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隣近所に関する法律

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隣り合った土地の問題

賃借地上の建物の工事における隣の土地使用

 私は土地を借りて家を建てたのですが、最近、雨漏りがするので補修工事をしようと考えています。
しかし、補修工事をするには隣の土地に足場を建てる必要があります。賃借人の私に隣地の土地の使用を頼む事が出来るのでしょうか?
又、隣地も賃借地のときは、誰にその事を頼まなければならないのでしょうか?


Ans
 賃借人であっても、隣地の使用を請求する事が出来ます。
そして、隣地も賃借地の場合には、所有者ではなく、現実に隣地を使用している賃借人に請求しなければなりません。


隣地使用請求権

 土地の所有者が自分の敷地内で建物の建築などをするために、必要がある時は隣地の使用を請求する事が出来る事は「工事の為に隣の土地や家を使用したい」で説明しました。

今回のポイントは、土地の所有者ではなく、土地の賃借人にもこの隣地使用請求権があるのか、又隣地も賃借地の場合、隣地の所有者に請求すべきなのか、それとも賃借人に請求すべきなのかということです


民法209条

 隣地使用権を定める民法209条1項は

土地の所有者は、境界またはその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕する為に必要な範囲内で、隣地の使用を請求する事ができる。但し、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入る事は出来ない

と規定しています。

そして民法267条においては
民法209条の規定は「地上権者間または地上権者と土地の所有者との間において準用する
と規定しています。

これらの文言からすると、隣地使用の請求をする事が出来るのは、土地の所有者つまり、地主または地上権者であり、賃借人ではないと解されます。
しかし、判例や通説においては
「そもそも隣地使用権が認められたのは、相隣接する土地の利用の調整のためであり、所有権の調整ではありませんので、賃借人や使用借権者等の債権的利用権を有する者にも認められる」としています。

ですから、借地人が賃借地上の建物の補修等に隣地を使用する必要がある時は、賃借人自身が隣地の使用を請求する事が出来ると解されます。


請求すべき相手

 隣地も賃借地の場合、隣地使用権の請求する相手は隣地の所有者かそれとも賃借人かというのが問題となります

隣地使用権が認められる趣旨は、先程の判例・通説の考え方を基礎とすれば、相隣接する土地の利用の調整のためですから、現に土地を利用している賃借人を相手とすべきであるという事になります。

(民法209条)


工事の為に隣の土地や家を使用したい

 この度、家を増築する事になりました。しかし、敷地が狭いので足場を組むためには隣の土地を使用しなければなりません。また、工事中、大工さんが出入りするのに隣の家の中を通る事が出来れば助かります。この様な事を隣人に請求する事が出来るのでしょうか?

Ans
 境界やその付近において塀や建物の建築や修繕を行う場合、必要な範囲で隣地の使用を請求する事が出来ますが、家の中の出入りについては、隣人の承諾がない限りする事が出来ません。

隣地使用権

 自分の敷地内で建物の建築などをする場合、敷地が手狭ですと隣地に足場を組んだり、一時的に資材置き場として使わせてもらわなければならない事があります

そうした時、隣地の使用が認められないと土地の十分な利用が出来ない事になり不都合です。

民法は、境界やその付近において塀や建物の建築や修繕をする際に、必要がある限り、隣地の使用を請求する事が出来ます。
しかし、今回の質問の後段にある、家の中の立ち入りについては、その居住者のプライバシーの保護の問題がありますので、その承諾がない限り認められません。

隣地の使用と原状回復

 隣地をどのように使用できるかについては、境界やその付近において

  • 塀や建物の建築や修繕
  • 植樹
  • 水道管施設工事

等をする際に必要な範囲に限り出来ると解されています。

そして、これらいずれの場合にも、使用後は原状回復をする措置をとる事は言うまでもありません

原状回復が困難であったり、可能であっても隣地に著しい損害を及ぼす行為は、隣接する土地相互の利用を調整する隣地使用権の範囲を超えるものとして認められないと考えられています。

隣地の使用を請求する相手方

 隣地の使用を請求する相手方は、実際に隣地を使用している者です

したがって隣地の所有者とは限りません。
もし、隣地の使用者が隣地の使用を承諾しない場合は、隣地の使用者を相手として、隣地の使用の承諾を認める訴訟を提起し、その承諾に代わる判決を得る必要があります。

この判決では、隣地使用の必要性、立ち入りの範囲などについて判断されます。

補償金支払い義務

 隣地使用権は隣接する土地相互の利用を調整するためのものです。隣地を使用して隣地に損害を与えた時は、その補償をする事が公平な考えです。
したがって、隣地の使用者(敷地の使用を承諾した者)は、隣地の使用に伴って生じた損害の補償を請求する事が出来ます。

 この場合、その補償の請求において、損害の発生について相手方(敷地を使用した者)に故意過失がある事は必要ありません。(「賠償」ではなく「補償」である事に注意)

(民209条)


隣の屋根から雨だれが敷地内に直接降りそそいでいるのですが

 隣の家の屋根は境界線ぎりぎりまで突き出していているにもかかわらず、樋もありません。ですから、雨が降ると隣家の屋根から雨だれが私の敷地内に直接降りそそいできます。隣家の人に樋を設置するよう申し入れる事が出来るのでしょうか?

Ans
 土地の所有者は、隣地に雨だれが直接降りそそぐような工作物を設ける事が出来ませんので、屋根に樋を取り付けるなど隣家に請求する事が出来ます。

隣地への雨だれの禁止

 雨が降ってくるのを防ぐ事はできません。降った雨が隣地に直接降りそそぐと、雨水の水圧により地面に穴をあけたり、建物に被害をおよぼす事が予想されますので、隣地や隣地上の建物の安全上少なからぬ影響があります。

このため、この様な工作物を設ける事は禁止されています
たとえ屋根が敷地内にあっても樋などがないために隣地に直接雨が降りそそぐ事がありますが、そのような屋根についても違反です。

屋根自体の撤去を請求

 それでは、隣地に雨が降り注ぐような屋根であるなら、その様な屋根の撤去を請求する事が出来るのでしょうか

隣地に雨だれを降り注がせるような意図的に作られた屋根なら、その撤去を請求する事が出来ると思われます。しかし、建物の建築にそよの様な意図はなく、建物自体は土地の正当な利用の範囲内のものだというのであれば、樋などを設置して隣地に雨だれが直接降りそそぐのを防ぐように請求する事が出来ることになります。

費用の負担

 樋などを設置する費用は誰が負担するかについては、隣地に雨だれが降り注ぐ原因となった工作物を作った者がこれを負担すべきである事は言うまでもありません

又、相手方が任意に応じないときは、隣地所有者は相手方に樋などを設置するよう命ずる判決を得て、その判決に基づいて相手方の費用負担で判決の命ずる樋などの設置を行う事になります。

(民218条)


自宅の人の出入りが映る監視カメラの設置

 隣家と争いが続くようになってしまったのですが、最近、隣家が私の家の出入りを監視するためだと思うのですが、隣家の玄関先に監視カメラを設置しました。監視カメラの向きは私の敷地は映らないのですが、私の家の出入りする者は必ず監視カメラに映るようです。家の中を覗かれている訳ではないのですが、なんとなく気分が悪いです。この様な場合、監視カメラの撤去を請求する事が出来るのでしょうか?

Ans
 監視カメラの撮影範囲が居宅前の私道部分であっても、居宅から出入りする際には必ずそこを通行する場合であるならば、敷地内におけるのと同様にプライバシーの保護を受ける事ができ、監視カメラによる継続的撮影は違法であるとした裁判例があります。

監視カメラとプライバシーの侵害

 防犯目的で、自宅の敷地やその周辺道路をなどを撮影する監視カメラを設置する家が増えてきています。この様な場合には自宅周辺部分に限られていますし、監視カメラも目につく所にありますので、撮影範囲を避けて通ろうとすればできる場合が多いと思われますので、プライバシー等の侵害が問題になる事は多くはないでしょう。

 しかし、近隣トラブルの証拠集めの目的とか、相手方を威圧する目的などで監視カメラを設置する場合は、相手の方の行動を把握できるように相手方の住居、敷地またはそれに近接する範囲を撮影できるように設置される事が多いと思われます。

 こうなりますと、証拠の収集に正当な目的があったとしても、相手方のプライバシーを侵害する事を正当化することができるのかどうかという問題が生じます。

裁判例として

 私道を挟んで隣接する家の家人が、生活騒音等に腹を立て、隣家の人の出入りを監視するため、隣家の玄関、駐輪場が接する私道を撮影するために監視カメラを設置し、継続的に監視したという事案で

裁判所は、

本件監視カメラの撮影対象となった私道部分は、隣家の延長空間として隣家の日常生活に密着した空間であるというべきであり、そのプライバシーを侵害するような態様で監視カメラを設置して継続的に監視する事は、隣接の居住者に対し社会通念上受忍すべき不利益の程度を超えた不利益を与えるものである

として、監視カメラの設置は隣家のプライバシーを違法に侵害するものであるとしました。
監視カメラの設置を考える際には、防犯目的であったとしても、他人の自宅を覗き見るようなことまでは許されないのではないかと思われます。

(東京地判平21・5・11判時2055.85)


袋地と他人の土地

袋地となっている土地を相続しました。この土地に住もうと思っているのですが、通路はどうすればいいのでしょうか?



Ans
袋地の所有者は、公道との間にあり袋地を囲んでいる他の土地を通行する事ができます。場所としては袋地にとって必要である事と周囲の土地に及ぼす損害を最小限にとどまる範囲に通路を作る事ができます。

隣地通行権(袋知通行権)

周囲を他人の土地に囲まれている、公道と土地の間に大きな段差がある等のために直接公道に出る事の出来ない土地を袋地といいます。
袋地の所有者は、その利用を保証するため周囲の他人の土地を通行する事ができます。しかし、周囲の他人の土地に対して少なからぬ迷惑とかける事は否定できませんので、他人の土地に及ぼす損害が最小限度になる範囲で認められています。

通行料

周囲の他人の土地の所有者は、袋地の利用のために通行権を認めて通行される事による不利益までも甘受しなければならないわけではありません。ですから、袋地の所有者は周囲の他人の土地を通行するのに通行料の支払いをしなければなりません。
しかし、袋地ができた原因が、共有地を分割したためとか、土地を分筆したためである等の場合には、袋地になる事がわかっていたわけですから無償で通行できます。この場合、通行できるのは共有物の分割や分筆により袋地となった土地と一体であった残りの土地に限られます

(民210条~213条)


境界を越えた「枝」を切り取れるか

隣の家の木の枝が私の家の敷地まで張り出していて、落葉の清掃が大変です。私が勝手に張り出した枝を切り取ってもいいのでしょうか?


Ans
境界を越えて張り出している枝については、その所有者に対して枝を切るように請求する事は出来ますが、勝手に切る事は出来ません。

(民法233条)


境界を越えた「根」は切り取れるか

家の隣にもう一軒建て増そうとして基礎工事をしたら隣の立派な木の根が境界を越えて延びていた為に工事が出来ません。勝手に切り取っていいのでしょうか?

Ans
境界を越えて延びてきた根は、その木の所有者の承諾を得なくても切り取る事が出来ます。
しかし、むやみやたらに切り取る事が出来る訳ではなく、建物建設の必要上延びている根を切り取るという事でしたら大丈夫です。
補足として、根を切り取る事により木が枯れるという事が明らかな場合は、木の所有者に対して植え替えの機会を与える程度の配慮が必要です。
(233条2項)


境界に塀をつくる

私が住んでいる隣の空き地に建物が建つようです。境界線上に塀をつくりたいと思っているのですが、どうすればいいのでしょうか?



Ans

境界線上に塀をつくる場合、隣接した建物の所有者が、どの様な塀をつくるかを協議し、費用は2分の1ずつ負担してつくる事が出来ます。

各自が自分の敷地に自分の費用で塀をつくる事は当然出来ますが、境界線上に塀を設置する場合、隣接する建物所有者が共同の費用で塀をを設置する事が出来ます。

塀をつくるよう請求する事ができる権利は「建物所有者」に認められた権利です。土地の所有者には認められていません。また、隣に建物が建っていない場合に、隣地の所有者に請求する事は出来ません。

どの様な塀を設置するかは建物所有者同士で定める事ができ、協議がととなわない場合は、塀はいた塀か竹垣とし、高さは2メートルとしなければなりません。

協議がととなわない場合に勝手に塀を設置して後から費用半分を請求する事ができるのかと言いますと、その様な事も出来ません。

通常は、相手方を被告として、共同の費用をもって塀をつくることを命じる判決を得たうえで、その判決に基づいて塀をつくり、相手方に、要した費用半額を請求すべき事になります。

(民225条~228条)




隣の家の塀が越境していて、長期間放置した場合

隣家のブロック塀が私の土地にはみ出しているように思うのですが、このまま放置するとどうなるのでしょうか?

Ans
塀が越境している時は、その越境している部分の撤去を請求する事が出来ます。また、そのまま放置してしまうと越境している部分の土地の所有権が時効により取得されてしまうおそれがあります。

境界を超えてはみ出している部分は、隣地の所有権を侵害しているのですから、隣地の所有者は、はみ出している部分の撤去を請求する事は言うまでもありません。

取得時効

では、そのまま放置してしまった場合はどうなるのでしょう?
あまりに長い期間放置してしまうと、法律上の根拠に基づかない場合でも、その状態を覆す事はかえって混乱を招く事になりかねません。
(撤去を請求する事ができる)権利がるのにその権利を使わない。
権利の上に眠るものとして保護するに値しない≫と考えられます。
 
そこで、一定の継続した状態を保護する時効という制度があります。
今回の場合、隣地の塀がはみ出た部分の土地の所有者の制止を無視して強引につくられた等の事情もなく、平穏公然と行われ、塀の位置までが自分の土地であると無過失に信じていたものは、その様な状態が10年継続すれば、その所有権を取得する事ができてしまいます。
また、善意無過でない場合で、20年間継続してしまっても同様です。

取得時効を防ぐには

取得時効を防ぐには、所有の意思をもってする占有の継続を中断する事が必要です。つまり、はみ出ている塀を撤去させるか、塀が隣地にはみ出ている事の確認と、しかるべき時期にその撤去を約束する念書
を作成してもらう事です。

(民147条、162条、164条、186条)


地震により擁壁が倒壊して生じた損害

隣家との境にある擁壁が地震で倒壊して私の家の壁が壊れてしまいました。この場合、損害の賠償を請求する事ができるのでしょうか?



Ans
擁壁が必要な強度を備えていない等の瑕疵がある場合は、その占有者に対して損害の賠償を請求する事ができ、占有者が損害の発生を防止するのに必要な措置をとっていたことを証明すれば、擁壁の所有者が賠償責任を負う事になります。

占有者責任、所有者責任

擁壁のように土地に密着して造られたものを「土地工作物」といいます。民法では、その瑕疵により損害が生じた場合、まずは賃借人等の占有者が賠償責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした場合には、所有者が無過失責任を負うものとしています。

何故、無過失責任かといいますと土地工作物のような危険をはらんだものについては、その瑕疵によって生じた損害は、そうした危険なものを占有する者若しくは所有する者が賠償をするのが公平であるという考えに基づいています。

地震による擁壁の倒壊

では、瑕疵がなかった場合はどうなるのでしょう?
先ほどの話と逆の事になりますので、瑕疵がない場合は占有者、所有者は損害が生じてもその責任は負いません。
瑕疵がないのに他人に損害が生じた
例えば地震が原因で擁壁が倒壊し損害が発生した場合も擁壁自体に瑕疵がなければ占有者、所有者は責任は負いません。

地震により擁壁が倒壊した場合に、瑕疵があったかどうかを判断するためには、擁壁自体の強度、地盤の強度、震度の大きさ等を総合して判断する必要があります。

そして、合理的に予想される震度に耐えられるだけの強度を備えていなかったために倒壊した場合は、瑕疵があったという事になりますから、被害を被った者は擁壁の占有者若しくは所有者に対し損害の賠償を請求する事ができる事になります。

(民717条)


道路の問題

長時間放置車両の移動

 私の家の前で先日から道路工事が始まりました。
しかし、私の家の前に朝から夕方まで自動車を停めておく人がいるので工事が出来ませんでした。この様な自動車を移動させる事が出来ないのでしょうか?


Ans
 駐車違反車両については、道路交通法により警察官はその移動と保管をする事が出来ます。
駐車違反に該当しない場合でも、道路の工事や災害復旧に関する工事、除雪その他の道路の維持のために緊急にやむおえない必要がある場合には、道路管理者はその移動などをする事が出来ます。


駐車違反車両である場合

 道路標識等により駐車が禁止されている場所に車両を駐車すれば駐車違反となり、反則金を課せられるほか、反則金を納付しない場合には、罰金に処せられます

 そもそも駐車禁止場所の指定の目的は、交通の安全や防災活動の円滑の確保などにありますから、違反した車両の移動が認められなければ、その本来の目的を達成する事は出来ません。

その為、道路交通法は、警察官及び交通巡視員(これらを警察官等)は、違反車両の運転者等に対し、その移動を命じる事が出来るほか、現場に運転者等がいない場合には、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るために違反車両の移動をする事が出来るとされています。


駐車違反車両でない場合

 駐車している場所が駐車禁止場所ではないため、駐車違反車両に該当しない場合には、警察官は、当該車両を移動させる事が出来ません
しかし、道路上に長時間にわたり自動車が放置されている時は、駐車違反に該当するとしないとにかかわらず、道路管理に大きな支障が生じる事も予想されます。
 例えば、道路の舗装工事をしようとしても、車両が止めてあるため工事が出来ないといった場合です。

このため道路法は、道路に長時間車両が放置されている場合において、道路の改築、修繕もしくは災害復旧に関する工事又は除雪その他の道路の維持の施工のため緊急やむおえない必要がある場合には、道路管理者は、現場に当該車両の管理について責任がある者がいない時に限って、原則として50mを超えない範囲の道路上の場所に当該車両を移動する事が出来るとされており、50mを超えない範囲の地域内の道路上に当該車両を移動する場所がない時は、自動車駐車場等の場所に移動する事が出来るとしています。

そして、50mを超えて移動させた場合は、道路管理者は当該車両を保管するとともに、保管している旨などを公示しなければならず、道路工事の終了など保管の必要がなくなった時はもとの場所へ移動しなければならないとされています。

 駐車している場所が駐車禁止場所である時は、警察へ通報して移動などの措置を取ってもらう事が出来ます。また、道路管理上移動の必要があると思われる時は、道路管理者に申し出て、移動を促すとよいでしょう。

(道路交通法51条、119条の2 第1項1号、125条1項)
(道路法67条の2)



放置自動車の撤去

 私の所有する空き地に自動車が長年放置されています。この自動車を撤去するにはどうすればいいのでしょうか?

Ans
 自動車の所有者に自動車の撤去を請求し、任意に撤去されない時は、土地明け渡し訴訟を提起したうえ、判決に基づき強制執行するのが原則です。

私有地の自動車の放置

 放置自動車の処理については、地方公共団体によっては条例で定めを設けている事がありますが、適用は当該地方公共団体の管轄する土地についてだけです。私有地については、私有地の所有者が自ら放置自動車の所有者に対し撤去の請求等をしなければならないのが原則です

しかし、放置された自動車が盗難車であったり、犯罪に使用されていいたなどのおそれもありますので、まずは所轄の警察署に相談し、これら盗難車でない事の確認をするのが第一です。

盗難車であった場合には、警察または被害者が自動車を移動する事になると思われます。そうでない場合には、自動車の所有者に撤去の請求をする事になります。

自動車の所有者については警察に確認できていれば教えてもらえる場合もあります。又、ナンバーが付いていれば陸運局事務所において所有者として登録されている者を調べるという方法もあります。

所有者に連絡が取れない

 では、所有者が判明しても連絡が取れないなどの場合にはどうすればいいのかと申しますと、当該所有者を被告として、土地明け渡し請求訴訟を提起し、判決に基づき強制執行する事になります。

判例では
 自動車ローンなどの債権を担保するために所有権留保している者は、現に自動車を占有していない限り、撤去義務を負わないというのがあります。

但し、『自動車ローンなどの債務者が支払いを怠った事により期限の利益を喪失して、残債務全額の弁済期が経過した時は債務者から自動車の引き渡しを受けて売却する事が出来る』との約定がある時は、債権者は、残債務弁済期が経過した後は、撤去義務を免れる事が出来ないとしました。

所有者が判明していない

 所有者が判明しない場合は、所有権が放棄されたと認められる場合が多いと考えられます。
所有権が放棄されたと考えられるには、自動車が単に放置されているだけでなく、廃棄されたと認められる必要があります。

つまり、単に長期間放置されているだけではなく、それが所有者の意思に基づくものである事が確認されなければならないと思われます。例えば、車の所有者が盗難にあった場合には、車の所有者は、車の所有権を放棄したとは認められないからです。

この様に、放置自動車の所有権が放棄されていると認められた場合には、無主の動産として、先占により所有権を取得し、自らの所有物として廃棄処分する事が出来ます。

(民239条)
最判平21・3・10判タ1306・217

私道上に「迷惑駐車禁止」と記載した看板の設置

 私の家の前の道路は私道(2項道路)ですが、迷惑駐車がはなはだしく、いつも本当に困っています。そこで、「迷惑駐車禁止」と記載した立て看板を設置しようかと思っているのですが、可能でしょうか?

Ans
 立て看板が通行の妨げになったり、特定の私道利用者等を個人攻撃するといった、ことでない限り可能かと思われます。

(2項道路とは、建築基準法42条2項の定めによる建築基準法上の道路とみなされる道をいいます)

通行の自由権

 日常生活で、2項道路の通行が必要不可欠な者は通行の自由権という人格的利益を有しているといわれていますので、その妨げとなる迷惑駐車が許されない事は言うまでもありません。かといっても、むやみに迷惑駐車の禁止を訴える事は許されませんので、一般人の通行の妨げとならないようにしなければなりません。

通行の妨げにならない程度の設置

 工事現場でよく目にする三角コーンなどに「迷惑駐車ご遠慮ください」などと記載して、通行の妨げにならないように設置する事は可能でしょう。

 また、私道を利用する特定の人を個人攻撃するような目的で立て看板等を設置する事も「自力救済禁止」という法治国家の大原則に反することになるおそれがあります。

 立て看板を立てて設置されても、一般人の通行の妨げにならない程度でしたら一般に許される範囲でしょう。しかし、一般人の通行の妨げになったり、社会通念上相当性を欠くものは違法性があります。

自動販売機を道路にはみ出して設置されている

よく通る道路に自動販売機が道路にはみ出して設置されています。通行するのに邪魔だと思うのですが、どうにかならないでしょうか?

Ans
道路占有許可を受けずに道路にはみ出して設置されているのでしたら、市町村長などの道路管理者に指導してもらう事がいいのではないでしょうか?

道路に設置する事ができるもの

道路に工作物等を設置して継続して道路を使用する事は、道路を使用する者にとって不都合な事がありますので認められません。
しかし、道路占有許可を受ければ道路を占有する事ができます。

 道路占有許可を受ける事ができるのは道路法32条、33条で定められた場合(電柱、電線、変圧等、郵便差出箱等・・・)に限ります。又、道路占有許可がされた場合は、原則として道路占有許可済証を表示しなければならないとされていますので、許可済証が表示されているか否かで確認できます。

自動販売機においては道路法32条1項で許可されるものには含まれていませんので許可されないのが原則ですので、道路管理者は道路占有許可がない事を理由に自動販売機の設置者にその撤去を求める事ができます。

裁判所の判例 

 道路上にはみ出して設置された自動販売機があるにもかかわらず、道路管理者が占有料の請求をしないのは不当であるとして、住民が管理者に代位して自動販売機の設置者(飲料水メーカー)に道路占有料相当の賠償請求乃至不当利得返還請求を求めた訴訟で、裁判所は、自動販売機設置者はこれら損害賠償義務又は不当利得返還義務を負う、その金額が少額で取り立てに要する費用に満たない事を理由に道路管理者が占有料相当額の徴収をしなかったのは違法ではない、として棄却しました。
 道路にはみ出しているものがあり、どうも邪魔だと思われている状況であれば道路管理者に指導を促して撤去をしてもらうのが現実的でしょう。

(道路法32条、33条)

私道をつくる時に注意する事は

私の家は道路から細い路地を入った突きあたりにある為、出入りが不便です。路地に面した家の方がそれぞれの敷地の一部を出し合い私道をつくる事になった場合、注意すべき事は?

Ans
私道を共有地とするか、各人の単独所有のままとして通行地役権を設定して登記をする事が考えられます。また、いずれも道路位置指定を得ておくとよいでしょう。
後々のトラブルも考えて地役権設定契約を締結する事が良いのではないでしょうか。
寄付が可能でしたら市町村に寄付をして公道にしてもらう方法も有ります。

民法249条、252条、280条、601条、604条
建築基準法42条、43条、44条、45条

未登記通行地役権と通路敷譲受人との関係

登記されていない通行地役権は第三者に譲渡されてしまうと譲受人に対抗できないのでしょうか?

Ans
通路として継続的に使用されている事が客観的に明らかであり、かつ、譲受人がその事を認識していたか、または認識可能であった時は、特段の事情のない限り譲受人に対しても通行地役権を主張する事が出来ます。

通行地役権とは、ある土地(要役地)から道路などへの往来の為に、その間にある土地(承役地)を通行する事の出来る権利の事です。

通行地役権は登記する事の出来る物権です

道路敷の譲受人が常に通行地役権が登記されていない事を主張できるとは限りません。つまり、登記されていない事を主張するについて正当な利益を有していなければ、登記なくして通行地役権を対抗する事ができるのです。
判例は

通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されている事がその位置、形状、構造等の物理的状況からか客観的に明らかであり、かつ、譲受人がその事を認識していたか又は認識する事が可能であった時は、譲受人は、通行地役権が設定されている事を知らなかったとしても、特段の事情のない限り、地役権設定登記されていない事を主張するについて正当な利益を有する第三者にあたらないと解するのが相当である

としています。
ここにいう「特段の事情」とは地役権者の言動などから、通行権が存しないと信じたという場合の事をいうとされています。

(民177条、280条)
最判平10.2.13判事1633.74

黙示の通行地役権

分譲地に住んでいるのですが、家の前の道路は分譲会社の名義のままになっています。今後も、この道路を通行する事ができるでしょうか?

Ans
分譲地内の道路が分譲会社の所有名義になっている場合、分譲に際して、分譲会社は分譲地譲受人に対して、黙示的に通行地役権を設定したものと解されます。

公道に面していないために公道との往来のために私道が設けられる場合があります。その私道に関しての所有名義が分譲地譲受人に分割譲渡、分譲地譲受人の共有、分譲会社の所有名義のまま、となっている事があります。
分譲会社の名義のままとなっている時は、その所有権が第三者に譲渡されてしまうなどのおそれがあり、私道部分の譲受人との間で、通行権に関して争いが生じる事になるかもしれません。

黙示の通行権

しかし、分譲会社は分譲地の分譲に際して分譲譲受人に対して、私道部分の通行を認める趣旨で分譲したのは当然です。
それに、分譲譲受人としては、その私道を通行して初めて分譲地を取得した意味がありますので、通行する事ができる権利があると思われます。
判例は
分譲会社と分譲地譲受人との間で、分譲地の為に私道部分に通行地役権が黙示的に設定されたもの、としています。

黙示の通行地役権では、原則、地役権の登記がなければ私道部分の新しい所有者に通行権を主張できません。
ですが、判例では
通路として継続的に使用されている事が明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたかまたは認識する事が可能であった時は、特段の事情のない限り譲受人は、通行地役権について登記がない事を主張する正当な利益を有しないとされています。

簡単に言ってしまえば、黙示の通行地役権も新所有者に対抗できるという事になります。

(民210条~212条、280条)

道路位置指定をうけた道路における問題

道路位置指定をうけた道路の敷地所有者が道路上にゲートを設置してしまい、私共近隣住民にとって通行の妨げとなっています。どうにならないのでしょうか?

Ans
近隣住民は、道路位置指定をうけた道路を通行することが日常生活上不可欠であるならば、道路の敷地所有者に著しい損害を与えるなどの特段の事情がない限り、通行妨害行為の排除を請求する事ができます。

道路位置指定

まず、道路位置指定とは
特定行政庁が、政令で定める基準を満たしている私道を建築基準法上の道路として認定する事をいいます。

都市計画区域及び準都市計画区域内では、幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければ、建築物を建てる事ができません。この様な場合に、私道を道路位置指定をうけて要件をみたす事で建物を建てる事ができるようになります。

しかし、道路位置指定を受けてしまうと道路としての通行を確保するために、道路内に通行を妨害するようなもの(建物、擁壁等)を建築する事ができなくなります。
道路位置指定を受けた道路が、(それ以外に道路がないなど)、近隣住民にとって生活上不可欠の利益であるならば、道路敷地所有者が近隣住民の通行利益を上回る著しい損害を被る等の特段の事情がない限り、近隣住民は人格的権利として通行権を有するというのが判例です。
つまり、道路敷地所有者は、通行を制限する事について正当な利益を有しておらず、通行受忍義務を負う事になるのです。

今回の質問も同様に考えてよろしいかと思われます。

(建築基準法42条~44条)
最判平9・12・18判時1625・41




日照・通風などの問題

用途地域指定に違反した建物の建築の差し止め

 私の住んでいる所は、第一種低層住居専用地域です。噂なのですが、近々スーパー銭湯が出来るらしいのです。しかし、これが出来てしまうと交通渋滞や深夜に人の出入りが今までとは比べものにならなくいくらい増えて、生活環境が悪化するのではないかと心配しています。
本当にそのような建築物が出来てしまうのでしょうか?

Ans
 建築基準法には、用途地域ごとに建築できる建築物又は建築してはならない建築物の定めがあり、これに違反した建築物の建築は認められない事になっています。

用途地域

 私たちが住みよい生活をするには、都市の健全な発展と秩序ある整備を図らなければなりません

その為には、地域ごとに用途を定め、用途にかなった建築物が建築されるようにすることが必要です。

この様な事を実現するため、都市計画法により、都道府県知事が一体の都市として総合的に整備、開発、保全する必要のある区域都市計画区域として指定し、都市計画でもって地域ごとに用途を定める事が出来るとしています。

これが用途地域といわれるもので、12種類あります。

建築基準法による建築制限

用途地域が定められている地域内における建築物について、建築できる建築物又は建築できない建築物を定めているのが、建築基準法です

1つの例として
都市計画法上、第一種低層住居専用地域は、低層住宅にかかる良好な住居の環境を保護するために定められた地域とされており、建築基準法によって、

  1. 住宅
  2. 住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの
  3. 共同住宅、寄宿舎または下宿
  4. 学校、図書館その他これらに類するもの
  5. 神社、寺院、教会その他これらに類するもの
  6. 老人ホーム、保育所、身体障害者福祉ホームその他これらに類するもの
  7. 公衆浴場
  8. 診療所
  9. 巡査派出所、公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物
  10. 1~9までの建築物に付属するもの

などと定められています。

大型公衆浴場(スーパー銭湯)と建築基準法

 今回の質問では、スーパー銭湯が、建築基準法が定める第一種低層住居専用地域内に建築する事ができる公衆浴場に該当するかどうかが問題となります

第一種低層住居専用地域は、低層住宅にかかる良好な住居の環境を保護するために定められた地域ですので、その地域とは違う所から多数の人が集合する店舗や施設の建築は予定されていないと考えられます。

もし、第一種低層住居専用地域に建築可能な公衆浴場を建設するには、その地域の住宅の需要に応ずる程度のものが予定されているのではないかと思われます。

建築されるかもしれないスーパー銭湯が、実質的に店舗・飲食店などに類するものであるならば、第一種低層住居専用地域に建築は認められないと考えられます。

建築確認の取消し

 建築主は、都市計画地域内の建築物の建築等について、その建築物が建築基準法等の法令等の規定に適合しているかどうかを建築主事の確認を受けなければならないと定められています

用途地域による建築の制限に適合していることも確認の対象ですので、これに違反する建築物が誤って建築確認を受けた場合には、その確認は取り消す事が出来ます。

そして、適正な建築規制の運用により確保される生活上の利益は、法的に保護される利益ですので、これらの住民は、建築確認処分の取消しを求める訴えの原告適格があると考えられます。
原告適格;、原告として合法的に訴訟を提起し、判決を受けることのできる資格)

(都市計画法4条、8条、9条)
(建築基準法6条、48条)




平穏に日常生活を送る権利と葬儀場の営業

 私の自宅近くに葬儀場が出来ました。通夜や告別式には人が多数集まるだけでなく、出棺している所も自宅の窓越しに見えてしまうので、ストレスを感じます。葬儀場の営業の差し止めはできないとしても、慰謝料等の請求をする事が出来るのでしょうか?

Ans
 自宅の窓から出棺の様子が見える事によって心穏やかになる事は出来ないとしても、葬儀場の営業が、社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏な日常生活を送る利益を侵害していると認められない限り、営業の差し止めや、慰謝料の請求をする事はできないと考えられます。

 人の死という場面は出来れば直面したくない場面です。そのような場面と隣り合わせの状態で、平穏に日常生活を送る周辺住民にとって、死という不吉な印象を与える事は否定出来ないと思われます。

しかし、人の死という事実は誰もが避ける事の出来ない事ですし、人の死によって、その方の葬儀を行う事は遺族等にとっては大切な儀式であることもまた事実です。

葬儀場の営業についての違法判断

 葬儀場の営業により周辺住民がストレスを感じるとしても、単にその事実のみをもって葬儀場の営業が違法であると決めつける事は出来ないと考えられます。

葬儀場の営業が違法かどうかは
葬儀場が設けられた地域の生活環境におよぼす影響、周辺住民が受けるストレスの程度、それを緩和するために葬儀場側が構じた措置等を総合的に考慮し、当該葬儀場の営業が社会生活上受忍すべき限度を超えて周辺住民の心の平穏を害するものであるかどうかによって判断すべきと考えられます。

判例

1つの判例で
Aの自宅から道路を隔てた土地に葬儀場が建設され、Aの自宅2階の窓越しに葬儀の参列者の姿が見えるだけでなく、棺が搬入される様子や出棺時霊柩車に積み込まれる様子が見えるため、Aが強いストレスを感じているとして、葬儀場に対し、フェンスをより高くする事と慰謝料の請求を求めた事案があります。

これについて最高裁判所

AがA宅2階の各居室等から本件葬儀場に告別式等の参列者が参集する様子、棺が本件葬儀場建物に搬入または搬出される様子が見える事により、強いストレスを感じているとしても、これは専らAの主観的な不快感にとどまるというべきであり、本件葬儀場の営業が、社会生活上受忍すべき程度を超えてAの平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。

と述べて、Aの請求を棄却しました。

この事案の背景として、

  • 葬儀場の建物、営業は行政法規に違反していない
  • A宅と葬儀場との間には15メートルを超える幅員の道路がある
  • 葬儀場の建設に先立ち、地元説明会を6回開催した
  • 地元住民の要望を受けて3メートルの目隠しフェンスを設けた
  • 入口位置の変更、防音防臭のため2重玄関ドアを設置

といった事があり、その結果、Aを含む3人以外とは和解協定が成立していました。

実際に葬儀場が営業されてからも

  • 葬儀場の様子は、A宅2階からフェンス越しに見えるにすぎない
  • 告別式等は月20回程度で棺の搬入、出棺はごく短時間である

という事情から、上記のような判断に至ったものと思われます。

(最判平20・6・29判時2089・74)

隣地のマンション建設反対の立て看板

隣地でマンション建設が始まりました。建設されると日照被害や、人の出入りが多くなり住み心地が悪くなることが予想されます。このため近隣住民は反対をしているのですが、この事を知ってもらうため立て看板を設置しようとの意見があります。マンション分譲業者から営業妨害と言われてしまうのでしょうか?

Ans
立て看板に虚偽の事実を記載したり、侮蔑的表現で誹謗中傷するようなものでない限り、違法とはいえないと思われます。

近隣住民の反対運動

マンション建設により近隣住民にとって少なからぬ生活環境への影響が及ぶものです。この様な場合に近隣住民が反対運動を起こし、立て看板を設置したり、チラシを配る等で自分たちの意思を訴えたいと考える事は当然考えられる事です。しかし、あまり行き過ぎたものになると、分譲業者の建設予定地の所有権、営業権の侵害になりかねず、営業妨害になるおそれがあります。

裁判所の判例

マンションの建築主が近隣の住民が設置したマンション建設反対の垂れ幕や看板の撤去を求めた訴訟の第一審で敗訴したところ、近隣住民が「不当訴訟勝利で支援に感謝」と記載した垂れ幕を新たに掲げた事について裁判所は
マンション建築主の訴訟提起が違法とは言えないにもかかわらず、第三者に不当な訴訟を提起したなどの印象を与える目的、乃至はその様な懸念を抱かせてマンション建築主に心理的圧迫を加える目的でなされているものであるから違法である、というものがあります。

又、裁判中である事を記載した看板や建築反対を記載した看板等については客観的事実を記載したにすぎず、近隣住民の主張を記載したにすぎないので違法ではないとしています。

この様な裁判例を見ますと
虚偽の事実を記載したり、侮蔑的な表現で誹謗中傷するようなものであれば、マンション建築主の営業権等を侵害するものとして違法であり、撤去を命じられる事があり、訴訟中等の客観的事実を記載するものであれば違法性はないといえます。

日照権侵害を理由として建築工事の差し止めを求める事が出来ますか

家の南側にマンションが建つのですが、出来あがると家の日当たりが極端に悪くなりそうです。建築工事の差し止めを求めたいのですが。

Ans
日照権の侵害の程度が受忍限度を超える時は建築工事の差し止めを求める事が出来ます。

日照権は
人間らしい生活の享受を求める権利(人格権)
土地の利用の妨害を排除する権利(物権的請求権)
に基づいて認められているという説があります。
しかし、これらを無条件に振りかざして主張する事は出来ません。
他人の土地の所有権との合理的な調和のもとに認められるのです。

日照を享受すべき必要性と建物を建築する土地所有者の利益との調和を考えていかなければなりません。
ポイントは「受忍限度」だと思います。
受忍限度」を超えるか否かは

  • 建築物が日影規制に違反しているか
  • 被害の程度
  • 地域の開発状況
  • 加害ないし被害の回避のための努力の有無
  • 加害建築物と被害建築物の用途

等を総合的に勘案して判断されるという事だと思われます。
ですので、建築基準法の日影規制の対象外の建築物であっても、周囲に対する被害の程度がはなはだしい時は、工事の差し止めが認められる可能性もあります。

(建築基準法56条の2)

高い建物で風通しが悪くなった時は

家の隣に高いビルが出来たため、風通しが悪くなり、憂うつです。
損害賠償請求をしたいのですが、認められますか?

Ans
通風が妨げられた程度が受忍限度を超えていると認められれば損害賠償請求することも可能ですが、実際上は非常に困難です。

考え方としては前質問の日照問題と同じなのですが、通風問題は日照問題と違い建築物があっても直ちにさえぎられるわけではなく、通風が全くなくなるとは通常考えられません。
又、通風の利益は日照のそれと比べると低いと思われ、受忍限度を超えるかどうかの証明が極めて困難なのが実情です
このため、通風侵害のみで損害賠償請求や建築工事差し止めが認められた例はほとんどありません。

ビルの建築で眺望が悪くなった場合

私の友人の家は、空き地を挟んで海岸に面しているので海辺の風景を楽しむ事ができます。先日、その空き地にリゾートマンションが建設される事になり、海辺をみる事ができなくなってしまいます。マンション建築を止めさせる事は出来ないのでしょうか?

Ans
眺望の享受が社会通念上独自の利益として認められ、かつ、眺望の侵害によって被る不利益が著しい場合、眺望を侵害する行為の差し止めを求める事ができます。

穏やかな風景を毎日見られる、このよな環境ですと人間の生活に潤いを与えてくれますし、
観光地では眺望の利益も社会通念上、独自の利益と承認されるだけの重要性を備えている場合、法的保護に値する権利であります。

この様な眺望の利益が常に法的保護に値する権利として認められても、そのために必ず眺望を遮る建物建築の差し止めを求める事ができるわけではありません。
建物の敷地利用権と眺望権の調和が図られなければならないのです。

裁判例として
温泉旅館が湖の眺望を売りにしていた所、同業が他に土地があるにもかかわらず、あえて眺望を害する位置に建築を行うなどした事件において、旅館の営業を妨害せんとする意図があったとして建築工事の禁止が認められています。

別荘地に別荘を建て35年以上にわたって享受してきた眺望をほぼ完全に遮断する事になる建物建築について、景観計画や建築基準法令上の違反はないものの、眺望を残すような配慮に全く意を払わなかったことは、社会的に容認された行為とは言えないとして、建築工事禁止の仮処分が認められています。

リゾートマンションの区分所有者が眺望を阻害する建築物の5階以上の建築差し止めを求めた事に対して同マンションの利用度が低い、眺望侵害の程度が低い、侵害の程度も切実でなくかつ、眺望を侵害する建物建築も予想された、といった理由で建築の差し止めは認められませんでした。

眺望の利益が経済的に重要であり、侵害する側に害意がある場合には差し止めが認められやすく、眺望の利益が個人的な心理的満足にすぎず、眺望を侵害する行為に害意もない場合には、差し止めは認められにくいという事ができると思われます。


騒音・振動などの問題

近所の家の飼い犬の鳴き声

 近所で飼われている犬が、深夜・早朝かまわず鳴くのでうるさくてしょうがありません。最初の頃は我慢していたのですがそろそろ限界かもしれません。
飼い主に対してどういった事を請求する事が出来るのでしょうか?


Ans
 犬の鳴き声が社会生活上、受忍すべき限度を超えている時は、飼い主に対して、それによって被った精神的損害に対する慰謝料の請求等が認められます。


動物の愛護及び管理に関する法律

 動物の飼育が適切になされる事は、動物愛護の観点のみならず、動物による危害の防止の観点からも重要である事はいうまでもありません。
そこで、動物の愛護及び管理に関する法律において以下のように定めています。

動物の愛護及び管理に関する法律7条1項
動物の所有者または占有者は、命あるものである動物の所有者または占有者としての責任を十分に自覚し、その動物を適正に飼育し、又は保管する事により、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が、人の生命・身体若しくは財産に害を加え、または人に迷惑を及ぼす事のないように努めなければならない

そして、これを受けて次のようにも定めています。

動物の愛護及び管理に関する法律9条
地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼす事のないようにするため、条例で定める事により、動物の飼育及び保管について、動物の所有者または占有者に対する指導その他の必要な措置を講ずる事が出来る

 これらの法律に基づいて、地方公共団体は、条例でもって、飼い主は鳴き声などにより人に迷惑を掛けないよう努めなければならず、動物による人の生命等に対する侵害を防止するために必要があると認められる場合は、飼い主に対して、必要な指導又は助言をする旨を定めています
これら条例の内容については、各地方公共団体により違ってきますので、地方公共団体の担当課にお問い合わせください。


民事上の請求

 この様に買主は、飼い犬を飼育するには、その鳴き声で人に迷惑を掛ける事のないように努めなければなりません

しかし、そのような措置を講じない飼い主に対しては、飼い犬の鳴き声によって被った精神的苦痛に対する慰謝料の請求も考えられます。
こうした精神的苦痛に対する慰謝料の請求が可能となるには、飼育に伴う通常の鳴き声は甘受すべきものと考えられますが、飼い犬がむやみに鳴き、その程度が、社会通念上、受忍すべき限度を超えており、飼い主においては飼育上の注意を尽くしてない時と考えられます。


裁判例

ある裁判例として
 鎌倉天国と呼ばれる山地で、近くにハイキングコースもある静かな土地において、セパードとマルチーズをそれぞれ1ないし2匹飼っていた飼い主が、飼い犬が長時間にわたり、連日のごとく早朝、深夜にわたって鳴き続けるにもかかわらず、これを抑止する為の飼育上の配慮を何らしなかったため、隣家の住民が神経衰弱状態となり、失神した事もあったという場合において、

飼い犬の鳴き声は受忍限度を超えるものとして、飼い主に対して慰謝料の支払いを命じたものがあります

(動物の愛護及び管理に関する法律5条、7条、9条)
(民718条)



近所にあるカラオケボックスの音がうるさい

 最近、私の家の近所にカラオケボックスが出来ました。防音設備が不十分らしくカラオケの音が漏れて聞こえてきますし、お店を出入りする人の嬌声などがうるさくて夜も眠れません。どうにか止めさせる事は出来ないのでしょうか?


Ans
 カラオケの音やカラオケボックスに出入りする人の嬌声などについては、条例で規制される事になっています。カラオケの音や出入りする人の話し声がうるさく、その程度が社会通念上、受忍すべき限度を超える時は、民事上、損害賠償や慰謝料を請求する事が出来ます。


営業騒音の規制

 カラオケボックスなどの営業に伴って発生する音がうるさい時は、営業騒音に該当すると言えます。営業騒音については「騒音規制法」や「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」によって、規制しています

「騒音規制法」

  • 騒音規制法では、飲食店営業等にかかる深夜における騒音などについては、地方公共団体がその地域の自然的、社会的条件に応じて住民の生活環境を保全するために、営業時間の制限などの措置を講ずるもの、と定めています。

「風営法」

  • 風営法では、風俗営業や深夜飲食店営業に伴って店舗の周辺で発生する騒音や振動については、都道府県の条例で定める数値以下にするよう規制しています。

 これらの法律に基づいて、地方自治体では、防音装置により外部に音が漏れない場合を除いて、住宅地域で、カラオケ店の深夜のカラオケの使用の制限をしていたり、店舗の周辺での騒音が規制値以下の営業をしなければならない等の定めをしています。

これら規制などの内容は地方公共団体により異なりますので、市町村の担当課に問い合わせて確かめてみてはどうでしょう。

民事上の請求

 この様に、地方公共団体ごとに、その地域に応じた規制を設けていますが、営業騒音が発生するという事はありえます。

その場合、営業騒音により迷惑を被った者は、営業騒音を発生させた者に対して、損害の賠償や差し止めの請求をする事が出来ます

しかし、一概に騒音と言ってもその程度は閑静な住宅地でのものか人通りの多い商店街でのものかといった地域によって様々です。

これら民事上の請求が認められるのは、騒音の大きさやその性質、地域の状況、騒音の発生する時間、行政上の規制値を上回っているかどうか、騒音により生じる支障の内容などを考慮して社会生活上、受忍すべき限度を超えている時に限ります。

ある裁判例として

 住宅街におけるカラオケボックスの営業に伴い、カラオケの音が隣家まで聞こえたり、出入りする自動車のエンジン音や、人の嬌声などが午前0時以降も継続する為、隣家の住人が夜眠れず、身体にも変調をきたしたという事案があります。

これについて、午前0時から午前4時までのカラオケ装置の使用の禁止と1人当たり20万円ないし30万円の慰謝料の支払いが命じられたものがあります。

(騒音規制法28条)
(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律15条)


工場の騒音や振動がひどい時は

家の隣は町工場です。近頃騒音や振動がひどくなり家族がノイローゼ気味です。騒音や振動の規制はどの様になっていますか?


Ans工場の騒音や振動については騒音規制法、振動規制法という法律があり、著しい騒音や振動を発生するものとして指定された施設から発生する騒音・振動を規制しています。また、その程度が受忍限度を超える時は民事上、その差し止めや損害賠償請求も可能です。



騒音規制法、振動規制法とは

  • 住宅が集合している地域、学校や病院周辺地域等、騒音振動を規制して住民の生活環境を保全する必要があると指定された地域内(指定地域)で、
  • 著しい騒音振動を発生するものとして政令で指定された施設(特定施設)を設置している工場及び事業所(特定工場等)から発生する騒音振動を規制する

という法律です。

指定地域や規制基準は都道府県知事が定めるものとされていますが、生活環境を保全するために市町村条例で都道府県知事と異なった規制基準を定める事が可能です。
詳しい内容はお住まいの市町村の公害担当課にお問い合わせください。

損害賠償請求について

騒音振動による損害賠償請求ですが、騒音振動を発生させる使用者や所有者が周辺環境に対する防止措置を怠っていれば可能です。
騒音振動が将来的にも継続するならば、差し止めも認められますが、わずかな振動騒音では認められません。
社会生活上受忍すべき限度を超えているかどうかによります。
この受忍限度は

  • 騒音振動の大きさ
  • 継続する時間の長短
  • 一日においていつ発生するか(深夜、早朝、昼間)
  • 周辺の土地の利用状況
  • 周囲の騒音の程度
  • 防止のための措置をしたか否か
  • 騒音振動を発生する施設の有用性や他の地域への移設の可否等

これらを総合的に考慮し判断されるべきものでああるという事になります

(騒音規制法1~13条、振動規制法1~13条)


洗濯機の音がうるさい時は

隣の家と軒を接するように建っているため、隣の家の人が深夜帰宅後の洗濯機の音が耳触りで寝られません。取り締まってもらう事は出来ませんか?

Ans
深夜の洗濯機の音などの生活騒音について、直接規制する法律はありませんが、自治体によっては条例で規制している所がありますのでお住まいの地方公共団体の公害担当課にお問い合わせください。

生活騒音については工場騒音に比べて音は小さく、継続時間も短い他、音源も様々であり一律に規制する事は困難です
しかし、静謐な生活環境は人間の健康な生活に欠かせないものですので騒音により被った損害の賠償や差し止めが認められる事も有ります。

その可能性は、生活騒音が、社会通念上、受忍すべき限度を超えているかどうかによります。
この受忍限度については

  • 周辺地域の利用状況
  • 騒音の発生原因
  • 騒音の大きさ、継続する時間、時刻
  • 騒音の発生防止措置の有無

等を総合的に考慮して判断されます。

(民709条)


家庭ごみの集積場所の問題

私の家の前は家庭ごみの集積場所になっています。夏などは悪臭、野良猫が生ごみをあさったりと不衛生です。家庭ごみの集積場所を変更する事が出来ないでしょうか?

Ans
家庭ごみの収集に支障がなければ集積場所を輪番制にする事も可能です。

各家庭からごみが搬出される事は避けられません。しかし、ごみを一戸一戸収集する事は事実上困難です
確かに、カラスがゴミをあさったりして不衛生ですし、悪臭が漂います。しかし、それは感覚的な面が強く、人体に有害とまでは言えません。


ごみ集積場に隣接するアパートの所有者がゴミの排出の差し止めを求めた事案では
悪臭や駐車場の出入りがしにくくなるものの社会生活上受忍限度の範囲内であるとした判例があります。

悪臭や不衛生その他の不快感を一軒や数軒のみに甘受しなければならないのは不合理です。そこで、収集に差し支えない範囲で輪番制に変更する事が地域全体で公平に分担するものだと思われます。

まずは地域でコンセンサスを形成する事が必要です。反対する住民に対しては説得する事は当然ですが、輪番制に応じない場合は、過程ごみの集積場所にゴミを出し続ける事を止めさせる事を通じて輪番制に応じてもらうほかありません。

裁判所も
「輪番制度をとって、集積場を順次に移動し、集積場を利用するもの全員により被害を分け合う事が容易に可能であるにも関わらず、この様な方策を拒否し続け、排出し続ける事は当該被害者にとって受忍限度を超えたものであると解する」

として、輪番制に反対する住人に判決確定の日から6カ月経過後は従来に集積場へ家庭ごみの排出する事を禁止する判決を言い渡しました。

(廃棄物の処理及び清掃に関する法律4、条6条、6条の2)

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