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家族生活

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夫婦の問題

夫の愛人に慰謝料を請求したい

 私は夫と結婚してからかれこれ10数年経ちます。最近の事ですが、どうやら夫が勤務先に勤めている女性と長い間、不倫を続けている事がわかりました。
夫はこの不倫関係を清算したと言ってきたので、私は、私や子供たちの今後の生活の事も考えて夫との離婚は思い止まりました。
先日、私の友人が、夫と離婚しない限り夫の不倫相手に慰謝料の請求はできないと言われたのですが、本当なのでしょうか?


Ans
 あなたは、夫と離婚したかしないかに限らず、例外的な場合を除き、相手方女性に対して慰謝料の請求をする事が出来ます。


夫婦の一方の不倫は権利侵害行為

 婚姻関係にある者は、相互に他方の配偶者に対して貞操義務をはじめ、夫婦関係を円満に継続する為に各種の義務を負っています

したがいまして、夫または妻が不倫の関係をもった場合には、他方の配偶者は不倫関係をもった配偶者に対して、不倫行為により、これら各種権利を侵害されたこととなり、不倫行為により被った精神的な損害の賠償を求める事が出来ます。

いわゆる慰謝料の請求です。
不倫行為は必ず相手方がありますので不倫行為をした配偶者とその相手方は、共同で他方(不倫をされた)配偶者の各種権利を侵害して精神的な苦痛を与えた事になり、不倫をされた配偶者は不倫行為の相手方に対しても慰謝料の請求が出来ます。


慰謝料額の算定における斟酌事項

あなたが相手方女性に対して慰謝料の支払いの請求をする場合に

  • 不倫行為により、夫婦の婚姻関係が破綻したかどうか
  • あなたが離婚にまで至ったかどうか
  • 夫と相手方女性との関係が自然の愛情により生じたかどうか

等の諸事情は慰謝料請求の可否には関係ありません。

これら諸事情は、慰謝料請求の可否ではなく、具体的な慰謝料額の算定における斟酌すべき事項だとされています


慰謝料の金額

 では、実際にはどれくらいの金額が請求されているのでしょう
ある種の統計調査によると、今回の場合において裁判所で認められた慰謝料の金額は50万円から400万円までが比較的多く、その中でも200万円前後が多いそうです。

しかしそうだからといっても、裁判では、先ほど述べました諸事情をあなたが主張立証したうえで裁判所により総合的見地から慰謝料の具体的金額が決せられるのですから、こうした統計調査は1つの目安として考えて頂きたいと思います


慰謝料請求の出来ない場合

 慰謝料の請求をする事が出来ない場合をいくつかあげてみますと

  • 夫婦の婚姻関係が夫の不倫行為と関係なく既に破綻していて、単に戸籍上の夫婦にすぎないとなっている場合
       → あなたに妻としての権利を認める事は困難
  • 夫が結婚している事を隠して相手方女性と関係をもち、しかも相手方女性も過失なく夫が結婚している事を知らなかった場合
  • 夫が暴力や脅迫で相手方女性との関係をもった場合
       → 相手方女性も被害者と評価できる

といった場合でしょうか
不倫行為は当事者全員に共通しますが、後味が良いとはいえませんね

(民710条)


妻名義の預金は誰のもの?

 私は家計を預かる専業主婦です。将来の事を考えて倹約して夫の給料から毎月少しづつ私の名義の口座に預金してきました。
この度、自宅を新築する事になったのですが、その為の資金として私名義の預金を使おうと思うのですが、夫はこの預金は自分のものだから新築した自宅は夫だけの名義にするべきだと言っています。本当なのでしょうか?



Ans
 日々の生活の中で倹約してあなた名義の口座に預金したお金は、実質的にはあなただけのものでもなくご主人だけのものでもありません。
あなた方夫婦の共有財産になります
しかし、共有持分割合を具体的な数字で表す事は困難ですから、新築される自宅をあなた方夫婦の共有名義にする場合には、ご主人からあなたへの贈与税の問題が発生する可能性もあります。


夫の給料はだれのもの?

 夫が働いて得た給料は夫だけの働きで得た財産とは言えません
なぜならば、日常の家事や育児を妻が中心となって行うという内助の功があってこそ、夫はその時間の大半を仕事に費やす事が出来るからです。
したがって、夫が得る給料のうちの幾分かは妻の内助の功の対価であり、その給料も夫婦間の共有であるべきだからです。


共有持分の評価

 では、この共有持分はどのようにして決められるのでしょうか?
この点について判例では
夫の所得の2分の1が妻の所得となる事を否定し、妻の持分は財産分与や扶養の各請求権もしくは相続に際して実現されるべきで、こうした手続き以外では夫名義の所得の一部を妻の所得と評価する事は出来ない、とされています。

つまり、内助の功による夫の給料に対する妻の持分は認めるが、その持分は夫婦間の潜在的なものにすぎないというのです。
この判例の考え方からすると、あなた名義の銀行預金は、実質的にはあなた方夫婦の共有ですが、その持分割合を明らかにする事は出来ないという事になります。

どうしてもはっきりさせたいのでしたら、夫婦間の協議で持分割合を決定する以外にありません。
(ご主人が銀行からあなた名義の預金を自己の預金として払い戻しをうける事が出来るかなどの銀行とあなた方夫婦間の問題は別の問題になります)

ただし、あなた名義の銀行預金の原資は御主人の給料ですので、この預金を元手に新築した自宅をあなた方夫婦の共有名義で登記すると、税法上は御主人からあなたへの贈与税課税の有無が生じてしまいます。
現在の税制では、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用資産の取得を最終目的とした贈与については大幅な基礎控除が認められていますので、登記を申請する前に税理士にご相談される事をお勧めします。

(民762条)


夫の借金を妻が肩代わり

 夫がサラ金からお金を借りている事がわかりました。夫に聞いてみると、家業がうまくいってないらしくその為の運転資金捻出するためだそうです。そこで夫は、この借金で私名義の土地が差し押さえられるかもしれないので、書類上だけでも離婚しようと言っています。夫の借金で私の土地が差し押さえられる事があるのでしょうか?又、離婚すれば差し押さえは免れるのでしょうか?

Ans
 原則として、あなたが夫の保証人になっていたり、夫の借金の為にあなたの土地を担保に入れていない限り、夫の借金であなたの土地が差し押さえられる事はありません。

しかし、夫の借金が、あなた方夫婦においての日常生活を営む上で必要なものであるなら、日常家事債務としてあなた自身の借金でもある事になりますので、あなたの土地が差し押さえられる事があります。

夫婦といえども財産は別

 民法では、婚姻前に夫婦のそれぞれが婚姻前から所有していた財産と婚姻後に夫婦のそれぞれが自分の名前で得た財産(自分の所得で買ったり、贈与や相続で得た財産)は、その者の特有財産であると定めています。逆の事をいえば、借金についても同じ事が言えます。

そして、夫の借金は夫の財産で返済しなければなりませんので、その事であなたの財産が差し押さえられる事がないのが原則です。

しかし

  • 動産において、あなたの財産であっても、夫が占有していた夫の財産として差し押さえられてしまった
  • あなたの財産でも、名義が夫になっている財産が差し押さえられた

この様な場合には、第三者異議の訴えを提起して、あなたの財産を守る事が出来ます。

また、夫婦どちらの財産か判断できない時、その財産は夫婦の共有であると民法は推定していますので、夫の共有持ち分に対して差し押さえされる事もありますが、こうした場合に、それがあなた固有の財産であると証明する事が出来れば、第三者異議の訴えを提起する事がいいかと思われます。

夫の借金であなたの財産が差し押さえられる場合とは

  1. あなたが保証人になっている
  2. あなたが抵当権などの担保権を設定している
  3. あなた名義の財産でも、実際には夫が所有する目的で購入した

この様な場合があります。

日常家事債務

 その他に、夫の借金が、民法が定める日常家事債務であると判断された場合には、あなたも夫の連帯債務者となって連帯責任を負う事になります

民法の定める日常家事債務とは、衣食日、医療費、教育費、交際費等の家庭生活を送るために日常的に必要な費用やその為の借金の事をいいます。

何が日常家事債務に該当するかは、夫婦の生活規模、地域の慣習、取引の性質などを客観的に観察して判断する、とするのが裁判所の立場です。

高価なネックレス、子供の旅行費用捻出のための借金、夫の営む事業の運転資金の借り入れ、住宅建設の為の土地の購入は日常家事とはいえません。

又、こうした日常家事に該当しない場合でも、夫の契約や借金について

  • 妻が夫に代理権を与えたと認められ、かつ、夫の契約の相手方が、夫が妻の代理人であると信用するのもやむおえないと認められる事情がある
  • 夫のした契約や借金の相手方が、その契約や借金が日常家事債務の範囲内であると信じるのもやむおえないと認められる事情がある

こうした場合以外には、妻が連帯責任を負う事はありません

 今回のご質問の後段については
離婚後の夫の借金は別として、妻が夫の借金を負わなければならない場合において、夫婦が離婚した場合は、たとえ表面上の離婚だったとしても妻は責任を免れる事はできません。

(民761条、762条)
(民事執行法38条)



夫婦間の約束を取り消す

 私は夫と結婚してからずっと波長が合わないのですが、夫が「退職金の半分はあげる」と言ってましたので、今日まで我慢してきました。今回、夫に退職金が出たので、約束通り退職金の半分をもらって離婚したいと思っています。
しかし、夫は「夫婦の約束はいつでも取り消せるから退職金の約束は取り消す」と言って取り合ってもらえません。以前に、夫に一筆書いてもらっていますが、夫の言い分は正しいのでしょうか?

Ans
あなたの夫の言い分は、原則的には正しいと思われます。
しかし、あなた方夫婦の関係が実質的に破たんしていると評価できる場合には、ご主人の言い分は誤りという事になります。


民法の規定

 民法は、夫婦間の契約は、第三者の権利を害しないかぎり、婚姻継続中にいつでも取り消す事が出来ると定めています。

この規定は、夫婦間の約束は、その約束が真意に出たものかどうか分からない事が多いために、そのような約束の実現に裁判所が助力するのは夫婦の円満をかえって損なうこととなり、夫婦間の約束の履行は夫婦の愛情と道義心に任せるべきだ、との判断に基づいていると説明されています。

 しかし、夫婦間が円満でしたら、夫婦間での約束事は民法の規定により解決する必要はないと思いますので、民法の規定が威力を発揮するのは、愛情、道義心による解決が不可能な程度に夫婦仲が悪化している時が実情です。

例えば、妻が離婚を承諾する条件として、夫が妻に不動産を贈与するという約束をして離婚届に署名捺印をさせた後、離婚届の提出前に民法の規定によって、その贈与契約を取り消してしまう場合です。この様なケースは信義に反すると言わざるを得ません。


現在の裁判所の考え方

 判例も、夫婦の一方からの契約取消権の行使が許される場合を狭くする努力を戦前から行っています。現在では、夫婦の一方からの取消権が現実に行使されている時に婚姻関係が円満に継続されている時に限り、取消権が認められる事になっています。

 今回の場合、あなた方夫婦が単なる戸籍上の夫婦であるという形式的な関係だけで、実質的には夫婦の関係にはなく離婚したのと同じような状態であるならば、あなたのご主人の取消権の行使は認められないこととなります。

 また、ご主人に一筆書いてもらっていますので問題になりませんが、贈与契約を証する書面がない場合、書面によらない贈与の未履行部分は取り消すことができる、という民法の規定がありますので、夫婦の一方からの取消権の行使が認められない場合でも、書面によらない贈与についての規定との関係が問題になる場合があります。

(民754条、549条、550条)


結婚しても今までの姓でいられるのでしょうか

結婚する事になったのですが、名字が変わると仕事にさしつかえる事になるかもしれないと思っています。出来るなら、今までの名字のままでいたいのですが、可能なのでしょうか?

Ans
 結婚すると夫婦が別の姓のままでいる事は出来ません。どうしても今までの姓を名乗りたいのでしたら、夫婦双方があなたの姓を名乗るという事を決めて婚姻届を出す必要があります。ただし、戸籍上の名字は変わっても婚姻前の名字を通称として使う事は出来ます。


夫婦同氏の原則

 民法には、法律上の婚姻をした夫婦は必ず同じ姓を名乗らなくてはならず、その性は婚姻前の夫または妻の姓どちらかでなければならないと定めています。(夫婦同氏の原則

 婚姻届を提出する際には婚姻後に名のる姓を決めなければならないので、婚姻後に称する姓についての合意がなされない場合は、婚姻届を提出する事ができません。つまり、法律上の婚姻をする事が出来ないのです。


「通称」として使用

 現在の日本社会は家とか家名、その他男性優位の考え方も残っていますので、ほとんどの夫婦が夫の姓を称する結婚をしているのが現状です。

 その為、戸籍上も変わらないようにするためには内縁関係にしなければならなくなり、そうなりますと子供が嫡出子となる事ができなくなり、子供の戸籍の問題も生じてしまいます。

 そこで、婚姻前の姓を「通称」として用いるという方法もあります。
通称使用にしますと、役所関係等の公的な場合の届出をする時には本名を使用しなければならなくなり、本名と通称の使い分けが大変になるというデメリットがあります。


民法改正の動き

 現在では、個人の尊厳の点から、婚姻により一方の姓が変更されるのは問題であるといった意見や、女性が姓の変更により不利益を受ける事が多くなってきています

そんな中で、従来の方法に加えて、夫婦それぞれが婚姻前の姓を称する事も認めるよう、民法を改正しようという声が大きくなっています。しかし、夫婦別姓が法律上すぐに認められるかは少々疑問です。

(民750条)
(戸籍法74条1号)


婚約を解消した時の金銭的な清算は

 ある男性と婚約していたのですが、この男性はある事情から婚約を解消してしまいました。私は、結婚準備で家財道具等を購入、会社も退職してしまったのですが、婚約を解消された事で私が支払った費用の清算を相手の男性に請求する事が出来るのでしょうか?

Ans
 この場合、相手の男性に婚約解消するについての「正当事由」がなければ、あなたは諸費用、退職した事により受領できなかった一定期間の給料や慰謝料を請求する事が出来ます。
つまり、「正当事由」の内容によります。

正当事由」とは円満かつ正常な婚姻生活を将来営めない原因となり得る客観的かつ具体的な事情をいいます。

解消理由が「正当事由」となり得る場合

  • 相手が他に異性関係がる
  • 相手から虐待・侮辱された
  • 相手が挙式や婚姻の届出を合理的理由なしに一方的に延期
  • 相手が態度を豹変させ極めて政酷な態度をとるようになった
  • 相手の経済状態が極めて困難な状態に悪化した

解消理由が「正当事由」となり得ない

  • 相性、方位が悪い
  • 性格が合わない
  • 家風に合わない
  • 親が反対している
  • 婚約後に他に好きな人が出来た

 婚約した当事者の一方が婚約成立する前に正当事由なく解消した場合を「婚約の不当破棄」といいます。
この場合、破棄した者は、破棄した事により相手に生じた損害の賠償をしなければなりません。

損害賠償を求める方法

  1. 話し合い
    これがダメなら
  2. 家庭裁判所に調停の申し立て
    これでも解決できない時は
  3. 地方裁判所に訴訟を提起

(民法709条,710条)

結納を返還しなければならない場合

 得意先に勤務する方と婚約して結納、婚約指輪を頂き来月には結婚式を挙げる予定でしたが、相手の方が先日交通事故で亡くなってしまいました。この場合、婚約指輪等をお返ししなければならないのでしょうか?

Ans
 お気の毒ですが、受領した結納等は、法律上は「不当利得」の状態ですので返還する事が原則です。
「不当利得」に基づく返還義務の範囲は「現に利益を受けている限度」とされていますので受領した結納がそのままの形で又は形を変えて存在しているのでしたらその存在している分だけを返還すれば足ります。
 
 ただ、婚約当事者双方に責任がない場合において、返還の有無は双方の合意で決するのが一番ですので相手の遺族とよく話し合ってみたほうがよろしいです。
また、地域によっては結納を返還しない慣行となっている場合も有りますので調べてみるとよいでしょう。

(民703条)

結納を返還する必要のない場合

 ある男性と婚約して結納金等をもらい、すでに殆んど結婚の支度に使ってしまったのですが、相手の男性が、他に好きな人がいるから婚約を解消したいと言ってきました。
私は同意したのですが、この場合、結納金等を返さなければいけないのでしょうか?

Ans
 相手の男性が貴方との婚約解消について正当事由がないのですから、受領した結納金等を返還する必要はありません。

 結納は結婚の成立を目的とした貴方への贈与ですから婚約解消された場合には、結納金等は不当利得として返還するのが原則です

しかし
 正当な理由もないのに結納を授与した者が一方的に婚約を破棄した場合のように、授与した者のみに責任がある場合、結納の目的を達成できなくなった責任を負うべき者に返還請求を認める事は、信義則に反します
双方に責任があって授与した者の責任の程度が大きい場合も同様です。

(民703条)

日本人と外国人との日本での結婚は

 私は未成年で日本人です。今度、日本で生活している外国人女性と真剣に結婚を考えています。結婚するための条件や手続きを教えて下さい。

Ans
 貴方の親権者が結婚に同意をし、相手の外国人の方が本国の法律で定められている婚姻の条件を満たしていれば、その証明書(婚姻要件具備証明書)と国籍証明書を添えて、日本の市町村役場に婚姻届を提出すれば婚姻となります。

外国人との婚姻が有効になる為には

外国人の方の本国の法律で定められている婚姻の条件を満たしている
 必要な書類

  • 国籍証明書
  • 本国の法律が定める婚姻の条件を備えている事を証明する文書
    (戸籍制度があれば戸籍謄本、合理的理由により得られない場合は申述書)

日本の民法が定めている婚姻の条件を満たしている

  • 日本人のあなただけが必要な要件
    婚姻年齢
    父母の同意
  • 貴方と外国人の方双方が備えなければならない要件
    (代表的なものとして)
    重婚ではない
    近親婚ではない

という事が必要です。

又、日本人男性と外国人女性が婚姻をしても相手の女性は日本国籍を取得しないのが原則です。貴方の戸籍の身分欄に相手の国籍、氏名、生年月日が記載されるだけです。
婚姻によって相手の女性の住所が変わる場合には、外国人登録の変更登録申請をする必要がありますし、在留資格を「日本人の配偶者」に変更する手続きも必要になります。

(民731条~737条,739条)
(法の適用に関する通則法24条、25条)
(戸籍法25条、75条)
(戸籍法施行規則56条)

ほんの出来心でした婚姻届

 若い頃、ほんの出来心で外国人女性に日本国籍を取得されるために、その女性と婚姻届を出してしまいました。今は、反省しています。
そして、最近結婚話も持ち上がったのですが、前の婚姻届を無効にする事ができるのでしょうか?

Ans
 外国人女性との婚姻届は、両者に婚姻意思がないので無効になるかと思われます。そして、貴方の戸籍を真実に合致させるには、外国人女性を相手として婚姻無効の調停又は訴訟を提起する必要があります。

法律上の婚姻関係

法律上の婚姻関係がっ成立するためには

  • 婚姻届を提出する意思
  • 社会生活上の夫婦としての関係を作り、この関係を継続維持していこうとする意志(婚姻意思

これらが必要ですが、今回の場合は、婚姻意思を認める事ができませんので、婚姻届は無効であります。そして婚姻届を無効にするには、家庭裁判所における調停又は訴訟により公に確認される必要があります。

 あなた方の婚姻が無効である事を相手の外国人の母国においても無効とする為には、その国の法律に従った手続きが必要です。
相手の外国人の母国においても法律上の婚姻の成立には婚姻意思が必要だと思われますので、日本での婚姻無効の合意に相当する審判の審判書や判決書が実質的な婚姻意思の無いことの証拠になるかどうかだと思われます。

あなたの戸籍の訂正と再編

 あなたの戸籍については、先ほどの審判や判決が確定し、審判書や判決書の謄本と確定証明書等を添付して、婚姻が無効になった事を市町村役場に届け出る事で、その旨が記載される必要があります。
又、婚姻届がされた事と婚姻無効が確定した事実の記載の双方を、記載された後に請求すれば、双方が存在しない戸籍を新たに編製してもらう事ができます。

(民742条)
(家事審判法23条)
(戸籍法11条の2)


親子の問題

親権とはどのようなものなのでしょうか

 先日、私の知人が離婚する事になりました。夫婦のどちらが子供の親権者になるかという事でもめているそうです。
今まで、あまり意識していなかったのですが、親権者とか親権とはどのようなものなのでしょうか?


Ans
未成年の子に対する親の権利義務を親権といい、親権を行使する者を親権者といいます。親権の内容は大きく分けますと、子の身上監護に関する事と財産の管理に関する事に分けられます。


子の利益のための親権

 未成年の子を子の利益のために保育・監護・教育する事についての親の権利義務を親権といい、それらの権利を行使する者を親権者といいます。

親権は、親の子に対する一方的な権利のように考えてしまいがちですが、親権の内容は、子の福祉をはかる事であり、親権を適切に行使する事は、子及び社会に対する義務でもあります



親権関係の当事者

 親権に服するのは未成年の子に限ります。但し、未成年者であっても結婚すると成年に達したものとみなされるので、親権には服しません

実子の親権者は実親であり、養子の親権者は養親です。父母が婚姻中であれば共同で親権を行いますが、父母が離婚する際には、父母の一方を親権者と定めます。
非嫡出子の親権者は原則として母ですが、父が認知すると父母の協議または審判により父を親権者と定める事が出来ます。

また、親権は子の身分上、財産上といった広い権限を含むものですので、成年被後見人、被保佐人は親権者になれません。
同じように、親が未成年者の場合は親権者になれず、成年に達するまでは、親である未成年者の親権者等が親権を行うべきものとされています。



親権の具体的な内容

 親権の内容は、子の身上監護権,子の財産管理権に大きく分ける事が出来ます
身上監護権
身上監護権の最も基本的な内容は子の利益のために子を監護教育する事です。

つまり、実際に子と心身ともに健全な社会人として養育する事です。離婚をする際に、夫婦のどちらが子供の親権者となるかで争いが起こるのは、このように親権者は実際に子供を手元に置いて育てていく権利を有しているとうのが大きな理由です。

そして、親権者は監護教育をするために次のような権利も有しています。

  • 子の居所を指定する権利 (居所指定権
  • 子の利益の為に子を監護及び教育をするのに必要な範囲内で懲戒を行う権利 
    懲戒権
  • 子が職業に就く事を許可する権利 (職業許可権

財産管理権
未成年者は、自分の財産を管理する十分な能力を有していないので、親権者が代わってその財産を管理する必要があります。
具体的に

  • 子を代理して自ら財産上の行為を行う権利(代理権
  • 子が財産上の行為を行うにあたって同意を与える事が出来る権利(同意権
     →親権者の同意なくしてした財産上の行為は取り消す事が出来ます。
    》子供が勝手に高額な学習教材を購入する契約をしてしまった場合において、親権者の同意がない事を理由に契約を取り消す事


その他の権利

 その他にも親権者は、15歳未満の子の養子縁組の代諾、15歳未満の子の氏の変更の申立ての代理、認知の訴えの提起や嫡出否認の訴えの被告となること、一定の身分上の行為を子に代理して行う権利といったような権利を有しています。

(民818条~824条)


私と先妻の子の関係

 私が夫と結婚する際に、夫は再婚です。私は結婚後、夫と先妻との間の子を実の子のように育ててきました。
私と夫の子の間に親子関係はあるのでしょうか?

Ans
 あなたと夫の先妻の子の間には法律上の親子関係はありません。


法律上の親子関係

 親子の間には、相続や扶養などの権利関係について一定の効果が生じます。法律上、この様な親子関係があると言えるのは実の親子関係、養子による親子関係だけです

実の親子関係は、原則として「血がつながっている」場合に認められるものです。又、養子による親子関係は「養子縁組」をしなければ生じません。
たとえ、子供の実親と結婚したり、子供と事実上親子として生活していたとしても、法律上の親子関係があるとは言えないのです。
今回の場合にも、法律上、お子さんの母親は夫の先妻です。あなたと子供の関係は1親等の姻族関係があるだけです。


相続や扶養

 では、あなたと子供の相続や扶養についてはどうなるのでしょうか?
まず、相続については、相互に相続関係はありません
あなたが亡くなったとしても子供があなたの財産を当然に相続する事は出来ません。

次に扶養義務ですが、親子であれば直系血族として互いに必ず扶養義務を負いますが、あなたと子供の間に扶養義務は当然には発生しません

あなたに扶養義務を負担させるのが相当と認められる様な「特別な事情」がある場合に、家庭裁判所の審判を得る事によって初めて具体的な扶養義務が発生する事になります。

この「特別な事情」とは、例えば
経済的な対価を得ているとか、それまで反対に養育されていたなどの事情などと考えられています。
 その他に、あなたは子供の親権者になれません。子供の現在の親権者は夫と思われますが、夫のみが親権を行使できるのです。
又、夫が死亡した場合、子供の後見人の選任が必要になります。


養子縁組

 あなたと子供の間に親子関係を発生させるためには、養子縁組をする方法があります

普通養子縁組は、子供が15歳以上であれば子供の意思で、15歳未満であれば夫が子供に代わって縁組を承諾する事により成立します。 その他に、特別養子縁組という制度もありますが、判例は現在、夫婦の一方が他方の連れ子を特別養子とする事を簡単には認めてくれません。

先ずは、あなた、夫、先妻、子供が大きいのであれば子供も含めて、関係当事者でよく話し合ってみる事が必要だと思います。

(民797条、809条、877条、887条)


今後、子供の認知を求めないという約束

 私には妻子がいます。家庭は円満です。しかし、間が差したといいますか、別に交際している女性がいて、その女性に子供が出来てしまいました。後々のトラブルを避けるために、その女性との間で、養育費相当額のお金を支払う代わりに、今後、子供の認知は求めない。という約束を取り交わしたいのですが、この様な約束は有効なのでしょうか?

Ans
 認知を求めないという約束は、法律上無効です。


認知請求権の放棄

 父が非嫡出子またはその母に対し金銭その他の経済的な利益を与えて、その代わりに、今後父に対して認知請求をしないことを約束させるという、認知請求権を放棄をする約束は有効なのかどうかというのが今回の問題です。

古くから判例は、子の父に対する認知請求権の放棄は法律上許されないという見解を示しています。学説上も、判例と同じ考え方をするものが多数です。

その理由として

  1. 認知請求権というのは親子という身分関係を発生させる身分法上の権利であり、財産権のように当事者が勝手に放棄することはできない
  2. 認知請求権の放棄を認めれば、経済的に困窮している立場にあることの多い非嫡出子が僅かなお金を受け取って放棄を約束させられる事になりかねず、認知によって非嫡出子の保護を図ろうという法の趣旨を逸脱するおそれがある
  3. 認知請求権を放棄する約束は、子の幼少期に子の親権者である母親との間で約束される事が多く、真に子供自身の意思に基づいているとはいえない

といった事を挙げる事が出来ます。


十分な経済的対価を与えた場合

 これとは反対に、父は非嫡出子に養育費などとして十分な経済的利益を与えた場合には、非嫡出子の保護に欠ける事は少ないので放棄を有効としてもよいとする考え方もあります。

しかし、先程も申しました通り、認知は、単に養育費支払い義務を発生させるだけのものではなく、親権や相続など、親子としての一般的な効果を発生させるものです。認知を求める理由の中には、精神的、社会的に父親が欲しいという事もあるからです。


裁判所は認知の請求を棄却する事はない

 認知請求権を放棄する約束は法律上無効であり、そのような約束をしても、後日、子または母親から認知の訴えを提起された場合、あなたが、母親との間でした認知請求権の放棄の約束をした事を主張しても、裁判所はそれを理由に認知の請求を棄却する事はないでしょう。


嫡出子として届け出た他人の子供との離縁について

 私たち夫婦は子宝に恵まれませんでしたので、知人から生後間もない子供を養子にするつもりでもらいうけましたが、実の子でない事を知られたくなかったので養子縁組届ではなく、嫡出子として出生届を提出してしまいました。それ以後30年間実の親子として生活していたのですが、最近親子の間でけんかが絶えなくなってしまいましたので、思い切って親子の縁を切り、戸籍上も親子でないことをはっきりさせたいのですが、可能でしょうか?

Ans
 親子関係がない事を確定し、戸籍を訂正するには親子関係不存在確認の審判又は判決を得る必要がありますが、個々の具体的事情によっては訴えの提起が権利の濫用になる事もあり、認められない事もあるでしょう。


虚偽の嫡出子出生届

 他人の子供を養子にする際、養子である事をわからないようにしたいとの理由で、戸籍上は嫡出子として届け出る事が昔から行われてきました。現行の戸籍法の下では、出生届の際に医師などの出生証明書の添付が必要とされるのが原則ですので、真実とは異なる出生届がされる事は少なくなりました。

 虚偽の嫡出子出生届は無効です。たとえ戸籍上に嫡出子と記載されても、法律上の嫡出子親子関係が生じるわけではありません。
しかし、長年親子として生活してきたのに、いきなり後になって法律上の親子関係が全く否定されてしまうのは、身分上も財産上も不当な結果をもたらす事もあります。


裁判所の考え方

 そこで、虚偽の嫡出子出生届に養子縁組届の効力を認めてもよいのではないかとの考えが昔からありました。これについて下級審では、養子縁組の効力を認めたものもありますが、最高裁判所は、養子縁組は法定の届出を必要とする要式行為である事を理由にこのような考え方を否定しています。

この様な最高裁判所の考え方からすると、虚偽の嫡出子出生届は嫡出子出生届としてはもちろん、養子縁組届としての効力も認めないという事になります。したがって、虚偽の出生届による戸籍を訂正するには、親子関係不存在確認の審判または判決を得る事になります。



権利の濫用

 ただ、長年事実上の親子関係を何らの合理的な理由もないのに否定する事は不当と認められる場合には、裁判上で親子関係の不存在を主張する事は権利の濫用と判断され、訴えが棄却される事はあるかと思われます。

今回の場合も、あなたが戸籍上のお子さんと不仲になった理由などによっては、訴えが認められない事もあります。

補足として、戸籍上、養子である事をわからないようにするために虚偽の嫡出子出生届がされていた事に配慮して、戸籍上、養子であることが明記されない特別養子縁組制度が昭和62年に創設されました。


内縁関係の男女の間に生まれた子の養育費

 結婚を約束した男性との間に子供を産みました。しかし、子供が生まれた途端、その男性は私に冷たい態度をとるようになり、その挙句、他の女性と交際をするようになりました。私はこの男性に養育費を請求する事ができるのでしょうか?

Ans
その男性に子供を認知させる事ができれば、養育費を請求する事ができます。


非嫡出子

 内縁関係や単なる性関係等、正式な婚姻関係にない男女の間に生まれた子供を、非嫡出子といいます。非嫡出子は分娩の事実により母子関係は当然に発生しますが、父子関係は、父が子を認知する事によってのみ発生します。


強制認知

 男性が認知を拒む場合には、子または母が男性を相手方として認知の訴えを提起する事ができます。(強制認知
この訴えは調停前置主義ですので、まず家庭裁判所に認知調停を申し立て、この調停で合意が得られなければ、訴えを提起する事になります。訴えを提起する事ができる期間は父親生存中はいつでも、父親死亡後は3年以内にしなければなりません。

 強制認知は、訴えを起こした側が証明しなければなりません。
この証明は

  • 子の母が相手方と懐胎可能期に交渉を持った事
  • 生まれた子供の血液型と相手方の血液型が矛盾しない事
  • 相手方の父としての言動
  • 人類学的検査による子と相手方の類似性

などによってします。


出生時に遡って請求する事ができる

 父親に認知をしてもらい、父子関係が発生したので、養育費を請求したにもかかわらず支払わない場合は、家庭裁判所に養育費支払いの調停又は審判を求める事ができます。
又、認知の効力は子の出生の時に遡りますので、これまであなたが支出してきた分娩費や養育費についても父親が負担すべき部分は償還請求する事ができます。

(民779条~783条、787条)


嫡出子・非嫡出子とは

 子供が一人おりますが、子供の父親と婚姻届を出していません。この様な子供は正式な夫婦の子供と法律上違いがあるのでしょうか?

Ans
 法律上、正式に婚姻関係にあある父母の間に生まれた子供を嫡出子、そうでない子を非嫡出子といいます。法律上の父子関係、相続分においての違いがあります。また、子の父母の婚姻を原因として非嫡出子に嫡出子の身分を取得させる事が出来ます。


 母子関係は分娩の事実により当然に発生しますが、父子関係は非嫡出子を認知して初めて発生します。認知されていない場合は父親の相続権も有りません。
法定相続分に関しては非嫡出子は嫡出子の2分の1となります。
非嫡出子は

  1. 認知された子の父母が婚姻する場合(婚姻準正)
  2. 父母の婚姻後に父が子を認知する場合(認知準正)
    と、どちらかの方法で嫡出子の身分を取得する事が出来ます。 

(民900条4項但し書、789条)


結婚7か月半に生まれた子供

 結婚後すぐに婚姻届を出しました。それから7ヵ月半で妻が子供を産んだので、妻に聞いたところ、婚姻直前まで他の男性と交際していた事がわかりました。この子供について私の子供でない事をはっきりさせたいと思っているのですが、どうすればいいでしょうか?

Ans
 子供との親子関係を否定するには『嫡出否認の訴え』という方法によりできます。

 婚姻関係にある男女間で懐胎、出生した子の事を嫡出子といいます。
婚姻成立の日から200日後、又は婚姻解消・取り消しの日から300日以内に生まれた子は嫡出子と推定されます。
嫡出子と推定される場合に、子と父との関係を否定するには『嫡出否認の訴え』という方法によります。


嫡出否認の訴え

  • 提起できる者
    原則、子の母の夫(つまり貴方)
  • 提起できる期間
    夫が子の出生を知った時から1年以内
    (自己の子であることを認めてしまったら提起できません)
  • 提起する相手方
    子または親権を行う母
  • 提起方法
    調停前置主義
    家庭裁判所に嫡出否認の調停の申し立てをする
    調停合意成立⇒ 合意に相当する内容の審判をし、異議がなければ確定
    合意できない⇒ 家庭裁判所へ訴えの提起

戸籍上、子供があなたの嫡出子と記載されている時は審判書か判決の謄本を戸籍役場に提出する事により訂正してくれます。

(民772条,774条~777条)

離婚してから子供が生まれたのですが

 妻が不倫関係にあったので、私は別居しています。1年以上離婚の話し合いを続けた後、離婚しました。その後、妻が離婚後5カ月程経って子供を産みましたが、私は放ってきました、しかし、1年以上経ってから子供の養育費を請求してきたのですが、どうしたらいいのでしょうか?

Ans
 貴方は『親子関係不存在確認の訴え』により父子関係を否定できます。

嫡出否認の訴えが出来るのは
(推定される嫡出子)
離婚後300日以内に生まれた子供で、出生を知った時から1年以内ですので、貴方の場合は期間経過しています。

しかし、判例は妻が夫によって懐胎することが不可能な事実がある時は嫡出推定がおよばない事を認めています

離婚状態で夫婦関係が断絶している
夫が行方不明
海外滞在中
在監中
夫が生殖不能
夫と子の血液型が背馳(はいち)

この様な嫡出推定がおよばない子との父子関係の否認は『親子関係不存在確認の訴え』になります。

親子関係不存在確認の訴え

  • 提起できる者
    身分上、利害関係のある者
  • 提起できる期間
    期間制限なし
  • 提起する相手
    子供
  • 提起方法
    家庭裁判所に親子関係不存在確認調停を申し立てる
    合意できなければ家庭裁判所に親子関係不存在確認の訴えを提起

戸籍上、子供があなたの嫡出子と記載されている時は審判書か判決の謄本を戸籍役場に提出する事により訂正してくれます。


夫との別居中に他の男性との間の子供の出生届

 夫からの暴力に耐えかね、別居して4年になりますが、その間、親しく交際する男性ができ、その男性との子供を出産しました。このまま出生届を出すと夫の子として戸籍に記載されてしまうのでしょうか?

Ans
 何もしないまま出生届を出してしまうと夫との間の嫡出子として戸籍に記載されてしまいます。こうした事態を避ける為に夫との間で、親子関係不存在確認の調停もしくは訴訟、又は、実の父に対する認知を求める調停若しくは訴訟という手続きが必要です。

民法は一夫一婦制を原則としています。
ですので、婚姻中の妻が懐胎した子は夫の子であると推定されます。
しかし、婚姻中の妻が夫によって懐胎する事が不可能な事実(例えば、夫が海外赴任中で帰国した事もない間とか、妻が夫から逃げだして別居中等)がある場合まで772条による嫡出推定をおよぼすのは不合理であります。裁判例でも、これらの推定がおよばない場合がある事を認めています。

 この772条の推定を覆すため、子または母が夫に対して親子関係不存在確認の訴えを家庭裁判所に提起して、子と夫との父子関係を否定する方法が認められています。
又、夫との間の親子関係不存在確認の訴えの手続きを経ることなく、子の母が親権者として子の実父に対する認知の調停を家庭裁判所に申し立てる事ができます。
その際に

  • 実父も認知に同意していればDNA鑑定と民法772条1項による嫡出推定がおよばない事情の存在に関する調査を経たうえで家庭裁判所による合意に相当する審判がされる方法も認められています。
  • 実父が認知に同意していない場合は家庭裁判所による調停を経た上で、実父を被告として認知の訴えを提起する事になります。

 親子関係不存在確認の訴えにより夫と子の父子関係が否定され又は実父との認知の訴えで認知が認められる審判や判決が確定すれば、この審判書や判決書の謄本を添えて子の出生届を行う事ができますが、夫との間の法律上の婚姻関係は継続していますので、子を筆頭者とする単独の戸籍が作成される事になります

 離婚後300日以内で、お付き合いされている男性との間の子供を出産し、同じような手続きを経た場合は、あなたの戸籍に実父を父として子が記載されます

この様な問題に関しては弁護士さんに相談される事をお勧めいたします。

(772条)
最判昭44・5・29判時559・45


氏、名、戸籍に関する事

性同一性障害と戸籍

 性同一性障害がある人が戸籍上の性別を変更できるとの事ですが、この性別の変更の手続きはどのようにすればいいのでしょうか?


Ans
 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)が定める一定の要件を備えている人については、家庭裁判所の性別の変更を認める審判を得る事により、戸籍上の性別の記載を変更する事が出来ます。


性同一性障害

 性同一性障害とは、生物学的には男性または女性であることが明らかであるにもかかわらず、心理的には自分の性別は生物学的な性と反対の性であると確信している状態の総称です

自分の性別に関する心理的な確信を「性自認」といいます性同一性障害とは生物学的な性別と性自認とに齟齬(そご;食い違うこと)が存在する状態であるという事になります
性同一性障害特例法の適用の対象とされる人とは

  • 生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれと別の性別であるとの持続的な確信を持っている
  • 自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意志を有する者
  • 性同一性障害に関する専門的な知識を有する2名以上の医師によって性同一性障害を有すると診断されている者

といった要件を満たしていなければなりません。


戸籍上の性別の変更の必要性

 性同一性障害を有する人が性別適合手術を経て自己が持続的に確信している性別にみあった外観を備えるまでに至った場合でも、以前は戸籍上の性別を、性自認に沿った性別に変更する事は出来ませんでした

その為、戸籍謄本や住民票といった公文書を提出する際や、健康保険証を提示して保険医療を受けられないとか、思う職業に就こうとする際、生物学的な性別と性自認との齟齬が明らかになり他人にわかってしまって社会的な偏見にさらされ、社会生活上の重大な不利益を甘受しなければならない立場に置かれていました。


戸籍上の性別の変更の要件

性同一性障害特例法は上記の適用の対象者で

  1. 年齢が20以上である
  2. 現に婚姻していない
  3. 現に未成年の子がいない
  4. 生殖線がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にある事
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている事

という、これらの要件を備えている人については戸籍上の性別の記載の変更をする事を認めています
4,5の要件は性別適合手術を経ている状態とほぼ同様の状態を意味しています。


家庭裁判所への審判の申立て

 性同一性障害特例法に従い、実際に戸籍上の性別を変更しようとする人は、その住所地を管轄する家庭裁判所に対し、戸籍上の性別の変更の審判を申し立てます

その際には、性同一性障害に関する専門的な知識を有する2名以上の医師による診断の結果や治療の経過等が記載された診断書を提出する必要があります。
そして、申し立てを受けた家庭裁判所は、上述した性同一性障害特例法の定める要件を充足しているかどうかを審査し、充足していると判断した場合には、性別の取扱いを変更する審判をしますので、この審判書を戸籍が存する市町村役場へ提出する事によって戸籍上の性別の記載が変更される事になります。

(性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律2条、3条、5条)


離婚後、婚氏続称(こんうじぞくしょう)していても、結婚前の氏に戻れますか?

 1年前に、私は離婚をしたのですが、世間の目を気にして婚氏続称の届出をして結婚時の名字を使っていました。しかし、離婚後、私の両親の家に同居するようになり、両親と名前が違う事を聞かれる事があり煩わしく感じています。その上、私宛の郵便物が近くの家に誤配される事があります。結婚前の名字に戻りたいと思っているのですが、出来るのでしょうか?

Ans
 結婚前の名字に戻るには、家庭裁判所に氏の変更の申立てをし、許可されればできます。

婚氏続称届け出後の復氏

 婚姻をして氏を改めた者は、離婚後、婚姻前の氏に戻るのが原則です。しかし、離婚後3カ月以内に役場に届け出れば、婚姻中の氏を名乗る事が出来ます。これを婚氏続称といいます

婚氏続称をする理由として

  • 離婚した事を世間に知られたくない
  • 自分が親権者となっている子供の名字を変えたくない

といったものがありますが、その後の環境の変化により

  • 婚氏続称する必要がなくなった
  • 婚氏を名乗る事による不都合が多くなった

などの理由で婚姻前の氏に戻る事を希望する方が多いのではないでしょうか。

この様な場合には、家庭裁判所に、名字を変更する手続きである、氏の変更の申立てをしなければなりません。

氏の変更の基準

 氏の変更は社会生活に多大な影響を与えますので、みだりに変更する事が出来ません

通常、今の氏を名乗る事が本人及び社会生活上著しい支障や不便をもたらす場合等、厳しい基準で判断されます。

では、婚氏続称した後の復氏の場合も厳しい基準で判断されるのかどうかについては、通常の氏の変更よりも緩い基準で判断される事が多くなっています。

離婚により婚姻前の氏に戻るのが民法の原則です

そうであるなら、婚氏続称をする必要がなくなったり、続称により社会生活上の不利益がある場合には、婚氏の使用期間が長期間に及び、離婚後の呼称として社会的に定着しているような場合を除き、氏の変更が認められる事になると思われます。

 裁判例からすると、今回の場合にも、生活上支障をきたしていて、婚氏の使用期間も長期間に及んでないことから、氏の変更が許可される可能性は大きいと思われます。

(民776条)
(戸籍法77条の2,107条)

改名の仕方

私は幼い頃からずっとからかわれてしまう名前だったので、小学校以後ずっと通名を使用しています。学校関係、健康保険証、預金通帳などの名前も全て通名です。今回、この際ですから通名を戸籍上の正式な名前に改めたいと思っていますが、可能なのでしょうか?

Ans
家庭裁判所に申し立てをして、名の変更の許可の審判を得て、届け出る事により改名する事が出来ます。

「名」の機能とその変更

 「名」は「氏」と共に社会生活上個人の同一性を表したり、他人と区別するなどの働きがあります。一旦定まった名をみだりに変更する事は、社会生活上、同一の人であるかどうかの判断が困難になり、混乱を招くおそれがあります。こうしたことから、名の変更は正当な理由がない限り認められません

正当な理由かどうかの考慮

そこで正当な理由があるかどうかは、改名の必要性と改名により社会生活上与える影響を比較して決められます。

具体的に正当な理由があるかどうかは

  • 営業上の理由から襲名する必要がある
  • 同姓同名者がいて社会生活上不便
  • 宗教名にしたり、宗教名をやめたりするために改名の必要がある
  • 珍奇、難読の名なので、社会生活上支障がある

等の事実を考慮すべきものとされています。
これとは反対に、

  • 戸籍上の名が好きではない
  • 姓名判断の結果、戸籍上の名では縁起が悪いと言われた
  • 常用平易な文字から、珍奇、難読な名に改める

というような場合には正当な理由があるとは言えません。

長年使用してきた通名

 それでは、長年にわたり通名を使用してきた場合はどうなるでしょうか?
通名を使用するようになった動機が、個人的な好悪の感情、姓名判断の結果に基づく場合において、正当な理由ありかどうかは裁判例は分かれていますが、社会生活上、戸籍名よりも通名の方が本人を表すなどとして機能していると認められるならば、社会生活上の混乱も少ないので、一般に改名の正当な理由があるといえます。
 

又、どの程度の期間使用していれば長年使用していたと言えるかは一概には言えませんが、成人であれば7年ないし10年程度以上というのが一応の目安となっています。

 この様な基準からしますと、今回の場合も通名に変更する事に正当な理由がある場合に当たると思われます。

(戸籍法107条の2)

離婚にともなう子供の氏の変更

 私は夫と離婚しました。子供の親権者は私がなり子供を育てていく事になりました。この場合、子供の氏、子供を私の戸籍に入籍させるにはどうしたらいいのでしょうか?

Ans
 家庭裁判所に「子の氏の変更の許可」の審判を申し立て、その許可を得る必要があります。その後、その審判書謄本を添付して子の本籍地又は届出人の住所地の戸籍役場に入籍の届出をてください。

離婚した時の状態

 離婚をすると、結婚の際に氏を改めた者は結婚前の氏に戻る事になっています。そしてこの方が戸籍上も結婚前の戸籍に戻るか又は別の戸籍をつくる事になります。
氏と戸籍は別なのです。
一方、子供の方はそのまま婚姻中の氏を称していて戸籍もそのままです。

 この様に親と氏が異なっている子を親と同一の氏にするには家庭裁判所に申し立てをして、子の氏の変更の手続きをしなければなりません。家庭裁判所では子の氏の変更の必要性、相当性を判断して許否の判断をします。

(民791条)
(戸籍法98条)


離縁しても縁組中の氏を名のれるのでしょうか

 18歳の時に伯父の養子となり15年が経ちました。事情があり協議離縁する事になったのですが、伯父の氏をそのまま名のる事ができるのでしょうか?離縁したら前の氏に戻ると聞いたもので・・・。又、私の妻子の氏はどうなるのでしょうか?


Ans
 この場合、市町村役場への届出により、縁組中の氏を名のる事ができます。あなたの妻子も同じ氏を名のる事ができます。


縁氏続称

 養子縁組により養親の氏に改めた養子は、離縁により、縁組前の氏に戻るのが原則です。
しかし、縁組の日から7年以上経過した後に離縁すると、縁組中に名のっていた氏を名のる事ができます。
これは、離縁の日から3か月以内に市町村役場へ「縁氏続称」の届出をする事によって出来ます。

 婚氏続称の場合と同じように、法律上の氏は縁組前の氏に戻るけれども、その呼称として縁組中の氏を用いるという事です。ですから、縁氏続称の届出により新たに戸籍が編成し直されます。今回の場合は新しい戸籍が作られるという事になります。


妻子の氏は?戸籍は?

 縁氏続称をすると夫婦同氏の原則により、その効果は貴方の妻にも及び、法律上の氏も呼称上の氏も同じになり、戸籍も同一に入籍します。
これに対して、お子さんには妻と同様な効果は及びません。その為、「子の氏の変更」手続きをする必要があります。
「子の氏の変更」手続きは、父又は母が氏を改めた事により、子の氏が異なっている場合には、家庭裁判所の許可を得ることなく、子を父母の戸籍に入籍させる届出により出来ます。

ご質問の場合、婚姻中であれば、入籍の届出のみでお子さんの氏を変更する事ができます。

(民791条、816条)
(戸籍法73条の2、98条)


私の子供(非嫡出子)の氏を父の氏に変更する

 私のには子供がいます。子供の父親には妻子がありますが認知はしてもらっています。又、私は結婚はしていませんので、子供は私の姓を名乗ってます。私の子供に父親の姓を名乗らせようと思っているのですが、出来るのでしょうか?


Ans
 家庭裁判所に氏の変更の審判を申し立ての手続きをし、許可されれば可能です。この際、家庭裁判所は、父の妻子の意見等を考慮して許可するかどうかを判断する事になります。


氏の変更の手続き

 法律上正式に結婚していない男女の間に生まれた子供を非嫡出子と言います。非嫡出子は母の姓を称するものとされています。
氏を変更するには申立人の住所地を管轄する家庭裁判所に氏の変更の審判を申し立てます。子供が15歳未満の時は法定代理人(通常子の母)が、15歳以上の時は子供自身が申し立てます。

 申し立てが許可されれば、戸籍役場に氏の変更の届出をする事により正式に変更されます。


家庭裁判所の考え方

 この審判をするにあたり、本妻(父の戸籍上の妻)や嫡出子が、非嫡出子の氏の変更に反対する事があります。これは、戸籍上、母の戸籍から父の戸籍に移る事になるからです(同氏同籍の原則)。

 家庭裁判所は子の氏の変更の許否を判断するにあたり、審判例は分かれていますが、多くの審判例は非嫡出子の福祉と父の妻子の利益を比較衡量して決めるという立場をとっています。

(民790条)
東京高決昭60・9・19家月38・3・69



家族についてのその他の問題

成年後見人の選任

 私の伯母についてなのですが、後見開始の審判の申立てをしようかと考えています。
その際に、家庭裁判所が適切な人を成年後見人として選任してくれると聞いたのですが、どのような人が選任されるのか心配です。
選任する際にどのような事が考慮されるのでしょう?


Ans
家庭裁判所が成年後見人を選任するにあたっては、成年被後見人保護の職責を果たし得るような、ある一定の事情や欠格事由が定められています。


選任の際の考慮事情

 家庭裁判所は、後見開始の審判を行う際には、職権で成年後見人を選任します

選任にあたっては、成年被後見人の心身の状態や生活状況、成年後見人となる人の職業や経歴、本人との利害関係の有無その他一切の事情を考慮し、成年被後見人の療養看護や財産管理という重要な職責を果たすのにふさわしい人を選任します。

また、成年被後見人の意思を尊重する為、その意見も考慮するものとされています。


欠格事由


類型的に判断能力が不十分だったり、成年被後見人と利害対立のおそれのある人といった成年後見人にふさわしくない人、つまり成年後見人の欠格事由として次のようなものがあります。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
  • 破産者
  • 成年被後見人に対して訴訟をした者及びその配偶者並びに直系血族
  • 行方不明者

 平成12年度の成年後見制度創設の際には、後見人の欠格事由として禁治産者や準禁治産者が規定されていましたが、民法改正後は、成年被後見人、被保佐人、被補助人が欠格事由となってはいません。
これは実際上それらの者が成年後見人に選任される事はあり得ないので、規定する意味が乏しい事や、このような規定を置く事によりかえって成年被後見人等に対する社会的偏見を生むおそれがある事に配慮したからです。


法人の後見人

 平成12年度の成年後見制度の創設にともなう民法改正により、法人も成年後見人に就任することが明文化されました
これは、成年被後見人にの生活や財産の状態等によっては、法人を成年後見に選任する方が望ましい場合もあるからです。

 例えば、福祉について専門的知識や態勢を有する法人などです
法人を成年後見人に選任する場合には、法人が安定して後見事務を遂行できるかどうか、本人の財産管理に信頼がおけるかどうか等を判断する必要があります。
その際には、、法人の事業の種類、内容といった事や法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無等が考慮されます。

このような成年後見人としての適格性を有する法人として、一定の社会福祉協議会や社会福祉法人などが考えられます。しかし、具体的にどのような法人が成年後見人として適格性を有しているのかは、今後の事例を見て判断する必要があります。

(民843条、876条の2、876条の7)


制限行為能力者の取引の相手方の催告権

 先日、私の経営する宝石店にある老人が70万円の宝石を買って行きました。
その後、その老人が後見開始の審判を受けていて、その老人の息子さんが成年後見人になっていることがわかりました。
成年被後見人が行った売買などは、後から取消す事が出来ると聞いたのすが、かなり後になって「売買契約を取り消すからお金を返して欲しい」などと言われても困ります。
出来るなら、今のうちに売買契約を取り消すのかどうかはっきりさせたいのですが、どうすればいいのでしょうか?

Ans
成年後見人に対して、売買契約を追認するかどうかを一定の期間に返答するよう催告し、追認するかどうかを確かめます。
そしてその期間内に成年後見人から返答がなければ、契約は追認したものとみなされます。


制限行為能力者との取引

 制限行為能力者(成年被後見人、被保佐人、被補助人、未成年)の行った一定の取引行為は後から取り消す事が出来ます

しかし、このままでは制限行為能力者と取引をした相手方が、制限行為能力者側からいつ取引を取り消されるかわからないという不安定な状態になりますので、これらを早期に解消するために、相手方に催告権が与えられています。

催告権とは、制限行為能力者と取引をした相手方から制限行為能力者側に対し、その取引行為を取り消すかどうかを返答するよう催告し、返答がない場合でも、催告の相手方や方法に応じて取引行為の取消しまたは追認の効果を発生させるというものです。


催告の方法

 催告は、制限行為能力者の行った取引行為を特定し、追認するかどうかを一定の期間内に返答するように求める方法で行います

返答の為の猶予期間は1カ月以上でなければなりません。
そして、後日の証拠を残しておくという意味で内容証明郵便などの書面で行った方がいいでしょう


催告の相手方

 催告は、催告を受領する事ができる能力を持った者に対して行わなければならないので未成年者や成年被後見人に対しては催告する事が出来ません

催告の相手方と指定した期間内に返答がない場合の効果は次のように定められています。

①制限行為能力者が行為能力者となる前で

 催告する相手が法定代理人、保佐人、補助人の場合

   → 期間内に返答がなければ追認したとみなされる

 催告する相手が被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人の場合
 (この場合、保佐人または補助人の追認を得るように催告する)

   → 期間内に返答がなければ取り消したものとみなされる

制限行為能力者が行為能力者となった後で

 本人に催告する場合

 
   → 期間内に返答がなければ追認したものとみなされる

成年後見監督人の同意が必要な場合で

 後見人に催告する場合

   → 期間内に返答がなければ取り消したものとみなされる

今回の場合では、ご老人はまだ成年被後見人の状態であると思われますので、後見監督人が選任されていなければ、成年後見人である息子さんに対して売買契約を追認するかどうかを一定の期間内に返答するように書面で催告します。
そしてのそ期間内に息子さんからの返答がなければ、売買契約は追認したものとみなされますので、後になって契約を取り消される心配はなくなります。

(民20条)


制限行為能力者の詐術(さじゅつ)と取消権

 私は、伯母が保佐開始の審判を受けた時に保佐人になりました。最近の事なのですが、その伯母の知人が貸金業者から500万円のお金を借りる際に、伯母に連帯保証人になってくれと頼んだらしく、その際、伯母は連帯保証契約を締結してしまったらしいのです。

私は、保佐人として、その貸金業者に対して連帯保証契約を取り消すことを通知しました。しかし、貸金業者は、伯母は被保佐人である事を全く言わなかったし、資産家であることを強調していた、という理由で取り消しにに応じないと主張しています。連帯保証契約を取り消す事が出来ないのでしょうか?

Ans
 伯母さんのした連帯保証契約を取り消す事が出来るかどうかは、連帯保証契約をした時の伯母さんの言動が『詐術』にあたるかどうかによります。

制限行為能力者の詐術

 未成年者、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人が親権者、保佐人、補助人の同意を得て行うべきものとされている行為について、その同意を得ずに行った取引行為を取り消す事が出来るのが原則です

しかし、成年被後見人、被保佐人、被補助人、未成年者(総称して制限行為能力者)が『詐術』によって相手方に行為能力者である事を信じさせた場合には取り消す事が出来ません。

なぜなら、行為能力者である事を積極的に誤信させたような場合にまで取り消しを認める必要はなく、又、行為能力者であると信じた相手方を保護する必要があるからです。

今回の場合にも、貸金業者は、伯母さんが『詐術』を行ったから取り消しを認めないと主張しているのだと思われます。

詐術にあたる場合

では、『詐術』を行ったとはどういった場合の事をいうのでしょうか?

制限行為能力者が自分を行為能力者であると信じさせようとして、行為能力者であると偽って相手方に告げる事は『詐術』にあたります

又、制限行為能力者である事を黙っていた場合はどうでしょう?

判例では

制限行為能力者である事を黙秘する事が制限行為能力者の他の言動などとあいまって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたと認められる時は『詐術』にあたるが、単に制限行為能力者である事を黙秘していただけでは『詐術』にあたらず、詐術にあたるには能力者である事を信じさせる目的をもってした事を必要とする

としています。

今回の場合について

 伯母さんがした連帯保証契約について取消す事が出来るかどうかは、伯母さんが契約する際、貸金業者に対してどのような状況下でどのような言動をしたのかによります

貸金業者の主張では、伯母さんが被保佐人である事を告げなかったばかりでなく、資産家であることを強調していたということですが、そのような発言があっても、伯母さんが能力者であると誤信させようとする意図でなされたのではない限り、『詐術』を行ったと判断する事はできません。

もちろん、貸金業者が伯母さんを被保佐人であると知っていた場合には、『詐術』を主張して取り消しを拒むことはできません。

(民13条、21条)

判断能力が鈍ってきた時の為の補助制度

 私には伯父がいます。その伯父が最近、判断能力がずいぶん衰えてきている事を心配しているようで、老後の生活資金や不動産などをむやみに処分しないようにしたいと考えているようです。しかし、成年後見制度や保佐制度を利用するほど判断能力がなくなっている訳ではないのですが、何かいい方法はありませんか?

Ans
 補助制度を利用する事が考えられます。

補助制度

 補助制度とは、精神上の障害により判断能力が不十分な者に対して、家庭裁判所に補助開始の審判を申し立て、補助人を選任してもらう制度です。この制度は、成年後見や保佐の対象にまで至らない軽度の者を対象にしています

 家庭裁判所は、当事者の申し立てに基づいて、被補助人(本人)の特定の法律行為について、補助人に同意権又は代理権の一方又は双方を付与する事が出来ます。補助人に同意権が付与された場合は、被補助人(本人)が補助人の同意を得ないでした特定の法律行為は、被補助人あるいは補助人が取り消す事が出来ます。

同意権の対象となる法律行為は

  • 元本の受領や利用
  • 借入や保証
  • 不動産や重要な動産の処分
  • 訴訟行為
  • 贈与・和解・仲裁合意など
  • 相続の承認、放棄、遺産分割
  • 贈与や遺贈を拒否したり、負担付贈与や遺贈を受ける事
  • 新築、改築、増築、大修繕
  • 民法602条に定める期間を超えない賃貸借

これらの一部に限られます。
代理権が付与された場合は、特定の法律行為について被補助人(本人)に代わって補助人がする事が出来ます。

申し立てをするには

 補助制度を利用する際、当事者は補助開始の審判の申し立てと同時に、特定の行為について補助人に同意権又は代理権を付与する旨の審判の申し立てを行います。

補助開始の審判の申し立てやそれと同時に行われる同意見の又は代理権の付与の申し立ては、本人の自己決定を尊重しましょうとの考え方から、本人の承諾または同意が必要とされています。

 申し立て権者は、本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約が登記されている場合)又は検察官です。

(民13条、15条~17条、120条、876条の6,876条の7)

保佐制度とは

知り合いの話によると、その知り合いの父が最近認知症の症状が出始めたらしく、人から頼まれごとをされて意味もわからないまま他人の保証人になったりしているようです。このような行為から知り合いの父を保護するのにはどうしたらいいのでしょう?

Ans
知り合いの方のお父さんについて、家庭裁判所に保佐開始の審判を申し立てる事ができます。保佐開始の審判を受けると保佐人が選任され、その方のお父さんが、保佐人の同意を得ないでした一定の行為を取り消す事ができます。それに加えて、保佐人に特定の行為の代理権を付与してもらう事も出来ます。

保佐制度

保佐制度とは、精神上の障害があり、自己の行為の結果の判断する能力が著しく低い者を保護するため、家庭裁判所に保佐開始の審判を申し立てる事ができ、保佐開始の審判を受けると保佐人が選任される制度です。

保佐人が選任されると、被保佐人(本人)は一定の行為について保佐人の同意を得なければならず、保佐人の同意を得ないでした行為は、被保佐人(本人)又は保佐人がいつでも取り消す事ができます

民法によりますと、この一定の行為とは

  1. 元本の受領や利用
  2. 借り入れや保証
  3. 不動産や重要な動産の処分
  4. 訴訟行為
  5. 贈与、和解、仲裁合意等
  6. 相続の承認、放棄、遺産分割
  7. 贈与や遺贈を拒絶したり、負担付贈与や遺贈を受ける事
  8. 新築、改築、増築、大修繕
  9. 民法602条に定める期間を超える賃貸借

となっています。
したがいまして、知人の方のお父さんが保佐人の同意なしに保証契約等をした場合、後で取り消す事ができます。しかし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については保佐人の同意は必要ありません

保佐人へ代理権を与える

この他に、被保佐人を保護するために必要がある時は、家庭裁判所に申し立てて、保佐人に特定の行為についての代理権を付与する旨の審判をしてもらう事ができます。この審判がなされると、保佐人が本人に代わって特定の行為をする事ができるようになります。

保佐開始の審判の手続き

保佐開始の審判の申し立ての手続きは

  • 申し立てできる所・・・本人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 申立権者・・・本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、又は検察官

成年後見制度と同様、保佐開始の審判があっても戸籍には記載されません。

(民11条~13条、120条、876条、876条の2、876条の4)

妻は亡き夫の両親の世話をすべきなのでしょうか

夫の父親が先ごろ亡くなりました。1人暮らしになった義母から面倒を見て欲しいと言われたのですが、面倒をみなければいけないのでしょうか?夫は数年前に亡くなっています。義母には娘、息子がいます。

Ans
貴方が扶養義務を負わされるのは、家庭裁判所でその旨の審判がされた時に限られると思われます。

扶養義務

自分の資産・収入では生活していけない人に対して、その人と一定の親族関係になる者がその生活費などの援助をする事を扶養義務と言います

扶養義務が発生する為には

  • 扶養される人が自分の財産・収入では生活していけない(扶養の必要性)
  • 扶養すべき人に扶養するだけの資力がある事(扶養能力)

が前提です。
夫婦や、親子などの直系血族及び兄弟姉妹は互いに当然に扶養義務があります。それ以外の3親等以内の親族は扶養義務を負担させる特別の事情があると認められて、家庭裁判所で審判又は調停が成立した場合に、扶養義務を負う事になります。

特別の事情とは

特別の事情とはどの様な場合かと言いますと

  • 夫婦、親子など法律上当然に扶養義務を負う親族がいない
  • それらの者に扶養能力がない
  • 扶養を求めている人からかつて長期間にわたり扶養されていた
  • 扶養と求めている人から家や財産を譲渡された

のような場合の事を指します。
又、3親等内の親族でも「特別の事情」があると判断されると夫婦や親子などの扶養義務者と同程度あるいはそれらに優先して扶養義務を負う事もあります。

貴方の場合、以上の事からしますと、義母のと関係は1親等の姻族(親族)ですので、特別の事情があると判断されて初めて扶養義務を負う事になります。
でも、夫の死亡による姻族関係終了の意思表示をすれば義母との親族関係は消滅し、扶養義務が生じません。扶養義務の審判がされていたとしても扶養義務は消滅します。
姻族関係の終了は戸籍の届出により出来ます。

(民728条2項、877条1項・2項、878条)
(戸籍法96条)

子供が親の世話をする義務

夫の母が「1人では暮らして行けない、長男なんだから面倒見て欲しい」としきりに言います。しかし私どもも幼い子供がいて生活の余裕がありません。夫だけが義母の世話をしなければならないのでしょうか?

Ans
親子は「直系血族」として互いに扶養義務を負いますが、親子間の扶養義務と配偶者や未成熟の子供に対する扶養義務とは違うというのが一般的な考え方です。

親子間の扶養義務は、自分の社会的な地位に相応しい生活をしてなお余裕がある場合にのみ扶養義務を負うとされています。
又、ご主人だけが扶養義務を負うわけではなく、ご主人の兄弟も同様扶養義務を負います。この場合は、それぞれの資産や収入等に応じて平等に分担するように当事者の協議で決めます。協議がととなわない場合は家庭裁判所に申し立てをして決めてもらいます。

今回のような「引取り扶養」は精神的な負担が多分にありますので、引き取り拒否をしている者に強制してみてもいい結果は生まれません。
審判例で引き取り扶養を命じたケースは、少なくとも扶養義務者が引き取りについて黙示的にでも了解している事案です。

1つのケースとして、どなたかが引取り、その他の者が金銭的なサポートをするという事を挙げる事ができます。
まずは、皆さんでよく話し合ってみてはいかがでしょうか?

(民877条、878条、879条)

任意後見制度

今年で69歳になります。今は元気なのですが、身寄りがないので将来の事を考えると心配です。痴呆症などになった場合に、入院手続きや財産の管理や処分をしてくれる方を今から探しておきたいと思っています。任意後見制度というものがあると聞いたのですが、どの様な制度なのでしょうか?

Ans
任意後見制度とは、任意後見契約により、判断能力が低下した場合の自分の資産等に関する事務処理を予め第三者に委任しておく事ができる制度です。

任意後見制度とは

任意後見制度とは、平成12年4月施行の「任意後見契約に関する法律」に基づくもので、委任者が第三者との間で、精神上の障害により判断能力が不十分な状態になった場合、自分の生活、療養看護、財産の管理に関して、第三者に代理権を与え、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が発生するものとする契約を締結する制度です。

法定後見制度に比べて、本人の意思を尊重する事ができる制度でもあり、委任者保護のため、委任後見監督人による受任者の監督制度が設けられています。

任意後見契約締結

任意後見契約は、本人と第三者で行いますが、契約は公正証書で行わなくてはなりません
契約の内容は、法令で定められています。
その中で重要なのは、委任事務と代理権の範囲です。
つまり、どの様な行為について第三者に事務を委任するかについて明確に取り決めておく必要があります。
任意後見契約が締結されると、公証人によって登記が嘱託され後見登記ファイルに委任者、受任者の氏名、住所、代理権の範囲などが登記されます。

任意後見契約は任意後見監督人が家庭裁判所に選任された場合に効力が生じます。任意後見受任者は任意後見人となり、任意後見契約で定められた行為を本人に代理して行う事ができます。

任意後見監督人選任の申し立て

任意後見監督人選任の申し立てをする事ができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族又は任意後見受任者です。【本人の意思を尊重するため】本人以外の者が申し立てた場合は、本人の同意が必要です。(ただし、本人が意思能力を喪失している場合は除く)
家庭裁判所は、本人に意見を聞くなどして確認し、審判を行います。

任意後見監督人の要件

任意後見人の監督をする任意後見監督人は重要な職責を果たすために相応しい人でなければなりません.
欠格事由(なれない人)として

  1. 未成年者や破産者
  2. 本人に対して訴訟を起こした事がある人
  3. 任意後見人の近親者

となっており、本人の生活状況、財産状態、本人との利害関係の有無、本人の意見など一切を考慮して、家庭裁判所は任意後見監督人の選任を行います。本人が、任意後見監督人になってほしい人について意見を言ったとしても裁判所はそれに拘束されませんが、一定の考慮はされる事になると思われます。

(民843条、847条)
(任意後見契約に関する法律3条、4条、5条、7条,8条)

成年後見制度

父が認知症になってしまい、家族の顔もわからなくなり、正常な判断がほとんどできない状態です。父は不動産、預貯金といった財産があるのですが、わけもわからず他人と売買してしまいそうで心配です。
成年後見制度という言葉を聞いたのですが、どの様なものなのでしょうか?

Ans
成年後見制度とは家庭裁判所が、精神上の障害のため判断能力を欠く者について後見開始の審判をし後見人が選任される制度で、本人がした取引行為を取り消す事ができるようになるなど、本人の財産を保護する事ができます。
(精神上の障害とは認知症、知的発達障害、自閉症、統合失調症、遷延性植物状態等をいいます)

後見開始の審判の申し立てができる者

 後見開始の審判の申し立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
申し立てできる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、又は検察官です。

成年後見人の出来る事

 後見開始の審判を受けると、本人を成年後見人として、家庭裁判所が成年後見人を選任します。成年後見人は本人と利益相反する者が選任され、成年被後見人に代わって財産上の行為を行う事ができます。

又、成年後見人は成年被後見人のした財産上の行為をいつでも取り消す事ができます。
例えば、高額な買い物や借金をしてしまった場合も後から取り消す事ができます。

但し、日用品の購入など日常生活に関する行為は、成年後見人であっても取り消す事ができません(仮に判断を誤って購入したとしてもそれほど不利益がないので)。

プライバシー保護の観点から、後見開始の審判が確定しても、本人の戸籍等に記載される事はありません。その代わりに、法務大臣の指定する法務局の後見登記ファイルに登記されます。
このファイルの登記事項証明書の交付を請求する事の出来る者は本人、成年後見人など、限られた者しか出来ません。

(民7条~9条、120条、838条、843条)
(後見登記等に関する法律)

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