日常、起こり得るトラブルや疑問を法律を通して考えるページ

土地と建物 2

売買についての法律

不動産の二重売買

 この度、私は土地を購入する事になりました。私の方は代金を既に完済し、売主から土地の権利証・登記委任状・印鑑証明書を受領しましたので、無事に売買終了したと思い少し安心してしまい、登記をしていませんでした。
 そして、そのまま放置していた所、土地の名義が第三者に変わっている事に気付きました。所有権移転登記をしていない以上、どうにもならないのでしょうか?


Ans
 原則として、不動産の取引においては、登記の前後によって優劣が決せられます。したがって、あなたの土地という事にはなりません。しかし、先に登記を得た者が売主とグルになって買主を害する目的をもっていた場合などは、いまだ登記を得ていない者(今回の場合ですと貴方になります)であっても所有権を主張する事ができる場合があります。


背信的悪意者

 不動産売買において、その権利取得につき登記をしなければ第三者に対抗する事ができないのが原則です。そして、この対抗問題は、第三者の登記に対する善意悪意(知らなかったのか知っていたのか)を問わないとされています。

 しかし、判例を中心として、「背信的悪意者(はいしんてきあくいしゃ)」に対しては、登記がなくとも所有権の取得などを対抗する事ができるという理論が確立されてきました。

 つまり、不動産が2重に売買され、先に登記を得た者が優先するというのが原則ですが、先に登記を得たとしても、その者が売主とグルになっていた場合などでは、登記を得ていない買主の所有権が優先する事となる場合があるという事です。グルになった買主が、登記の欠缺(けんけつ)を主張する事は信義に反しているからです。
 そして、そのような買主を「背信的悪意者」と呼んでいます。

 また、先に登記を得た者が善意であっても、その者からさらに所有権を取得した者のわら人形にすぎない時は、転得者(この場合、善意の取得者から取得した者)が背信的悪意者にあたるか否かによって登記なくして所有権の取得を対抗できるか否かが決まるとした判例もあります。

 その他のケースでは、先に登記を得た者が背信的悪意者であっても、更にその者から所有権を取得した者が善意の時は、もはや登記なくしては所有権の取得を対抗することができないとした判例もあります。

 今回の場合、売主と現在の登記名義人との関係や背信性があるかどうかによっては、登記を得ていなくとも所有権を主張する事ができ、あなたは登記を取得する事が可能です。


権利証

 不動産の売買において、買主としては権利証を受け取ったというだけでは、どのような場合においても新たな登記を防止する手段として決して十分ではありません。これは、売主が権利証の代わりに保証書を添付する事によって所有権移転登記をする事も可能だからです。
 したがって不動産を購入する場合には、代金支払いと所有権移転登記を同時に行う事が必要になります。先程のように、登記を得ていなくても自己の所有権を主張する事が可能となる場合もありますが、このような主張をするには裁判が不可欠です。そして、裁判をしたとしても相手方の背信性等を立証しなければならないという極めて困難な作業をしなくてはなりません。権利証を受領したから安心などとは決して思わないようにして下さい

補足として
 不動産を二重に売買した売主には、刑事上横領罪を問われる事になります。つまり、既に売却した物件を自己に登記名義が残っている事を利用して、更に他の者に売却する行為は他人から預かっている物を自己の物として処分した事と同様であると考えられるからです。

(民177条)
(刑法252条)


売買を将来にしたい場合

 私たち家族は、引っ越しをしようと思い、色々土地建物などを探しています。そしてやっと、私達の希望に近い不動産が見つかりました。
 しかし、そこの所有者とお話をしてみると、7か月先に転居したいので、その時まで本契約を待ってほしいとの事でした。それについて私達は問題ないのですが、もしかしたら売主の気が変わってしまうという事もありますので少し心配しています。
 そうならない為に、確実にこの物件を買えるような予約をしておきたいのですが、何かいい方法はありませんか?


Ans
 あなた方にとっては、本契約を締結し、引き渡しの時期を7カ月先とする事が出来るならば一番よいのですが、将来に売買契約を締結する予約契約を結ぶ事も可能です。


売買の予約

予約契約には2種類あります

  1. 買主が本契約を締結したいという申し込みをすると、売主はこれを承諾しなければならない義務を負うという内容の予約
     ⇒当事者の一方が申し込みの権利をもっているものを「片務予約」、双方が権利をもっているものを「双務予約」といいます
  2. 買主の本契約を締結したいという意思表示(予約完結の意思表示)をすると、売主の承諾を要しないまま本契約が成立するという予約
     ⇒契約を成立する権利を一方だけが持っているものを「一方の予約」、双方が持っているものを「双方の予約」といいます

 
 この2つの予約の違いは、1の場合の予約では、本契約の締結を申し込んでも直ちに本契約が成立するのではなく、単に承諾の義務を負わせるにとどまるのに対して、
2の予約では、本契約の締結を通知する事により直ちに売買契約が成立する事です。

予約契約で確認しておくべき事項は

  • 以上に述べた予約の型のうち、どの形の予約であるか
  • 予約を完結させるべき期間をどのように定めているか

といったことでしょう


予約完結期間が定められていない場合

 上記の予約を完結させるべき期間ですが、もし、予約を完結させるべき期間が定められていない場合には、予約者は相当の期間を定めて、予約を完結するかどうかを催告する事ができ、その期間内に確答が得られない時には、その予約の効力がなくなる事になります。


予約契約における権利の確保

 相手方と予約契約を確実にするには、予約上の権利を確保する事が良いかと思われます。今回のような場合は、所有権移転請求権の仮登記という方法があります

 これは、現在は所有権が売主にあるので本登記をする事が出来ないけれども、将来の所有権を移転してもらうという請求権を保全するために認められる仮登記で、代物弁済の予約や再売買の予約など、予約上の権利を確保する方法です。

 この仮登記をすると、もし売主が第三者に対して土地建物を売却し、登記をしたとしても、その後、予約完結の意思表示をして、仮登記に基づく本登記をする事により、第三者の有する登記に対して、あなたが行った登記が優先する事になるのです。
このような登記は登録免許税も安いですから、予約契約を締結したい場合にはぜひ利用した方がいいでしょう。

(民556条)


不動産売買契約における違約金

 先日、不動産を購入しました。その際に交わした不動産売買契約書の内容に「本件売買契約に違背して相手方より本件売買契約を解除されたものは、その相手方に対して違約金として売買代金の2割相当を支払う」との条項がありました。
 一般的に、「違約金として売買代金の2割相当」という金額を減額する事ができるのでしょうか?


Ans
債務不履行による損害賠償について、予め賠償額を定めた場合には、この予定額を増減できないのが原則です。


損害賠償額の予定

 債務不履行による損害賠償を請求する為には、債権者は損害が発生した事とその額を立証しなければなりません
しかし、実際上この立証は困難な場合が多く、かえって紛争が生じるおそれがあります。

 「損害賠償額の予定」とは、このような紛争の防止、立証の困難さを除くために、損害賠償の請求を簡易にして、履行の確保を目的とするものです。
契約の当事者は、自由に賠償額の予定の契約を締結する事が出来ますが、法律の規定または公序良俗に反してはいけません。

また、全ての契約に予定賠償額を定める事が出来るのではなく、これらを禁じているものとしては、労働基準法16条などがあります。
これは、労働者の手取り賃金の減少を防ぐためと不当な圧迫手段となることを防ぐための規定です。


損害賠償額の予定を定めると

 損害賠償額の予定を当事者が契約書で定めると、債権者は、債務不履行の事実を証明すれば、損害の発生及びその額を証明することなしにその予定賠償額を請求する事が出来ます

先程も申しましたが、
予め賠償額を定めた場合には、この予定額を増減する事が出来ないのが原則です
つまり、債務者は、債務不履行について帰責事由の存在しないことや、損害のなかったこと、実際の損害が予定額より少ない事等を立証して、責任を免れたり、減額を請求する事が出来ません。
そして、債権者も、実際の損害額が予め決めた予定賠償額より大きい事を立証して増額を請求する事も出来ません。

帰責事由 → 法的に責任を負わせる事由。その実質は、故意または過失が認められること

 そこで、予定賠償額をどのくらいにするのかが重要になってきます。
宅地建物取引業法は、宅建業者を売主とする取引に関して、買主となった素人を保護する為に、予定賠償額や違約金またはその両方の合計額を売買代金の10分の2以内に制限しています

 こうした法律によって賠償額の制限がある場合にはそれに従うのが当然ですが、その他にも民法90条の制限に服します。
つまり、他人の窮迫に乗じて暴利をむさぼるような場合には、賠償額の予定は公序良俗に反する限度で無効とされることもあります。
この場合には、予定賠償額の減額も認められるかと思われます。


裁判例

 賠償額の定めについての事件の裁判例として
売買代金の4割を超える賠償額を定めたものについては

  • ⇒右契約は、少なくとも当該事件に応じた適正な賠償予定額を超える部分については、公序良俗に反するものとして無効になるものと解するのが相当である

といった例があったり
代金の2割相当額の違約金支払いの約定がある土地売買契約の場合には

  • ⇒約定額の3割相当額の限度で違約金の支払いが命じられた

という事例もあります。
 これらの判決から考えられる事は当該判決は、当該事案において、様々な事情を検討した結果ですので、この結論をそのまま他の事案に適用する事は出来ないと思われます

(民90条、420条)
(宅地建物取引業法38条)


不動産売買契約を解消したいのですが

将来の事も考えて、見晴らしのいい場所の不動産を探して、不動産売買契約を締結しました。
この売買契約を一方的に解消する方法があるのでしょうか?

Ans
不動産売買契約を一方的に解消する方法としては、クーリング・オフ制度の利用、契約の解除などがあります。

契約の解除

 民法上、「解除に似た言葉としてよく耳にする言葉として撤回」「取消し」「解約などがあります

  • 撤回
    一旦なされた意思表示を、意思表示した者からその自由意思によって、将来に向けて意思表示をなかったものとすることです。
  • 取消し
    意思表示に法律に定める一定の瑕疵(欠陥:制限行為能力者の意思表示、詐欺・強迫による意思表)がある事を理由にして、その意思表示が初めからなされなかったものとすることです。
  • 解約
    一旦成立した契約を消滅させるという意味では、解除と同様ですが、将来に向かって消滅させる点で大きな違いがあります。

 契約の解除とは、契約が有効に成立した後に、契約を締結した当事者の一方からの申出により、契約関係を遡って解消する事をいいます
この解除をする事により、契約は当初から存在しなかった事になる為、履行されていない債務は履行の必要がなくなり、既に履行がなされている部分があるのならば、受領したものなどを返還する等して契約前の状態に戻す事になります。

 このような事から、契約の解除は当事者の一方の意思表示により、既に成立した契約関係を遡って解消してしまう制度ですので、むやみやたらと解除が出来てしまっては、「契約」という事自体が何だったのかという事になってしまいます。このような事から契約の解除は一定の理由がある場合に限って認められています

1つは、解除権が法律によって認められている場合があります。これを「法定解除権」といいます。
もう1つは、契約により特別に定められた解除権です。これを「約定解除権」といいます。


法定解除の原因

 民法が定める解除原因の1つに「債務不履行」があります
この債務不履行には、
①履行遅滞
②履行不能
③不完全履行
の3つの形態があります。
いずれの場合も、債務の趣旨に従った履行がなされなかったことにつき当事者の一方に責任がある場合その者について債務不履行の責任があります

 債務不履行以外にも、
事情の変更
売主の担保責任
が認められる場合には、法定解除権が認められます。
事情の変更」とは、契約当時において、当事者が予想も出来なかった著しい事情の変更があり、その事情の変更の原因が当事者に帰せられない場合には、契約の文言通りに履行を強制する事が契約当事者間の信義に反する結果となる事から、これを理由に契約の解除が認められるのです。

売主の担保責任」とは、売買契約に関して特別に認められたものであり、

  • 売買の目的物が他人の権利に属していて買主に移転する事が出来ない場合
  • 契約時に既に目的物の一部が滅失していた場合
  • 契約どおりの数量がなかった場合
  • 所有権以外の制限が付いていた為その利用が妨げられた場合
  • 目的物に当事者の気付かない瑕疵(欠陥)があった場合

といったような、売買契約当時の取引観念に照らして売主の義務が完全には果たされていないという場合に、一定の要件のもとで買主の売買契約の解除をする権利が認められています。
これらの場合には、債務不履行の場合とは異なり売主の過失は問わないといわれています

 その他にも、解除権を留保した趣旨で手付が授受された場合やクーリング・オフ制度による契約を解消する方法が認められています。
又、平成13年4月から施行された「消費者契約法」により、契約の取消しが認められる場合があります。

(民540条、548条、557条、561条、568条、570条)


担保付の不動産の売買

 そろそろ自分の家を買おうか考えています。先日、気に入った物件があったのですが、どうやら土地・建物に抵当権が設定されているようです。
こうした、抵当権が設定されている土地・建物を売買する事が出来るのでしょうか?
また、担保権が設定されている土地・建物の売買について、特に注意しなければならない事はどのような事なのでしょうか?


Ans
 担保権の設定されている不動産であっても、これを売買の目的とする事が出来ます。
しかし、売買によって担保権が消滅する事はありませんので、後々の事を考えて担保権を消滅させておくことが一番です。


売買と担保権

 抵当権(担保権の1つ)の設定された不動産を購入したとしても当然に抵当権が消滅する事はありません
ですから、抵当権者から競売の申立てがなされると、たとえ所有者が変わっていたとしても、この不動産は競売に付される事になり、買主は所有権を失う事になります。

とはいっても、競売代金で被担保債権を清算して余剰があれば所有者に返還されますから、買主としては、全くその所有権を無視されるわけではありません。
しかし、買主がどうしても所有権を維持し続けようとすれば、債務を支払って担保権を消滅させるか、自ら競売手続きで競落するほかありません。

こうした事から担保権の設定された不動産を購入しようとすれば、担保権の存続及び売買代金の設定につて十分検討する必要があります


検討すべき方法

以下に3種類の方法を述べさせていただきます。

  1. 売買契約の時に、担保権者に対して売買代金中から担保権の被担保債務の返済をしてしまい、残額を売主に支払う事によって、担保権のない不動産を購入する
      この方法が後に問題を残さない点で、最も安心です
    ここで特に注意をしなければならない事は、担保権が間違いなく消滅した事を確認し、その登記を抹消する為の書類の交付を受ける事です。
  2. 買主が担保権者の承諾を得て、被担保債務を引き受ける代わりに、売買代金を減額する事です
      これは、担保権者の承諾が得られ、且つ買主にとって支払い条件の点でメリットがあるのでしたらこの方法でも構いません。
  3. 非担保債務の支払いを従来の売主が継続するという方法です
      しかし、この方法は売主が債務を確実に支払う保証はない為あまりお勧めできません。


買主の保護

 上記「3」の方法で売買契約を締結された場合には、買主には次のような保護が認められています

  •  代価弁済
    買主が、担保権者からの支払いの請求に応じてこの者に売買代金を支払った場合には、買主のために担保権は消滅します。
  •  抵当権消滅請求
    買主から担保権者に対し、その取得の代価または買主の負担を記載した書面を送達します。これに対して担保権者が2カ月以内に競売の申立てをしなければ、その取得した代価または買主の負担を履行し、担保権を消滅させる事が出来ます。
  •  代金の支払い拒絶
    抵当権が消滅するまで、買主が代金の支払いを拒絶する事が出来るというものです。

このように、担保付不動産を購入する場合、後々トラブルが発生する確率が非常に多くなります。注意して下さい。

(民377条、378条~387条、577条)


借地借家についての法律

農業委員会の許可がない賃借された農地

 私は、ある大地主Aさんから畑を賃借し、耕作して使用しています。かれこれ20年以上、お世話になっています。しかし、最近Aさんが死亡しました。
 暫くして、その相続人が私の所に来て「農地の賃貸借は農業委員会の許可が必要だが、あなたの場合はその許可を取っていないから賃借は無効だ。私が相続し、所有者になったから畑を明け渡してくれ」と要求してきました。畑を借りる際、私とAさんは農業委員会の許可を取得する手続きをしていなかったのは事実です。やはり、私は畑を明け渡さなければならないのでしょうか?


Ans
 あなたは相手方がいう畑を明け渡す要求に応じる必要はありません。土地、建物の賃借権も時効により取得する事ができるからです。農地の賃借権の設定には知事等の許可が必要ですが、その許可を取得していなくても時効により賃借権を取得する事が出来ます。


時効制度

 時効は、一定の期間が経過する事により、権利を取得したり、権利が消滅する制度です。前者を取得時効、後者を消滅時効といいます。

今回は取得時効についてお話します。
 取得時効は、ある物を20年間所有の意思を持って、平穏かつ公然と占有すれば、その物の所有権を取得します。そして、その占有開始時に、その物を自己の所有と信じ、それにつき過失がなかった時は、10年間の占有で時効が成立し、所有権を取得する事が出来ます。

 そして、所有権以外の財産権、今回のような土地、建物の賃借権についても取得時効が成立します
 つまり、20年間、自己が賃借権の権利者であるとの意思を持って権利を行使していれば、その権利を時効により取得できます。権利行使開始の時に自己が権利者であると信じ、それにつき過失がなかった時は、10年間の権利行使で時効が成立します。

 通常の借地権を例にとれば、Xさんが登記簿上の所有名義人であるYから土地を賃借した場合、XがYを所有者と信じるにつき(Xが賃借権者であると信じているなら)、通常は過失がないとされますので、仮にYが真実の所有者でない(つまり、Xが真実の所有者から賃借権を取得していない)としても、Xは、外形上10年間土地を賃借して使用すれば、時効により賃借権を取得できます。


借地が農地

 農地の場合は、売買や賃貸借をする際には、農業委員会の許可を受けないと無効になります
 
 例えば、Tさんが、ある農地の地主であるPから農地を賃借しても、賃貸借については農業委員会の許可を受けていなければ、賃借人は有効に賃借権を取得する事ができません。通常、賃借人もこの事を知っているでしょうから、知らないとしても過失があると考えられますので、10年間で賃借権の時効が成立する事はありません。

 しかし、農業委員会の許可を受けていなくても、Tさんが外形上、賃借人として賃料を払って農地を使用していれば、それは、「賃借の意思に基づく賃借権の行使」という外形を有していますので、20年間、その状態が継続すれば、Tは時効により賃借権を取得する事が出来ます。

 このような事から、今回の場合も農地の賃借権の時効取得により、明渡しに応じる必要はありません。

 補足として
 農地法については、農地が長期間宅地化している(非農地化)場合は許可がなくても売買等が有効となるというような現況主義がありますので、前記のような時効の成立も農地法の許可制の規制趣旨には反しないと考えられています。

(民162条、163条)
(農地法3条)


借家が土地区画整理の対象になりました

 予期せぬ事ですが、私が借りている借地が土地区画整理事業の対象となってしまいました。このまま区画整理がされると、私の借地権はどうなるのでしょうか?それと同時に、借地権の登記をしていないのですが、それでも新しい換地で従来通りの借地権が認められるのでしょうか?


Ans
 仮換地指定(かりかんちしてい)がされると、登記済み借地権と、未登記でも申告済み借地権については、仮換地上に「仮に借地権の目的たるべき宅地又はその部分」が指定され、これにより指定された場所で使用収益権が認められます。
 申告しない未登記借地権は、指定がされませんので、仮換地において使用収益権は認められませんし、従前地についても使用収益権を失います。その後、換地処分がなされると、無申告の未登記借地権でも当然に換地に移行して権利が存続する事になります。また、一定の場合、賃料増減請求権、契約解除権等が認められています。


仮換地(かりかんち)とは

 公共施設の整備改善や宅地の利用増進を図るために行なう土地区画整理事業において、換地処分の前に、地権者用に割り当てられる仮の換地を「仮換地」といいます
土地区画整理事業は、広範囲の土地の区域にわたって行なわれる事業であり、また、こうした事業は非常に長期間を要することが多く、施行全区域について同時に移転工事等を完了することや地番整理を行なうことが不可能であるため、「仮換地」という制度があります。

 この制度は、建物の移転や公共施設の工事を行なうために必要な場合に、事業開始以前の宅地に換えて仮に使用または収益することのできる土地(仮換地)を指定するものです。
なお、仮換地とは換地予定地にあたり一時的な仮の換地を意味するものではありませんので、殆ど、仮換地となった土地が換地になります


仮換地指定処分と借地権

 仮換地指定処分は、宅地造成工事をする必要などの為、従前地に対応する仮換地を指定するもので、これがされると、従前地に対する使用収益権を有する者は、換地処分の公告があるまで、その権利を失ってしまいますが、その代わりに仮換地における使用収益権を取得します

 従前地上に登記された、または未登記でも施行者に申告された借地権がある場合は、仮換地上に「仮にその権利の目的となる宅地又はその部分」が指定されます(仮権利の指定ともいいます)。この申告は、従前地の所有者と連署するか、借地権を証する書面を添付してしなければなりません。
こうして仮権利の指定がなされると、借地権者は、仮換地において、従前地と同様の使用収益をする事が出来ます
 
 しかし未登記借地権者がその権利の申告をしていなかった場合や、借地権が従前地の一部分についてのみである場合などには仮権利の指定がされませんので、仮換地において何ら使用収益をする事が出来ません。したがって従前地、仮換地どちらとも使用収益権を失うという事になってしまいます
ただし、その場合でも従前地の所有者が了解すれば、仮換地についても使用収益の合意をする事は可能です。


換地処分と借地権

 仮換地処分がなされ、区画整理事業が終了しますと、最終的に換地処分がされます。そしてその公告の日から、換地計画において定められた換地は、従前地とみなされます。
この結果、従前地に存した借地権は、当然に換地上に移行して存続する事になりますので、未登記借地権で権利申告をしていなかった為、仮権利の指定を受けなかった者も換地上に従来と同様の権利を行使する事が出来るようになります。

 また、区画整理事業の施行により、借地の利用が増したり逆に妨げられてしまう事もあります。この場合、従前の賃料が不相当であると考えられますので、当事者は契約の条件にかかわらず、将来に向かってその増減を請求する事が出来ます。区画整理事業の施行により借地権を設定した目的を達成することができなくなった場合には、借地権を放棄し、又は契約を解除する事ができ、それによる損失の補償を施行者に請求することができます。

(土地区画整理法98条~104条、113条、114条)


法定地上権とは

 不動産の競売広告をながめていると、「法定地上権」という単語をよく見かけます。
法定地上権とはどのようなものなのでしょうか?


Ans
 法定地上権とは、同一の人が所有している土地と、その土地上にある建物が、競売などにより所有者が異なってしまった場合、法律により、土地に地上権の負担を発生させるものであり、所有者が異なってしまった地上建物を土地所有者から撤去を求められたりすることなく存続できるように法律が認めたものです
法定地上権は、抵当権に基づく任意競売の場合だけでなく、裁判等による強制競売や、国税徴収法による滞納処分の場合に認められます。


法定地上権の発生要件

 法定地上権は、賃借権、地上権が設定できない状態のときに、抵当権が付けられ、その後競売により所有者が異なるに至った場合に、建物の保護のために認められるものです

 抵当権に基づく競売の場合、法定地上権が発生する為には次のような要件を満たしていなければなりません

  1. 抵当権設定時に土地上に建物が存在する事
  2. 抵当権設定時に土地 と建物が同一の所有者に属している事
  3. 土地又は建物に抵当権が設定されている事(土地 と建物双方に抵当権が設定されている場合も含む)
  4. 競売により土地 と建物の所有者が別になる事(競売は、抵当権によるものでなくても、判決等による強制競売も含む)

色々な場面を予想する事が出来ますが、その状況によって法定地上権が成立するのかしないのかについて、ある程度まとめてみました。

  • 建物は未完成でも、屋根瓦を葺き、壁が出来上がっていれば、保護される建物と認められます
  • 抵当権設定時に建物が存在して、その後取り壊され、再築された場合は、旧建物の為に法定地上権が成立する場合におけるのと同一の範囲内で法定地上権が成立します
  • 土地 と建物の所有者は、実体的に同一であれば足り、形式上建物が前所有者など他人名義になっている場合でも可能です
  • 土地 と建物の所有者が、親子、夫婦の関係にあっても同一所有者とは認められません
  • 抵当権設定時に同一所有者に属していたが、その後、土地又は建物の一方が第三者に譲渡された場合には、法定地上権は成立します
  • 抵当権設定時に同一所有者に属していなかったが、その後、たまたま同一所有者に属する事になった場合には、法定地上権は成立しません
  • AさんBさん共有の土地上にAさん所有の建物があり、Aさんの土地持分のみに抵当権を設定した場合において、その抵当権が実行された場合には、Bさんの同意がない限り、Aさん所有の建物に法定地上権は成立しません(第三者が建物の所有者になってしまう事についてBさんの立場を考えると不公平なので)
  • Aさん所有の土地上に、AさんBさん共有の建物があったときに、Aの土地に抵当権が設定されていて、その抵当権が実行された場合、Bさんのためにも法定地上権は成立します


法定地上権の内容

 法定地上権は、競売における所有権移転時期、つまり、買受人が代金を支払った時に発生し、その範囲は、敷地のうち、建物の利用に必要な範囲であり、一筆の土地の一部について成立する事もあります

地代は、当事者の協議で決める事になりますが、当事者の協議で決まらない場合には、当事者の請求により裁判所が判決で決めます。
存続期間は、借地借家法の適用がありますので、最低30年となります。

登記については、法定地上権は物権ですので、登記請求権があり、建物所有者は土地所有者に対して登記手続きを請求する事が出来ます。仮に未登記であっても、建物が登記されていれば、借地借家法に基づき、第三者(土地の転得者等)に対抗する事が出来ます。

(民388条)
(民事執行法81条)
(国税徴収法127条)


公営住宅の家賃の値上げ

 私達は公営住宅に住んでいます。この度、市から家賃値上げの通知が来ました。
しかし、その額が以前よりかなり高額になっています。少し高すぎると思っているのですが、普通の借家の場合と同様に、従前の額を供託して争いたいと思っているのですが、可能でしょうか?


Ans
 市営住宅、県営住宅などの公営住宅には、借地借家法よりも公営住宅法が優先的に適用されますので、公営住宅の家賃の変更については、通常の借家と同じように従前の額を供託して争うという事は出来ないと考えられます。


公営住宅法

 公営住宅とは、公営住宅法に基づき、県や市などの地方公共団体が国の補助を受けて建設、買取または借上げをして、その住民のうち一定の低額所得者などに対して低廉な家賃で賃貸または転貸する為の住宅及びその付帯施設です

県や市が公営住宅を賃貸する場合の入居者の決定などについては、公営住宅法に規定があります。
そして、入居者が公営住宅を使用する場合における法律関係は、基本的には県や市と公有財産を使用する事が許された私人との間の公法的関係であると考えられていますが、その実質は、私人間の私法的な賃貸借関係と同じです。

したがって、公営住宅の使用関係については先ず、公法たる公営住宅法が適用される事になり、同法に適用がない事項については、私法たる借地借家法、民法の適用がなされるものと考えるのが相当であり、現に判例でもほぼこの考えに沿っています


公営住宅の家賃

 公営住宅の家賃は、毎年度、入居者の収入及びその公営住宅の立地条件等により政令で定める方法で地方公共団体が定める事とされています。(平成21年4月1日に改正されました)

この為、公営住宅の家賃の値上げについては、借地借家法で規定されているような、借賃増減額請求権、増減額につき当事者間の協議が調なわない場合に相当と認める額での支払い、請求をして後日の裁判確定後に清算する、といった規定は適用がないものと解されています。

これらの事から、今回の場合は、増額が不当だからといって従前の額を供託して争うという事は出来ない事になります。
もし、それをすると家賃不払いを理由として明渡しを請求されることにもなりかねません。
公営住宅は、本来低額所得者に対する低廉な家賃による賃貸という基本理念がありますので、入居者の収入が一定額を超えた時には明渡の請求をされる事もあります

(借地借家法32条)
(公営住宅法1条、2条、16条、28条、29条)


無償で貸した土地や建物と借地借家法

 私の伯父に私の土地や建物を無償で貸そうかと思っています。このように無償で土地や建物を貸す場合には、借地借家法が適用されるのでしょうか?
もし、適用されないのでしたら、貸した土地や建物はいつでも貸主の都合のいい時に返してもらえると聞いたのですが、本当でしょうか?


Ans
無償で土地や建物を貸した場合は、借地借家法の適用は受けません。この場合、民法に定められている「
使用貸借」の規定が適用されますので、返還の時期、使用収益の目的が定められていれば、それに従い、それら定めがなければ、貸主はいつでも返還を請求する事が出来ます。
しかし、親族同士の使用貸借などは注意を要する場合があります。


使用貸借と借地借家法

 賃貸借とは、賃料を支払っての貸し借りの事であり、使用貸借(民法593条)とは、無償でする貸し借りの事です。
借地借家法が適用されるのは、賃貸借の場合であって、使用貸借の場合には適用されません。

又、通常支払われる賃料に比べて著しく低額の金銭(せいぜい謝礼程度の金額)といったような、とても賃料とはいえない場合には、賃貸借ではなく使用貸借として扱われます。

その他にも、土地の賃貸借で借地借家法の適用があるのは建物所有を目的とするものですので、単にその土地を資材置き場として借りるといった場合には借地借家法の適用はありません。


民法の使用貸借の規定

 使用貸借の場合においてその返還時期はいつなのかを考える場合、次のような場合に分けられます。

  1. 使用貸借契約で返還時期が定められている場合
  2. 返還時期が定められていなくても使用目的が定められている場合
  3. 返還時期、使用目的いづれも定められていない場合
  4. 借主が死亡した場合

以下でこれらについて説明いたしますので、ご参考程度にお読みください。

  1. 返還時期が定められている場合
     使用貸借契約で返還時期が定められている場合には、その時期が来れば返還を請求する事が出来ます
    したがって、時期を限って、無償で土地、建物を貸した場合にはその時期に返還請求する事が出来ます。
  2. 返還時期が定められてなく、使用目的が定められている場合
     この場合には、その目的に従い、使用収益を終わった時、又は使用収益をするのに足りる期間が経過した時に、貸主は返還を請求する事が出来ます

    ここで注意すべき事は、建物を建てる事を承知して土地を無償で貸した場合です。この場合、建物の敷地として使用する目的での使用貸借となりますので、当該建物の使用が終わるまで、又はその使用をするに足りる期間が経過するまで返還請求できないとされる可能性が高くなりますので、貸した側としては長期間の契約となり、かなり不利なものになります。

    裁判例として
     30年近く経過した事案で、先程のような期間が経過したものと判断され明渡請求が認められたものもありますが、38年経過してもまだ先程の期間が経過していないとして明渡しが認められなかった例もあり、その事案ごとの事情によりけりです。

    又、使用貸借は無償であるだけにそれなりの信頼関係や親族関係の存在という通常とは違う特殊な事情が前提となっている事が多いので、前期期間が経過する前でも、使用貸借の前提となった信頼関係や親族関係が破綻をきたしたり、事情が著しく変化した等の場合には、使用目的の期間が経過したものと同様と判断されて使用貸借の終了、明渡請求が認められた裁判例も少なくありません。
  3. 返還時期、使用目的いづれも定められていない場合
     この場合、貸主はいつでも返還を請求する事が出来ます
    但し、明示の定めをしていなくても、前記のような建物敷地のための使用貸借の場合には、建物を所有(使用)するという目的があると判断されたりしますので、いつでも返還請求可能とはならないでしょう。

    又、扶養義務の履行としての目的、合意(黙示の合意)があると判断される事もありますので、それほど簡単に結論を出す事は出来ません。
  4. 借主が死亡した場合
     原則として、借主が死亡すると使用貸借は効力を失いますので、貸主は借主の相続人に対して返還を請求する事が出来ます
    しかし、例外的に建物所有目的の土地使用貸借の場合等では、当該借主だけでなくその家族の居住も使用目的に含まれるとか、借主の同居家族との間に特別な人的関係がある等と判断されて明渡請求が認められなかった裁判例があります。

(民593条、597条、599条)
(借地借家法1条)


マンションについての法律

マンションでペットを飼う事が出来るのでしょうか?

 私が住んでいるマンションでは、猫や犬などのペットを飼っている家庭をよく見かけるのですが、管理規約によると、ペットを飼う事は禁止されています。私の子供も犬を飼いたいらしいのですが、どうなのでしょうか?


Ans
 現在、多くのマンションの管理規約では、色々な形でペット飼育を制限する条項がおかれています。裁判においても「建物内において、犬を飼育してはならない」としております。


ペット飼育制限条項

 区分所有建物において、区分所有者は、建物の保存に有害な行為、その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないとされています。そうした事から、管理規約などでペット飼育禁止を定めた条項があるマンションをよく見かけます。
 そして、この規約の効力は、元々の区分所有者本人ばかりでなく、マンションを譲り受けた者や賃借人等に対しても及ぶものとされています。


ペット飼育制限条項の合理性

 同じマンションに居住している人の中には、動物が苦手な人もいるのではないかと思います

 マンション管理規約のペット飼育制限条項の合理性について争われた裁判があります。裁判所は次のような事を述べました。

現在の我が国の社会情勢や国民の意識等に照らせば、全面的に動物の飼育を禁止した規約は相当の必要性及び合理性を有し、規約により動物の飼育を禁止される者の受ける損害は、社会生活上受忍すべき限度を超えたものとは言えない

 そして、その理由として次のような事を挙げています。

  1.  共同住宅においては、居住者による動物の飼育によってしばしば住民間の深刻なトラブルが発生する
  2.  多くのマンションではこのようなトラブルを回避する為に動物の飼育を規約で禁止しており、動物の飼育を積極的に認め、あるいは一定の条件を設定して動物の飼育を認めているマンションは、社会的な話題となってマスコミなどが取材に訪れるなど希少な存在である
  3.  動物の飼育を認める規約を有するマンションでは、トラブルを防止する為、飼育方法や飼育を許される動物の定義などについて詳細な規定を設けている
  4.  そもそも共同住宅で他の居住者に全く迷惑がかからないように動物を飼育する為には、防音設備を設けたり防臭設備を整えるなど住宅の構造自体を相当程度設備した上で、動物を飼おうとする者の適性を事前にチェックしたり、飼い方等に関する詳細なルールを設ける必要がある事


ペット飼育を認めるマンション

 動物飼育制限条項を設けるマンションが多い中で、最近、マンションに住みつつペットを飼いたいと思う人たちも増加してきており、ペットの飼育を認めるマンションも出始めています。

「マンション標準管理規約」に関し、住宅宅地審議会の出したコメントはペットの飼育を認めるか否かは規約で定めるべきであり、飼育を認める場合は、次のような事項を定める必要があるといっています

  •  動物の種類及び数などの限定
  •  管理組合への届出または登録などによる飼育動物の把握
  •  専有部分における飼育方法並びに共用部分の利用方法及び糞尿処理などの飼育者の守るべき事項
  •  飼育に起因する被害等に対する責任
  •  違反者に対する措置

(建物の区分所有等に関する法律6条、46条)


マンションの専有部分と共有部分

 私は、分譲マンションに住んでいます。よく、「専有部分」と「共有部分」という言葉を耳にするのですが、どういったものなのでしょうか?


Ans
「専有部分と」とは、一棟の建物のうち構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所または倉庫その他建物としての用途に供する事が出来るものをいい、専有部分以外のすべての部分を「共有部分」といいます。


構造上区分された部分

 専有部分であるためには、一棟の建物のうち構造上区分された部分である事が必要です。「構造上区分された」という為には、隔壁や階層などといった建物本体の構造部分によって他の部分から遮断されている必要があります。

 マンションにおいては、各住居の構造上の独立性が保たれている事はいうまでもありません。しかし、ある専有部分と他の専有部分または共有部分とが接する境の壁について、どこまでが専有部分なのかという問題があります。

つまり、大別すると壁の表面だけが専有部分であり、他は共用部分であるという考え方と、壁の中心線によって分けるという考え方があります。有力な考え方は前者のようです。


利用上の独立性

 そして、専有部分であるためには、独立して経済的な取引単位として認められ、現に他の専有部分とのかかわりをもたずに利用できることが可能でなければなりません

つまり、壁などによって他の部分から遮断されていても台所や風呂場のみでは経済的な取引単位として認められず(風呂場だけ売買しても買手はいません)、他の専有部分とのかかわりを持たずに利用上の独立性があるとはいえません。
外部に出る為に他の専有部分を通らなければならない場合等も同様です。


建物の付属物

 建物の付属物とは、建物に付属し、その効用上建物と不可分の関係にあるもの、つまり電気・ガス・水道・冷暖房の配管等の事をいいます
 これらについては、本管から各専有部分への供給に固有の支管が専有部分に属すると考えるべきです。たとえ、本管と支管の接合部分が区分建物外にあったとしても、その接合部分から先が専有部分となるのです。


専有部分の利用・管理

 専有部分は、各区分所有者が自由に利用・管理する事が出来るのが原則です。しかし、建物の保存に有害な行為や共同の利益に反するような利用・管理は許されません

 専有部分を利用・管理している間に、増改築をしたくなることがあるかもしれません。
しかし、それは共用部分である柱や壁などの形状変更を伴うことですので、集会で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数決が必要となります。
たとえ、共用部分の形状変更を伴わない場合であっても、規約上、専有部分の増改築などを禁止している場合が殆どですので注意が必要です。

このような制限違反をして増改築をした場合は、工事の中止や原状回復を請求される事になります。
その他にも、居住用の分譲マンションでは、規約によりその専有部分を居住用以外の目的に変更する事を禁止されている事が殆どです。(用途変更禁止規約)

(建物の区分所有等に関する法律1条、2条、6条、17条、57条)


マンション建替円滑化法について

 私の住んでいるマンションもかなり古くなってきました。
最近、他の住民の方々から、「そろそろ建替えた方がいいのかなぁ」という声を聞きます。
そんな中、マンション建替円滑化法という法律があるそうなのですが、どのような法律なのでしょうか?


Ans
マンション建替円滑化法は、区分所有法に基づく建替え決議がなされたマンションの建替えを円滑に行う為に、建替事業を法人格のあるマンション建替組合で実施できるようにするとともに、マンション建替組合による、建替えに反対の区分所有者の有する区分所有権等の売渡請求ができる事としたほか、建替えようとするマンションの区分所有権や抵当権等の権利を再建マンションに移行できるようにするための権利変換手続きについて定めています。


マンションを建替える際の壁

 老朽化した分譲マンションの建て替えを行おうとする場合、区分所有法に基づいて建替決議を行う事が必要です

しかし建替え決議がなされても、多数の区分所有者が建替えに向けて歩調を合わせる事は至難の業です。
又、建替えについて歩調がそろったとしても、建替え工事の契約を締結すること一つをとっても建替え決議に賛成した区分所有者の全員が工事請負契約書に署名捺印しなければなりません。
これは煩雑であると同時に、責任の所在が明らかではなく、建替えの円滑な実施の上での妨げにもなりかねませんでした。

それに加えて、分譲マンションは区分所有権や抵当権、借家権等が輻輳(ふくそう)している為、区分所有者の建替決議だけで建替えが出来るわけではありません。
その他にも、建替えを円滑に進める為には、建替えに賛成の区分所有者が建替えに反対している者からその区分所有権を買取る事が必要ですが、これも実際上容易ではありません。

マンション建替円滑化法の主旨は、
こうした建て替えを考えている際の壁を、法人格のあるマンション建替組合を事業主体とすることを可能にして、マンション建替組合による区分所有権の売渡請求、権利変更手続きの導入により克服しようというものです


マンション建替組合の設立

 マンション建替決議がなされると、その決議により建て替えを行おうとする者5人以上が定款、事業計画を定めて都道府県知事(市の区域内では市長)の認可を受ける事によりマンション建替組合を設立する事が出来ます

こうして設立されたマンション建替組合は法人格を有するものとされています。
そして、その組合員は建替えに合意したすべての者ですが、民間のデベロッパー等も参加組合員として建替え事業に参加できるものとされています。


組合による区分所有権の売渡請求

 区分所有法は、建替え決議に反対した区分所有者の有する区分所有権の売渡請求をする事が出来るとされています

しかしこの売渡請求は、区分所有者個人が行う事になっている為、建替えをしようとしている場面を考えると容易ではありません。
そこで、組合が売渡請求をする事ができるものとされました。


権利変更手続き

 建替えを行うという事は、マンションを取り壊すという事になりますので、専有部分等の区分所有権や抵当権、その他賃借権等の権利は消滅してしまう事になり、建替えにあたってはこれら関係者の同意が必要ですので、実際上容易でありませんでした

そこで、マンション建替組合が権利変換計画を定め、都道府県知事の認可を受けた場合、従前の権利は権利変換計画の定めに従って再建されるマンションの専有部分等に移行する事とされました。《権利変換計画の決定等については、専門の知識を有する審査委員(3人以上)の過半数の同意を要するものとされています》

(マンションの建替えの円滑化等に関する法律)


災害でマンションが半壊した場合

 分譲マンションが地震や火災などで半壊・半焼してしまった場合、マンションの所有者はどうすればいいのでしょうか?
また、全壊してしまった場合にはどうなのでしょうか?


Ans
 分譲マンション所有者には、建物の一部が滅失した場合に、その復旧をする為の手続きがあります。又、全壊してしまった場合には、所有権の原則に戻り、全員一致で建て直しをするほかありませんが、平成7年に発生した阪神・淡路大震災のような災害によってマンションが全壊してしまった場合には、全員一致に至らなくてもマンションを再建する事が出来るようになりました。


小規模滅失

 建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失してしまった場合の事を小規模滅失といいます

 小規模滅失であった場合、各区分所有者は滅失した共用部分や自己の専有部分を復旧する事ができ、共用部分の復旧に要した費用を他の区分所有者に対して請求する事が出来ます。

又、区分所有者が復旧工事に着手するまでの間は、区分所有者の集会における決議により、共用部分を復旧する事も出来ます。
この場合には、決議に反対した者も復旧の決議に拘束され、共用部分の持ち分に応じて費用を負担しなければなりません


大規模滅失

 建物価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の事を大規模滅失といいます

 大規模滅失の場合、建物が重大な損傷を受けていますので、個々の区分所有者が復旧する事は認められていません。
この場合には、区分所有者の集会において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で、共用部分復旧の決議をする事が出来ます。

 そして、この決議に賛成した区分所有者以外の区分所有者は、賛成した区分所有者に対して、建物及び敷地に関する権利を時価で買い取るよう請求する事が出来ます。

これら 小規模滅失、大規模滅失どちらの場合でも、集会において、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数をもって建替え決議をする事が出来ます。


建物全部滅失

 区分所有建物全部が滅失した場合には、区分所有関係は消滅し、元の区分所有者の間には、敷地利用権である所有権の共有関係または借地権等の準共有関係だけが残る事になります

そして、この共有者等が同じ敷地に区分建物を再建する為には、民法の原則により、その全員の同意が必要とされます

 但し、大規模な火災、震災その他の災害で政令で定めるもの(政令指定災害といいます)により、区分建物の全部が滅失した場合において、その建物の敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であった時は、その権利を有する者はその政令の施行の日から起算して3年以内に、その敷地共有部分などの価格の割合による議決権の5分の4以上の多数で、その建物の敷地に主たる使用目的を同一とする建物を建築する旨の決議(再建の決議)をする事が出来ます。

(民251条、264条)
(建物の区分所有等に関する法律61条~64条)
(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法)


powered by Quick Homepage Maker 4.85
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional