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相続・遺言

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相続に関する事

墓や仏壇と相続の関係

 先日私の父がなくなり、父の相続について兄弟の間で協議中なのですが、墓や仏壇は相続する事が出来るのでしょうか?


Ans
墓や仏壇は遺産相続の対象になっていません。
祭祀を継承する者が、墓や仏壇を引き継ぐ事になります。


先祖の祭祀財産の承継

 墓や仏壇などは、祖先の祭祀の為の財産となり、相続人による遺産分割の対象にはなっていません
ですから、祭祀財産は祭祀承継者が承継する事になっています
これはわが国における祖先崇拝の風俗を考慮した制度ですが、旧民法における家督相続が家の承継の為に祭祀財産を含めて相続の対象とした事とは区別して考える必要があります。


祭祀財産とは

 祭祀財産とは、系譜、祭具、墳墓をいいます

  • 系譜とは、家系図などの先祖代々の家系を書いた文書や図面の事です。
  • 祭具とは、仏像、位牌などの礼拝や祭祀に供するために欠く事の出来ないものをいいます。これらを納めた仏壇や神棚なども祭具になりますが、仏門、神社、仏閣は祭具になりません。
  • 墳墓とは、遺骸や遺骨を埋葬してある墓碑、埋棺、霊屋などの設備の事をいい、墳墓の敷地である墓地も、必要な範囲内のものは祭祀財産に含みます。


祭祀財産の承継

 祭祀財産は遺産分割の対象にはならないので、生前に処分する事も自由に出来ますし、相続人でない者や相続を放棄した者も祭祀財産の承継者となる事も出来ます

祭祀財産承継者が死亡した時に、次の承継者が誰になるのかは次のように決まります。

  1. 被相続人の生前の指定した者もしくは遺言による指定がある時はそれによる。
  2. 慣習がある時は、それに従います。慣習は、旧民法下の長男子による家督相続的な慣習ではなく、現在の民法下における慣習でなければなりません。
  3. 指定もなく慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所の審判により決められます。承継者となる者は、必ずしも被相続人と氏が同じである必要はなく、祖先の祭祀を承継するのに最も相応しいと思われる者に決まります。

     祭祀財産の承継者は、祭祀財産を承継したからといってい遺産相続の相続分が減らされる事はありません
    それとは逆に、祭祀財産を承継したのですから、法要などの祭祀にかかる費用を遺産から別に取得する事も出来ます。

(民897条)


亡き父のゴルフ会員権は相続の対象?

 先日、私の父がなくなりました。生前父はゴルフが大好きで、何処かのゴルフ会員権を持っていました。このゴルフ会員権を相続する事が出来るのでしょうか?


Ans
 ゴルフ会員権の会則の内容によって、相続出来るものと出来ないものがあります。

 
 ゴルフ会員権は大まかに分けると

  • 預託金会員制
  • 株主会員制
  • 社団法人制

の3種類があります。

預託金会員制

 一番多い会員権だと思われます。
預託金会員制のゴルフ場において、会員になろうとする者はゴルフ場と入会契約を結び、入会保証金を預託する事により会員となります

内容としては、
施設の優先的利用権、措置期間経過後の退会によって生じる預託金返還請求権、年会費を納める義務といったところでしょう。

この場合における相続については、ゴルフクラブの会則などの規定によります。会則に、相続が認められている場合には、当然に相続する事が出来ます。「会員が死亡した場合は、会員資格を失う」といった定めがある場合は、相続人はゴルフ会員権を相続する事が出来ません。

 しかし実際の運用では、ゴルフクラブの理事会の承認を得て相続を認めている所もあります。据置期間経過後に預託金の返還をうける権利は相続する事が認められています。

会則に、ゴルフ会員権の相続についての規定がない場合であっても、会則でゴルフ会員権を他に譲る事を禁止している様な場合は別として、理事会の承認を得ることを条件としてゴルフ会員権の相続が認められています。

株主会員制

 株主会員制のゴルフクラブにおいては、ゴルフ場の経営会社の株主であると同時にゴルフクラブの会員になります

この様な会員権はその株式と共に相続の対象になります

社団法人制

 社団法人制のゴルフ場においては、会員が社団法人の社員となり、その社団法人によりゴルフ場を経営する事になっています

ですから、このゴルフクラブ会員権は社団法人の社員権そのものですから、原則として一身専属的であり、相続する事はできません

しかし、社団法人の定款によって、例外的に相続を認めているゴルフクラブもあります。

 以上の事から、今回のご質問に対して、まずは亡き父が持っていたゴルフクラブ会員権がどのような内容のものなのかを調べてみる必要があります。



生命侵害による損害賠償請求権

 先日私の母は、信号無視をした無謀運転による交通事故で亡くなりました。遺族として加害者にどのような請求をする事が出来るのでしょうか?又、母が即死した場合と重傷を負いその後死亡した場合とでは違いがあるのでしょうか?


Ans
死亡による損害賠償請求権を財産的損害と慰謝料の両方について相続し、加害者に請求する事が出来ます。又、即死の場合と重傷を負いその後死亡した場合とでは差はありません。

生命侵害による損害

 他人の違法な行為で生命侵害による損害は、財産的損害と非財産的損害(慰謝料)に分けて考える事が出来ます

財産的損害には、葬儀費用、医療関係費や死亡した人の生命が奪われなければ相応の年齢まで働いて収入を上げる事が出来るので、その収入から生活費等を差し引いた逸失利益などがあります。

財産的損害賠償請求権の相続

 財産的損害は、それが発生する時点では本人は死亡しているので、死亡者本人は財産的損害賠償請求権を取得する事が出来ないこととなり、そうであれば相続と言う事もあり得ません。

しかし、重傷を負った後に死亡した場合には、重傷を負った事による損害賠償請求権が発生し、それが相続されることになりますので、即死の場合との不均衡が生じてしまいます。ですので、現在では即死の場合も含めて死亡者本人に発生した死亡による財産的損害の賠償請求権が相続人に相続されると考えられています

非財産的損害賠償請求権(慰謝料請求権)の相続

 非財産的損害とは、生命が奪われた事による精神的損害、すなわち慰謝料の事です。この慰謝料請求権については、財産的損害賠償請求権と同様に死亡者本人について慰謝料請求権が発生し、慰謝料請求権の性質から相続の対象にならないのではないかという事が問題になりました。

 この問題について、以前は精神的な苦痛に対する賠償請求権は本来主観的なものでその人限りのものであるが、被害者本人が賠償請求の意思を明らかにした場合に初めて相続の対象になると考えられてきました。

しかし、その後そのような考え方は即死の場合に救済の余地がなくなってしまうとの批判がなされ、現在では被害者が慰謝料請求権を放棄したなどの特別の事情がない限り、被害者本人が慰謝料請求権を取得し、それを相続人が相続すると考えられるようになっています

遺族の慰謝料請求権

 一定の遺族については民法711条により、固有の慰謝料請求権を認めていますので、死亡者本人の慰謝料を相続したものと、固有の慰謝料の両方を請求する事が出来ますが、その総額は、両方を請求する場合と一方のみを請求する場合とで、あまり差がない金額が認められます。

(民709条~711条、896条)



亡き夫の父が亡くなった場合の相続

 私には亡くなった夫との間に子供2人がいます。この度、夫の父が亡くなりました。この場合、私や子供達は相続人になるのでしょうか?


Ans
 あなたは相続人となる事は出来ませんが、2人の子供は亡き夫が相続するるはずだった相続分を、それぞれ2分の1の割合で代襲相続する事ができます。


代襲相続

民法によると、人が死亡した場合の相続人は配偶者の他に

  1. 被相続人の子
  2. 被相続人の直系尊属
  3. 被相続人の兄弟姉妹

の順に相続人になる事ができるとあります。

そして、1と3の相続人が、被相続人が亡くなる前に亡くなった場合、その直系卑属が相続人となる事が認められています。これを代襲相続といいます。その他に、相続人が相続欠格や廃除されて相続人の資格を失っている時も認められています。しかし、相続放棄をした時は、代襲相続は認められません


 今回の事に当てはめてみますと、あなたと夫の子(孫)は代襲相続をする事ができますが、あなたは相続人となる事は出来ません。


養子の子

 今回もし、あなたの夫が養子で、夫の父が死亡したとしたら、つまり、本来の相続人が養子の場合はどうなるのでしょう。

 本来の相続人(あなたの夫)に代襲原因がある場合に代襲する事ができる者は、被相続人(夫の父)の直系卑属に限られます。
被代襲者(あなたの夫)である子が被相続人の実子である場合は、被代襲者の子はすべて被相続人の直系卑属になりますので問題ありません。


これとは別に、子(あなたの夫)が被相続人の養子である場合には、養子縁組後の養子の子は、被相続人の直系卑属になりますので代襲相続をする事ができます。

しかし、養子縁組前に出生した養子の子は代襲相続をする事ができません。
この時、もし、妻であるあなたと夫が共に養子縁組をしているのであれば、妻には養子としての相続権があります。

(民887条~890条、901条)



相続できる財産は

相続できる財産とできない財産の違いは?

Ans
被相続人の財産に属した権利義務は、原則として相続の対象ですが、相続人の「一身に専属した権利義務」」は相続の対象になりません。

相続できる財産に関しては大よその見当はつくと思います。

  • 土地や建物といった不動産
  • 自動車、美術品のような動産
  • 借金
  • 借地権、借家権
  • 預金のような債権
  • 普通の保証債務
  • 株式会社の株主権
  • 合資会社の有限責任社員の地位

それでは相続の対象にならない一身に専属した権利義務とはどの様なものかといいますと

  • 身元保証債務
  • 責任の限度額や保証の期間の定めのない包括的保証債務 
  • 合名会社の社員権
  • 合資会社の無限責任社員の社員権

相互の信頼に基づくその人限りのものであると考えられる権利義務は相続の対象にならないという事です

この他に
生命侵害による損害賠償請求権(慰謝料も含む)は相続の対象になります。
生命保険請求権、死亡退職金、遺族年金は法律や契約で特定の者に指定されている場合には相続の対象になりません。
香典、祭祀に関する財産も相続の対象になりません。

(民896条、897条、899条)

借家権の相続

私は内縁の夫が借りている借家に一緒に住んでいましたが、内縁の夫が亡くなった事で引き続き借家に住む事が出来ますか?

Ans
判例によりますと
内縁の妻は夫に相続人がいる限り借家権を相続できませんが、相続人の相続した借家権を援用して借家に住む事が出来ます。
家主や相続人からの明け渡し請求に対して、特別な事情のない限り権利の濫用と考えられますので大丈夫です。

亡くなった内縁の夫に相続人がいない場合には借家法7条の2、借地借家法36条により、反対の意思を表示しない限り借家人の地位はそのまま内縁の妻に引き継がれます。

補足として、内縁の妻と同様に「事実上の養子」についても同じように考える事が出来ます。

(借家法7条の2、借地借家法36条)

共同相続人間の遺産の管理と利用

父が亡くなりました。私は父の了解を得て父の持ち家に、母は父と共に父の所有する家に住んでいます。兄が1人いるのですが、先日、私と母にそれぞれ建物を明け渡すよう言ってきました。どうすればいいのでしょうか?

Ans
貴方も、貴方の母も亡父所有の相続財産を占有する権限があると思われますので明け渡し請求に応じる必要はないと考えられます。

共有についての一般論

被相続人死亡後、遺産分割協議が成立するまで、共同相続人はその相続分に応じて遺産を共有する事になります。
一般論として共有関係にある時は
共有者はそれぞれその持ち分に応じて使用でき、範囲が定められていない限り全部について使用できます。
各共有者は
保存行為       ・・・単独で出来る
管理行為(利用、改良)・・・持ち分の過半数
変更行為、処分行為  ・・・共有者全員の同意

今回の場合

被相続人の生前中から被相続人の許諾を得て相続財産を占有している相続人は、被相続人との間で使用貸借契約を締結していたと考えられます。ですので、他の相続人は持ち分の過半数の同意を得て、かつ使用貸借契約の解除原因が認められる場合に限り、占有者に対して契約を解除して明け渡しを求める事が出来ます。

被相続人と同居していた相続人が引き続き相続財産を占有する場合
判例では被相続人と同居相続人との間に、被相続人死亡を始期とする使用貸借契約が成立しているものと考える事が出来るとしました。
ですので、他の相続人は同居相続人に対し賃料相当損害金を請求する事は出来ません。
明け渡しについてはご質問者の場合と同様な考え方です。

(民249条、251条,252条、898条、899条)
最判平10.2.26判事1634・74

生命保険金は相続財産なのでしょうか

受取人が妻と指定された生命保険金は相続の対象になるのでしょうか?また、保険金を受け取ったとしたら、その分は本来相続によって取得する額から差し引かれるのでしょうか?

Ans
生命保険金は相続財産ではなく、相続の対象になりません。ただし、相続人が取得した生命保険金における、被相続人が支払った保険料若しくは被相続人死亡時に仮に解約した時の解約返戻金の額が、特別受益として持戻しの対象になるという考えがあります。

生命保険金と相続はよく似ています。その大きな違いは生命保険金は保険契約で個別に定めた契約であるのに対して、相続は法律で定められたものであるという事です。
私的な契約と法律で定められたものとが、被相続人から相続人に何等かの財産が移るという点が似ている事で、様々な問題、疑問が生じてしまいます。

生命保険契約の内容

生命保険契約にはいろいろな形態のものがありますので、それぞれについて相続財産であるかどうかの考えを以下に述べてみたいと思います。

  1. 被相続人が被保険者となる生命保険契約で、受取人が相続人中の誰か特定の者である場合
    この場合、受取人として指定されたものは「第三者のためにする契約」である生命保険契約により、生命保険金を固有の権利として取得できます。つまり、相続財産ではないという事です。
  2. 被相続人が、生命保険金の受取人を「相続人」と指定した場合
    この場合、保険金請求権発生当時の相続人たる個人を特に受取人として指定したものであると考えられます。この場合も、相続により取得したものではない事になります。
  3. 保険金受取人の指定がない場合
    この様な場合は、保険約款によります。
    例えば、被保険者の相続人を受取人にしたり、被保険者の配偶者、子等の順位に従って受取人としているようです。この場合も相続財産にはあたらないと考えられています。これに対し、保険約款で、保険金受取人は民法の規定を適用するとされている場合は、保険金請求権は相続財産になるという考え方と受取人固有財産であるという考え方との争いがあります。
  4. 被相続人が自分を受取人にした場合
    この様な場合は、受取人がいないという事になりますので3の場合と同様な考え方ができます。
  5. 被相続人が指定した受取人が被相続人より先に死亡していて、被相続人が受取人の再指定をしないで死亡した場合
    商法の規定により、指定受取人の相続人が受取人になります。この場合の指定受取人の相続人は受取人が死亡した時の相続順位に従い相続人となる者です。この場合も、固有の権利として生命保険金を取得するものとされています。

このように、一般的には相続とは無関係に取得したものですから受取人の固有財産であり、遺産分割の対象ではないという考え方です。

特別受益の持戻しと生命保険金との関係

特別受益というのは、相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けた者がいる場合、これらを特別受益として相続分の前渡しを受けたものとして取り扱う事をいいます。特別受益を受けた者が、この利益を遺産に戻して相続分を計算する事を、特別受益の持戻しといいます。

生命保険金は相続人が生前に保険契約により保険料を支払い、受取人を指定する事により受取人が保険金を取得するという仕組みです。
実質的に考えますと、被相続人から保険金受取人に対して贈与あるいは遺贈があったとみる事も出来ます。
これが、遺産分割の際に特別受益としての持戻しの対象になるのではと考える理由です。

この問いに対して最高裁は

死亡保険金請求権の取得の為の費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生する事等に鑑みると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認する事の出来ないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である

として、原則的に特別受益として取り扱わなくてもいいと判断しました。

そして、裁判所の判断のいう「特段の事情」の有無とは
保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率が重要な事情として考慮されると言われていて、その他に、同居の有無、介護等に対する貢献の度合い、被相続人と相続人との関係等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとしました。

(民896条、903条)
(商法676条)

銀行預金の相続について

亡き父が遺した銀行預金をどのように相続すればいいのでしょうか?

Ans
相続人全員で預金を含めた遺産分割協議書あるいは、預金の払戻請求書を作成して銀行に提出し、払い戻しを受けます。又協議ができない時は遺産分割調停、審判で相続人全員が預金を分割の対象とする事に合意し遺産分割の対象とします。

判例の立場と調停、審判の立場

判例は
 銀行預金等の金銭債権は支払いを分ける事ができるので分割債権であり、分割債権は相続の始まりと同時に法律上当然に分割され、各相続人が相続分に応じて権利を取得するので、遺産分割の対象とはならない。という立場をとっています。

しかし、家庭裁判所の遺産分割調停、審判では
 相続人全員が預金債権を遺産分割の対象とする事に合意し、且つ、預金債権を含めて分割をする事が相続人間の公平を実現すると考えられる場合には、預金債権を分割の対象にする事を認めています。

それはそうですよね、分割する事が出来ない相続財産を適切に分割する事が出来ないのですから。

金融機関で払い戻すには

 金融機関の実務では、相続人から相続分に応じた預金債権の支払いを請求されてもこれに応じてくれません。
相続人全員が署名した遺産分割協議書若しくは払戻請求書と、相続人全員の印鑑証明書の提出をしなければ払い戻さないという運用をしています。


遺言に関する事

遺言の撤回をする事が出来るか

 私の亡き後の財産についての処遇について考えていた事があったので、遺言を作成しました。
しかし、作成した遺言を撤回したいのですが、どのようにすればいいのでしょうか?


Ans
 遺言はいつでも、理由の如何を問わず自由に撤回する事が出来ます。
新しく遺言を作成してその中で前の遺言を撤回すると書く方法があります。その他に、前の遺言が撤回されたものと扱われる場合がいくつかあります。


遺言の撤回の事由

 遺言はいつでも自由に撤回する事が出来ます
これは、遺言者の最終意思を尊重する為です
法的にも遺言は遺言者の生前には何らの効力も発生しませんので、自由に撤回する事を認めても何の支障がありません。

撤回する時の理由についてもどのような理由でもかまいません。気が変わったという理由でも構わないのです。
その意味で撤回は詐欺や強迫を理由とする一般的な取り消しとは異なります。


遺言の撤回方法

 遺言の撤回を明示で行う方法として、新しく遺言を作成し、そこに前の遺言を撤回すると書く事によってする方法があります
その他に、遺言が撤回されたとみなされる場合として次のような事があります。

日付の異なる、内容の相矛盾する遺言が2つ以上ある時は、後の遺言で前の遺言を撤回したものとして扱われます。
後の日付の自筆証書遺言により、前の日付の公正証書遺言が撤回されたとみなされる事もあります。

遺言をした後に、遺言者が遺言の内容と矛盾する処分などをした場合にも、遺言は撤回されたものとして扱われます。
 例えば、ある物権を遺贈する内容の遺言を作成した後に、その物件を第三者に売却してしまったような場合です。

遺言者が遺言書を故意に破ったり、焼いたりした場合にも、遺言は撤回されたものとして扱われます。
ただし、公正証書遺言は、その原本を公証役場で保管してありますので、遺言者の手元にある正本や謄本を破棄しても撤回したものとはみなされません。

遺言者が遺言書に書いた遺贈の目的となっている物件を破棄した時にも、遺言は撤回されたものとして扱われます。


取消事由のある遺言の取消し

 こうした遺言の撤回とは別に、特別の理由に基づく遺言の取消しが認められるのかという事も問題になります

例えば、詐欺や強迫を理由に遺言の取消しを認めるべきかという問題です。
これについては、遺言の撤回は理由の如何を問わず自由に出来ますので、あえて特別の理由に基づいて取消を認める実益はないという考え方があります。

しかし、遺言者の死後、その相続人による取消しを認める必要がある事から、撤回とは別に詐欺、脅迫等、特別の理由に基づく取消しを認めるのが一般的です。

(民1022条~1024条)


夫婦共同で遺言書を作成したいのですが

 私たち夫婦は老後の事を考えて、共同で遺言書を作成したいと思っています。この遺言書は法的に有効なものになるのでしょうか?

Ans
 たとえ仲の良い夫婦であっても、同一の証書で遺言を作成する事は禁止されています。この様な遺言を「共同遺言」といいますが、わが国では無効になってしまいます。

共同遺言の禁止

 同一の証書で、2人以上の者が遺言をする事を「共同遺言」と言います。共同遺言が認められている国もありますが、わが国の民法ではこれを禁止していますし、共同遺言をしても全部無効になってしまいます。

共同遺言の禁止の理由

共同遺言が認められない理由として

  • 遺言はその者の自由な意思によってなされる事が保証されなければならないが、共同遺言の場合は、他の遺言者の意思により制約されてしまう場合があり、自由な意思に基づいたものとは言えなくなる
  • 遺言は撤回に自由が保障されなければならないが、共同遺言の場合は、各自が自由に遺言を撤回する事ができなくなる
  • 共同遺言でなされた2つ以上の内容が相互に関連している場合、一方が失効した時に他方が無効になるのか、それとも引き続き効力を有するのかという問題が生じる

であると言われています。

内容が独立した共同遺言

 又、同一の書面に2人以上の遺言が書いてあり、その内容がそれぞれ全く独立して遺言として切り離せる場合は、共同遺言に当たらないという考え方もあるようですが、全く独立していると言えるかどうかは遺言の内容により相互に関連する場合もありえるという問題が生じますので、同一の書面に遺言を書く事を避けた方がいいでしょう

しかし、同一の証書ではなく、別々の書面に遺言を書き、それを1つの封筒に入れる事は共同遺言になりません。

別々の遺言のそれぞれの内容が相互に関連する場合

 2人以上の者の遺言が別々の書面でなされている場合で、それぞれの内容が相互に関連する場合について、共同遺言に当たるのかどうかという問題があります。

共同遺言の禁止には立法論的な批判もあるようですし、相互に遺言の内容が関連性のある内容になってしまう事もあります。

 しかし、個別の書面でなされた遺言にまで共同遺言の禁止の趣旨を当てはめる事は妥当ではないと思われます

相互の関連性のゆえに矛盾が生じたり、その効力に疑問が生じてしまう場合には、個別的に遺言の効力を考えれば足りると思われます。

(民975条)

自筆遺言書の金額の訂正

 父が自筆遺言書を残して亡くなりました。その遺言書中に3000万を2000万に訂正した箇所がありました。訂正の仕方は、「3」を「2」に直した所に印が押され、遺言書中に訂正した事が書いてあります。この遺言は有効なのでしょうか?

Ans
 定められた方式により加除変更がなされていませんので、訂正の効力は認められません。しかし、訂正前の遺言の記載、つまり3000万円の記載のある遺言として有効だと思われます。

加除その他変更の方式

 遺言書中に加除その他変更を加える場合には、遺言者の真意を確し、遺言の変造を防ぐ目的で、一般の証書の訂正の方法に比べて厳格にしなければなりません

今回の場合を例(3を2と訂正する)にとりますと、

  • 「3」を削除して「2」を挿入した所に押印
  • その行の欄外に「この行一字加入、一字削除」と付記し、署名又は、遺言書の末尾に「この遺言書の第○○行中に「3」とあるのを「2」と訂正した」と付記し署名

といったようにします。

方式違反の効力

 定められた方式により加除変更がなされていない場合は原則としては、加除変更は無効であり、加除変更前の遺言が有効なものになります

とはいっても、加除変更前の遺言が有効となるのは、もとの遺言の記載が判読する事が出来る場合で、かつ加除変更部分を除いて、もとの記載のみで遺言の趣旨が理解できる場合に限られ、そうでない場合は遺言全体が無効になる事があります。

判例では、自筆証書中の証書の記載自体から見て明らかな誤記の訂正については、たとえ方式違反の訂正であっても遺言者の意思を確認するについて支障がないならば、この方式違反は遺言の効力に影響がないとしたものがあります。

加除訂正に関するその他の問題

その他の問題点として少し挙げてみますと、

  • 加除訂正の方式は、遺言書が完成後、暫くしてからこれに加除変更をする場合だけでなく、遺言者が作成する過程で訂正する場合にも必要です。
  • 加除変更の際に押される印鑑はもとの遺言書で使用した印鑑と同一でなければならないかについては、印鑑が異なっていても遺言者の印鑑であることが立証されれば、その加除変更は有効なものと考えられています。
  • 加除変更の際に署名に用いる氏名は、もとの遺言者の氏名と同一でなければならないかについては、遺言者の署名である事が確認できれば、異なる氏名、例えば通称等が使用された場合にも有効であると考えられています。

(民968条)

押印の代わりに指印を押した自筆証書遺言の効力

父が亡くなり、全財産を私に与える旨の自筆証書遺言を残していたのですが、その遺言には印象による押印ではなく拇印のみが押されていましたので、兄は遺言は無効だといいだしました。本当に父の遺言は無効なのでしょうか?

Ans
 印章による押捺に代えて拇印その他指印による押印であっても、自筆証書遺言として有効であると考えられます。

自筆証書遺言

 遺言は民法の定める方式に従ってしなければならず、この方式に違反した遺言は無効とされています。
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書し、押印を要します。
この押印として印象による押捺をする必要があるのか、印章に代えて拇印その他の指頭に墨や朱肉等をつけて押印する事で可能なのかという事が今回の問題となっています。

自筆証書遺言の趣旨

 自筆証書遺言の方式の趣旨は、遺言の全文等の自書と遺言者の同一性と真意を確保する事にあります。もう1つは重要な文章については、作成者が署名したうえ押印する事により文章を完成するという日本の慣行ないし法意識に照らして、文章の完成を担保する事にあります

 今回の場合は、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書する事により遺言者の真意の確保をする事ができており、一般的に実印による押印が必要のない文章については、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同様の意義を認めている日本の慣行ないし法意識に照らしてみると、文章を完成させる機能において拇印や指印でも可能という事ができ、有効であると考えられます。

 しかし、指印が遺言者のものであるかどうかが問題になった場合には、実印等に比べて遺言者のものであるという確認が困難な場合がありますので、遺言者の印章である事の証明がしやすい実印などを使用する事が望ましいでしょう。

(民960条、968条)

自筆遺言はどの様につくるのでしょうか

公正証書遺言は手数料が高いので自筆証書遺言を作成したいと考えているのですが、どのようにすればいいのでしょうか?

Ans
遺言の内容の全文、日付、氏名を自筆で書き、印を押す事によって作成します。

作成の仕方、注意点

  • 自書すること
    遺言の内容全文、日付、氏名
    タイプ、ワープロで記したものや代筆、日付印を使用、これらをしてしまうと無効になります。
  • 日付
    日付の書かれていない遺言は無効です。
    2通の矛盾する遺言が発見された場合、有効となる、後で作成されたものをはっきりさせるため
  • 加除・訂正
    一定の方法を守らなければなりません。
    ①変更した場所に印を押し
    ②その場所を指示して変更したことを付記し
    ③付記した後に署名

方式が厳格に定められていますので十分注意が必要です。

(民960条、968条)

公正証書遺言はどのようにつくるのでしょうか

公正証書遺言は偽造・変造・紛失の危険もなく裁判所の検認もいらないと聞きました。どの様に作成するのでしょうか?

Ans
原則として、公証役場に出向き、証人の立会いのもとで、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で述べ、これを公証人が筆記して作成します。

公正証書遺言は方式違反、偽造、変造などで無効になる可能性がほとんどなく確実な方式です
反面、原則として公証役場にでむき、手数料を払う必要があります。また、証人2人の立会いのもとで行われるので遺言の内容と存在を完全に秘密にする事は出来ません。

作成手続き

 
証人2人の立会いのもと遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で述べ、公証人がこれを筆記し、遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させます。

遺言者と証人が筆記の正確な事を承認し、各自が署名、押印します。


公証人が以上の方式により証書が作成された事を付記して署名押印します。

この様に作成されますと原本は公証人役場に保存され、必要に応じて謄本の交付を受ける事が出来ます。

証人の資格

次のような者は証人になる事が出来ません

  1. 未成年者
  2. 推定相続人、受遺者およびこれらの配偶者、直系血族
  3. 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および雇人

(民969条、969条の2、974条)

公正証書遺言は口がきけない方や耳が聞こえない方も作成する事が出来るのでしょうか

父は言葉を発する事が出来ません。先日、父を介助していた人を通じて公正証書遺言を作成したのですが、有効なのでしょうか?

Ans
口がきけない方が遺言の内容を公証人に述べる代わりに、介助をしていた人の通訳により伝える方法は手話だけではなく、介助していた人が、経験則により通訳できる場合でも有効になると考えられます。

口がきけない方は、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は筆談により口述に変える事が出来ます

耳が聞こえない方の場合は、読み聞かせの代わりに通訳人の通訳又は閲覧により、筆記した内容を確認する事が出来ます。

一般的には手話通訳によりますが、本人の意思を確実に他方に伝達する事の出来る者であればかまいません。

(民969条の2)

相続させる」の意義

父は遺言で、「土地、建物を私に相続させる」と書いてくれました。
この場合、わたしは遺言によって土地、建物を私の名義にする事が出来るのでしょうか?

Ans
特定の財産を特定の相続人に「相続させる」という遺言は遺産分割方法の指定と解され、この相続人は単独で所有権移転登記手続きをする事が出来ます。

遺言書で特定の財産を特定の相続人に「相続させる」という表現がよくなされます。
このような表現を使う意義としては
遺言に基づき、所有権移転登記をする際の登録免許税が安く済む

  • 「遺贈する」という遺言の時は、不動産の固定資産税評価額の1000分の20ですが、「相続させる」という場合には1000分の4で済む

登記原因は「相続」なりますので、当該相続人の単独申請することができること

  • 相続人に「遺贈する」という場合には相続人全員の共同申請ですが、「相続させる」という場合は当該相続人の単独申請でできる

が挙げられるかと思われます。

これらは相続人に対しての場合であり、相続人以外の第三者に対するものは「遺贈」の扱いになります

遺言で「相続させる」の法的意味について

遺言で「相続させる」という表現がなされた時どのように解すべきなのでしょう?

  • 「遺産分割方法の指定」と考えるのか「遺贈」と考えるのか?
  • 「遺言の効力発生と同時に所有権は移転する」のか、それとも「遺言ではなく遺産分割協議を要しないと移転しない」と考えるのか

下級審ではどちらもありましたが、最高裁は平3年4月19日判決において次のような判断をしました。

  1. 遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り遺産の分割の方法を定めたものである
  2. この様な遺言にあっては、当該遺言において相続による承継を当該相続人に受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、なんらの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続に承継される

と判断しました。
「相続する」は遺産分割方法の指定と解すると同時に遺産分割協議や家庭裁判所の審判を経ることなく承継される事を認めたものです。

(民908条)
最判平3.4.19判時1384.24

臨終の際に遺言をするにはどうしたらいいのでしょう

夫が亡くなる前に、妻、子供達、親戚の人達を呼んで、夫名義の土地、建物を妻のものにすると言い遺して亡くなりました。
この様な場合、有効な遺言にする為にはどうしたらいいでしょうか?

Ans
一般危急時遺言としての方式を充足すれば、有効な遺言となります。

病床にある人、死期が差し迫った人などが家族を呼んで遺志を伝えるという事はよくあることです。しかし、法律にのっとって(有効な遺言として)故人の遺志を残された家族のために伝える為には、一般危急時遺言(臨終遺言)の方式を満たさないといけません。

一般危急時遺言

一般危急時遺言は、死の危険が迫った人に、口頭による遺言という簡易な方式で遺言を認めるものですが、遺言者の真意を確保するために家庭裁判所の確認の審判を得なければなりません。

一般危急時遺言の作成

作成方式は

  1. 死亡の危急に迫った遺言者が、3人以上の証人の立会いをもって、証人の一人に遺言の趣旨を口頭で述べる(遺言の口述)
    遺言者と立会い証人との口頭による問答により、遺言者が特定の遺言をする意思がある事が明らかになれば、遺言の趣旨の口述があったものとみなされます。首を左右に振る程度では認められません。
  2. 口述を受けた証人の一人がこれを筆記して、遺言者と他の証人に読み聞かせる
  3. 各証人が筆記の正確な事を承認する
    承認した後は立会人は、必ず署名押印しなければなりません。

家庭裁判所の確認

一般危急時遺言は遺言の日から20日以内に立会い証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して確認の審判を得なければなりません。(遺言書が遺言者の真意に沿うものかを判定するもの)

臨終の危機を脱して普通方式による遺言をする事が出来るようになってから6ヵ月間生存するとその効力はなくなります。
この場合は、なるべく早く、自筆証書遺言、又は公正証書遺言等の遺言をしておいた方がよろしいかと思われます。

(民974条,976条、982条、983条、)

ワープロや代筆による遺言、声を録音した遺言等について

私の亡き後の家族の事を考えて遺言をしたいのですが、自分で書かずに代筆、ワープロ、タイプ、録音、ビデオテープ等で遺言をする事ができるのでしょうか?

Ans
自筆証書遺言は貴方自身が自書する事が要件となっていますので、それ以外の場合は無効になってしまいます。

自筆証書遺言は遺言者が本文、日付、氏名を自分で手書きで書かなくていはなりません。その理由として、自書する事により筆跡で本人が書いたものである事を判定でき、それ自体遺言が遺言者の真意に出たものである事を保証する事ができるからです。
病気や文盲のため字が書けない人が遺言をする際には、本人が自書しなくてもいい、公正証書遺言を利用する事になります。

 民法の定める遺言が自筆証書、公正証書、秘密証書という、書面による事を前提としています。声を録音したり、ビデをで撮影して遺言をしても最終の意思表示を判定する事は可能でしょう。しかし、現代では録音、録画テープなどを偽造、変造する事は容易にする事ができます(テープを一部カットして繋げたり)ので、遺言者の真意に出たものである事を保証する事ができません。
以上から、録音、録画による遺言は無効となってしまいます。

(960条、968条)

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