場合のケースで買主が保護される余地があります。


自動車の場合

 それでは、自動車についてこうした善意取得の制度の適用があるのでしょうか?

判例では
未登録ないし登録抹消後の自動車には善意取得の適用がありますが登録されたものについては適用がないとされています

 しかし、これでは車の買主は保護されない事になってしまいますので、損害を被ってしまう事になり非常に気の毒な事になってしまいます。
そこで判例は、少しばらつきがありますが、買主を保護する別の考え方を示しました。
今回の事例に当て嵌めてみると
(A)、(Z)間の所有権留保特約について買主が知らず(「善意」である)、又はこれを知るべきであったという特段の事情もなく、代金を完済して自動車の引渡しを受けた場合には(A)が引渡しを請求する事は権利の濫用となって許されないことである

というような判断をしました。
これによれば、貴方は(A)の請求を拒む事が出来る事になります。

(民1、192条)


所有権留保

 そろそろ新車を買おうかと思い、オートローンを組んで乗用車を購入しました。しかし、車の所有者名義は私ではなく、ローン会社の名義になるとの事でした。
何故かと思い理由を聞いた所「所有権留保」をするかだそうです。この「所有権留保」とはどういった事なのでしょうか?


Ans
所有権留保とは、代金債権を担保するため、目的物の引き渡し後も所有権を売主やその代金を立て替えて支払った金融機関の所に留保しておくというものです。


担保としての機能

 簡単に言いかえれば、「所有権留保とは担保としての機能を有しています

 例えば、もし48回払いのローンを組んで車を購入したとします。
買主が15回目までしか代金を支払わなかったとすると、売主あるいは金融機関は、留保した所有権に基づき、車を引き揚げます。
そして、その車を売却すること等により残代金を回収します。
これが所有権留保の担保的な機能です。

 民法には、動産を売った時の売買代金を、売買の目的物によって担保する制度として「動産売買の先取特権」が用意されています。又、自動車抵当法という法律においては、自動車に抵当権を設定するという方法で債権を担保する制度もあります。

 しかし、どちらも実効性や使い易さといったところに問題があります。そこで、法律では予定されていませんが、必要性に応じてこの様な担保の形態が工夫されて出来たのです。
これが所有権留保という形です。


特約による所有権留保の設定

 所有権留保は、売買契約に付随する特約により設定されます
特約は口頭でもかまいませんが、通常は書面により細かく規定されています。
割賦販売法の適用を受ける割賦販売においては、特に特約がなくても所有権留保が確定されていることになっています。

 動産の売買において所有権留保が可能であるのに対して、不動産については、宅地建物取引業法43条によると、宅地建物取引業者が売主になる場合には、所有権留保売買が禁止されています。


売主側の担保権の実行

 代金の支払いがなされなくなると、売主は売買契約を解除して(金融機関が担保権者の場合はその必要はありません)商品を回収し、その価値で代金債権の回収をします

売主が売買契約を解除する場合には、割賦販売法5条の制約があります。
(これについては、このサイトの「取引と金銭貸借 2」ページ⇒ 「割賦・訪問販売についての法律」 → 「月賦払いが遅れてしまいました」を参考にして下さい)

回収された商品(当然に中古品となります)の価値は当然に目減りします。この目減り分が買主が既に支払った代金より少なければ、その分を売主又は金融機関は、買主に対して清算しなくてはなりません。

この時、この清算がなされない限り、買主は目的物の返還をしなくてもよい事になっています

これに対し、その目減り分が既払代金より多ければ、損害賠償の問題が残ります。
(これについても、このサイトの「取引と金銭貸借 2」ページ⇒ 「割賦・訪問販売についての法律」 → 「月賦払いが遅れてしまいました」を参考にして下さい)

(民法311条)
(割賦販売法5条、6条)
(自動車抵当法3条)
(宅地建物取引業法43条)


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