隣近所・法律 2
隣り合った土地の問題
袋地所有者が建物建替えする際の通路拡張請求
私の土地は袋地になっていますので、公道まで隣接する土地を通らせてもらっています。この度、建物を建替えようと思っているのですが、通路の幅が2メートル以内と狭いので建て替えができないという事です。
建替えをするために、今の通路を2メートル以上に拡幅するよう請求する事ができるのでしょうか?
Ans
建物の建て替えをするのに通路が2メートル必要であるという理由だけで、通路の拡幅を請求する事は出来ません。
囲繞地通行権
袋地の所有者は、公道に出るために、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行する事が出来ます。この袋地の所有者が囲繞地を通行する事ができる権利を囲繞地通行権と言います。
囲繞地通行権に関して詳しくは、前設問の「袋地所有者の通路の拡幅請求」及び前前設問の「 共有地の分割で袋地となった土地所有者の通行できる土地」を参考にして下さい。
建築基準法
建物の敷地は建築基準法所定の道路に2メートル以上接しなければならないとしています。また、地方自治体が条例でこの幅を拡張する事も認められています。
これを、接道要件といいます。
この接道要件を満たさなければならない理由としては、主に避難路の確保と通行の安全の必要性があるからです。
なお、建築基準法が施行された当時、既に建っていた建物については、この接道要件は適用されませんが、その建物を建て替える際には、接道要件を満たすように建替えなければなりません。
囲繞地通行権と接道要件
道路幅が接道要件に満たしていない為、袋地上の建物を建て替えることができない場合、袋地所有者は囲繞地所有者に対して通路の拡幅を請求する事ができるのかどうかという事が今回の問題です。
通路の拡幅を請求する事が出来ないとすると袋地上の建物を建て替えることができない事になり、袋地の利用が大いに妨げられることになります。囲繞地通行権が認められる理由は、袋地の利用のために不可欠な往来通行を可能にし、袋地の効用を全うさせようとする為ですので、接道要件を満たす為の通路の拡幅の請求は認められるべきだという考えも一理あります。
しかし、そのように囲繞地通行権が認められてしまうと囲繞地所有者は通行の負担を甘受しなければならなくなります。損害は補償されるとしても、囲繞地の利用を制限されてしまう事になります。
また、袋地に建築される建物が賃貸住宅などですと、囲繞地所有者は、袋地所有者の営利活動のために通行の負担を甘受しなければならないことになり、囲繞地所有者にとってはかなりの負担となりますので少し行きすぎたことになるのではないかと思われます。
裁判では
この様な問題に対して、最高裁判所昭和37年3月15日判決では、
土地利用についての往来通行上必要欠く事が出来ないのではなく、建築基準法上通路を必要とするにすぎないのであるから、囲繞地通行権そのものの問題ではない
として、接道要件を満たす為の通路の拡幅請求を認めませんでした。
しかし、その後の下級審判決の中には、拡幅を認めるものもあり、学説上も様々な論議があり、必ずしも統一した考えがあるわけではありませんでした。
このようななか、最高裁判所平成11年7月13日判決では
建築基準法の接道要件は、主として避難または通行の安全を期すための公法上の規制であって、囲繞地通行権とは趣旨、目的等を異にしているから、単に特定の土地が接道要件を満たさないという一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない
と判示しました。
これにより、今後は接道要件を満たす為に必要というだけでは通路の拡幅は認められませんが、建物建替えの必要性、例えば、建物自体の老朽化、周辺の開発状況といった袋地側の事情の他に、通路拡幅によって囲繞地所有者が被る不利益が隣接する土地利用の調整上やむおえないものと認められる場合に限って拡幅が認められると思われます。
(民210条)
(建築基準法43条)
袋地所有者の通路の拡幅請求
私の土地は袋地となっていますので、公道に出る為に隣の土地を通らせてもらっています。以前から車を所有していたのですが、通路が狭いので隣の土地を車で通る事が出来ません。車が通れるぐらいの幅に広げてもらえたら嬉しいのですが、できるのでしょうか?
Ans
囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)に基づいて、自動車が通れるように通路の幅を広げるよう求める際には、自動車の通行の必要性が高いだけでなく、それにより囲繞地に格別の損害が生じない事が必要でありますので、難しいかと思われます。
囲繞地通行権
袋地の所有者は公道に出るために、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行する事が出来ます。この袋地の所有者が囲繞地を通行する事が出来る権利を囲繞地通行権といいます。
この権利は、袋地の所有者が周囲の土地を通行できないとすると袋地は利用できない事になりますが、それでは袋地の所有者にとって酷であるだけでなく、土地の有効な活用が制限される事になり、社会全体にとっても好ましいことではない事から認められた権利です。
しかし、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)の所有者にとっては囲繞地通行権は大きな負担となりかねませんので、囲繞地通行権が認められるからといって、袋地所有者が囲繞地を自由に通行できるわけではありません。
袋地所有者は、公道に出るために必要な場所と方法で囲繞地を通行することができますが、それと同時に、囲繞地に与える損害が最小限度になるような場所と方法に限って通行できるのです。
また、囲繞地所有者は、袋地所有者に通行される事によって損害を被れば、その補償を請求する事が出来ます。
自動車の通行
このように囲繞地通行権には色々な制限がありますので、今回のような自動車が通行できるだけの幅の通路が認められるか否かは、袋地にとって必要性がなければならない事はもちろんのこと、囲繞地にとって最小限度の損害として受忍できる範囲内の負担でなければなりません。
現代の社会では自動車が普及していますので、袋地の所有者からすれば自動車の通行が認められないなら袋地の利用も十分なしえないという事になります。
しかし、囲繞地所有者にとってみれば、囲繞地通行権は囲繞地の犠牲のもとに認められているものにすぎませんので、通行権の範囲も制限がある事はしかたがありません。
自動車が通れるよう幅を広げられるかどうかは、袋地の所在する地域の発展状況や実際の利用状況等によって異なるのではないかと思われます。
裁判所の判断
最高裁は平成18年に
自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地についての自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められる事により他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである
としています。
囲繞地通行権に基づいて自動車の通行が認められるか否かが争われた裁判例として
- 自動車の通行が認められた例では
袋地に6世帯の家族が住居していて、それぞれ飼養販売業、牛乳販売業等を営んでおり、その為にかねてから馬車、リヤカー、営業自動車の出入りがあって、囲繞地の前所有者もその通行を容認していたという事情を挙げる事が出来ます - 自動車の通行が認められなかった例としては
袋地所有者が、それまで木造建物が建っていた隣接する他の土地を買収したうえ、買収した土地を含む袋地上に鉄筋コンクリート3階建ての事務所兼倉庫を建築して、貨物自動車等の出入りをさせようとしたところ、通路の実効幅員が3.16メートルしかないため、自動車が通行すると囲繞地所有者自身の通行が大きく制限されてしまうという事例があります。
これら2例からわかる事は、自動車等の通行の実績があり、囲繞地所有者においてもこれを容認していたという事情の有無と、自動車の通行を認めたときに囲繞地所有者が被る損害の大小を考えなければならないという事でしょう。
一般的に、囲繞地通行権に基づいて、自動車が通行する事が出来るよう通路の幅を広げてもらう事は困難かと思われます。しかし、自動車通行を認める必要性が高く、幅員を広げる事もさして困難でなくかつ囲繞地に損害が生じない時には認められる可能性があるかと思われます。
共有地の分割で袋地となった土地所有者の通行できる土地
私と甲さんは一筆の土地を共有しています。先日甲さんとの話し合いで、この一筆の土地を分割して、私と甲さんとの単独所有とする事にしようという事になりました。
その際に、私の土地は袋地になってしまいますので、公道に出るには乙さん所有の隣接地αを通りたいと思っています。私はこの土地αを通ることが出来るのでしょうか?
Ans
あなたは、土地αを通行する事が出来ません。
しかし、甲と共有していた土地のうち、甲の所有地となった土地を無償で通行する事ができます。
囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)
周囲を他人の土地に囲まれてしまい、直接公道に出ることの出来ない土地を袋地といいます(自然の地形等により阻まれて直接公道にでることのできない土地を準袋地といいます)。
そして、その土地を囲んでいる他の土地を囲繞地(いにょうち)といいます。
袋地の所有者が公道に出るためには、袋地と公道の間にある他人の土地を通行する事が出来なければ袋地は全く効力を失うばかりでなく、社会経済的に考えても損失といえます。
そうした事から、民法は袋地所有者に、公道に出るまでの土地を囲んでいる他の土地を通行することのできる囲繞地通行権を認めています。
但し、袋地所有者が通行することのできる場所と方法は、袋地所有者だけの事情を考えるのではなく、袋地所有者が通行する際に発生する囲繞地所有者の損害も考慮しなければなりません。
そうした事から民法は、その損害は最も少ないものでなければならず、囲繞地所有者に対して袋地所有者は償金を支払わなければならないとされています。
共有地の分割による袋地
以上の事は原則であり、これには特則あります。
つまり、袋地が出来た原因が「分割により公道に通じない土地が発生した時」、「土地の所有者がその土地の一部を他人に譲り渡した場合」の2通りです。
これらの場合、袋地となった所有者が通行できる場所は、他の分割者の分割した所有地のみ、もしくは一部譲渡前の土地のみとされていますが、償金を支払う必要はありません。
なぜこのような特則が認められたのかといいますと、袋地の出来た原因である分割・一部譲渡といった、所有者の意思の基づくものである為、その当事者は袋地の出来る事を予め当然に予測できたことであり、そうであるにもかかわらず分割・一部譲渡をしたのですから通行権の問題はその当事者間で解決するのが公平であり、それと無関係な第三者に損害を及ぼすべきではないからです。
囲繞地通行権は、他人の土地を通らなければ公道に出られない場合に認められる権利ですので、単に一筆の土地を分筆したというだけで、所有権の移転をともなわない場合には認められません。つまり、分割・一部譲渡というのは、それに伴って所有権に変動が起きた場合のことです。
今回の場合
あなたと甲の共有地をあなたの単独所有地と甲の単独所有地の2つに分けた結果、あなたの単独所有地が袋地になったというのですから、あなたが公道に出るためには、甲の取得した単独所有地のみを通行する事が出来る事になります。
その際、甲所有地に対する囲繞地通行権は無償通行権という事になりますので、通行料の支払いは要りません。
そして、乙が所有している隣接した土地αを通る方が便利だからといっても乙所有の隣接地を通行する権利は認められず、どうしても乙所有の隣接地を通行したい場合には、乙との間で、通路部分についての賃貸借契約を締結するか、通行のための地役権の設定を受けるなど、乙の了解を得る必要があります。
崖地における建物の建築
私の住んでいる所は、崖地の下にあります。最近、この崖の上の土地に建物の建築工事が始まるのを知りました。
しかし、工事が始まると崖崩れ等が起きるのではないかと心配です。崖地における建築について何か制限があるのでしょうか?
又、この工事を止めさせる事が出来るのでしょうか?
Ans
建築物が崖崩れなどによる被害を受けるおそれのある場合には、擁壁の設置等の安全上適当な措置を講じなければなりません。
又、災害危険区域又は急傾斜地崩壊危険区域にあたれば、条例で必要な建築制限等が定められています。
その他にも、建築により崖崩れの危険がある土地であれば、工事差し止め等が認められる場合もあると思われます。
建築基準法等による制限
建築基準法19条4項によると
「建築物が崖崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」と規定されています。
又、条例で、一定の高さを超える崖に接していたり隣接する場合は、地盤が堅固であったり安全上支障がないと認められる場合を除き、崖上にあっては崖下端から、崖下にあっては崖上端から、建築物との間に崖の高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない等の制限を設けているのが一般的です。
そして、建築基準法39条1項は
「地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定する事が出来る」とし、同2項では「災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める」と規定しています。
この災害危険区域には崖崩れの危険の著しい区域も含まれると解されており、条例で、地滑り又は急傾斜地の崩壊による危険の著しい区域は災害危険区域として指定され、この区域内における住居の建築についてはその基礎及び主要構造を鉄筋コンクリート造等とすることなどの制限が設けられています。
その他にも、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律では、
都道府県知事は急傾斜地(傾斜度が30度以上)のうち、崩壊するおそれがあり、崩壊した時は相当数の居住者等に危険が生じるおそれのあるもの及びその隣接地を急傾斜地崩壊危険区域として指定することができる
とされています。
そして、その指定がなされた区域においては、都道府県知事の許可を受けなければ、一定のものを除き工作物の設置はできず、又切土、掘削等はできないものとされています。
制限のない土地の場合
災害危険区域又は急傾斜地崩壊危険区域のいずれの指定もない場合であっても、建築について一定の制限があるわけですが、このような制限のない土地であったり、制限に抵触しないとして建築確認がなされた場合であっても、地盤が軟弱であったり、過去に崩壊があったなどの事情があり、建築する所が危険な土地にあたる場合もないとはいえません。
こうした場合、被害をこうむるおそれのある土地の住民は、十分な対策が講じられている場合を除き、被害を受ける事の予想される土地の所有権に基づく妨害排除請求権または安全な生活を送る権利(人格権)に基づき、建築確認の取消しを求めたり、建築工事の差止めを求める事が出来る場合もあると思われます。
(建築基準法19条、39条)
(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律1条、3条、7条)
隣地の掘削工事による家の傾き
私の隣地で建築工事が始まりました。その際に行われる基礎工事をするにあたり掘削工事が行われたのですが、暫くしてから私の家が傾きました。
工事業者は掘削作業とは関係がないと主張してるのですが、現実に掘削工事が行われてから傾き始めたので、工事業者の主張に納得がいきません。どうしたらいいのでしょうか?
Ans
隣地で掘削工事が行われる際に土留めが不十分ですと地盤が不動沈下等して、周辺の建物が傾くなどの被害が生じる事があります。
実際上、掘削作業と建物が傾いた事との間の因果関係があるかどうかわからない場合もあり、どのような場合に工事業者の責任を問う事が出来るのかは、色々調査してみなければならないかと思われます。
掘削工事と建物の距離や、初めからの傾き
まず、掘削工事の前に建物が傾いていなかったのに、掘削工事が行われた後で家が傾いた事が重要です。又、従来から若干の傾きがある場合は、掘削工事後に一層傾いたという場合も工事と傾きの因果関係が認められる事があります。
掘削工事と建物の傾きとの間に因果関係が認められるには、掘削工事をしている現場に近いほど傾きが大きいのが普通です。もし、逆の場合は掘削工事との因果関係を認め難いのが一般的です。
工事業者等の責任
掘削工事を行う場合、周辺の地盤への影響を防ぐために土止めが行われますが、その土地の状況によっては土止めの工法が適していない場合があります。
例えば、水分を多く含んだ地盤の場合、掘削面から水が流出しやすい工法ですと、周辺の地盤に不同沈下(同一の基礎や構造物が傾いて沈下すること)が生じやすく、建物が傾く原因になります。
このように、掘削工事が原因で建物が傾いた場合、地盤の強度の調査を怠ったとか、経験上、土留めをしないで掘削しても大丈夫だと判断をして土留めをしなかったり、採用した土留めの工法が適当でなかったなど施工にあたった工事業者に過失があれば、工事業者に損害賠償や原状回復義務があるといえます。
しかし、工事を発注した施主については、これらについての事を工事業者に対し具体的に指示したなどの事情がない限り、責任はないと考えられます。
最終的には、建物が傾いた原因が隣地の掘削作業であるかどうかは、土木工学その他の専門的見地からの解答が必要です。
道路に関する問題
道路境界査定とはどのようなものなのでしょうか?
私は自分の土地に家を建てたいと思い、家の近くにある建築会社に相談したのですが、「道路境界査定はお済ですか?」と言われました。
道路境界査定とはどのようなものなのでしょうか?
Ans
道路境界査定とは、道路管理者が、その管理すべき道路の範囲を確定する事をいいます。
つまり、道路と道路に面した私有地との境を確定するという事です。
道路境界査定の手続き
道路と私有地の境界を知りたいと思う時は、まず、道路管理者に対して道路境界査定申請書を提出します。
殆どの場合にあてはまる事ですが、申請書には道路境界査定に関係する土地の公図や、関係する土地の地権者の住所、氏名を記載したものを添付します。
こうした申請があると、道路管理者は、申請人に対して、査定実施の日時を連絡します。これを受けて申請人は、査定の日時に自ら立ち会う他、関係する地権者にもその査定の日時を通知して立ち会いを依頼します。
査定を実施する日には、道路管理者、申請人及び関係する地権者の立会いのもとで、道路の境界の査定が実施されます。
この査定をした後、関係者全員の一致で道路境界が確認できれば、道路境界査定承諾申請書を作成し、地権者又はその代理人が署名押印する事になります。
これにより道路の境界が確定する事になります。
立会人が欠ける場合
関係する一部の土地の地権者本人が立ち会わない場合、道路境界を確定する事は出来ません。
とはいっても、地権者本人の立ち会いが欠けても、その代理人が出頭している場合は、その者を含む関係土地の所有者全員が承諾している限り、道路境界査定書の作成に支障はありません。
敷地が手狭になったので、私道に広げる事が出来ますか?
私の家の前の道路は、私の所有地などからなる私道です。この度、家が手狭になったので敷地を私道内に広げようかと思っているのですが、可能でしょうか?
Ans
私道について道路位置指定を受けている場合には、道路内に建物や門、塀、又は敷地を造成する為の擁壁を設けたり、道路内にこれらを突き出す事はできません。
又、敷地が道路に2メートル以上接しなくなるような私道の変更または廃止はできませんし、通行権を有する者がいる場合には、その権利を有する者の承諾が必要になる場合があります。
道路位置指定
都市計画区域及び準都市計画区域内では、幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません。(接道義務)
これは、道路は日照、採光、や通風を確保して良好な都市環境を保全するのに必要であるばかりでなく、災害時の避難や消防活動にとっても必要不可欠な事です。
しかし、建物の敷地が常に幅員4メートルの公道に2メートル以上接しているとは限りません。
その場合には、私道を設ける事により道路を確保する事は可能です。
私道は私人の築造管理によるものですので、その区域が明らかであるとは限りませんし、所有者が変更・廃止してしまうおそれもあります。
この為、私道は政令で定められた基準を満たした上で特定行政庁(都道府県知事)がその位置を指定したものに限り、接道義務を果たしている道路として扱われる事になります。この指定の事を道路位置指定といいます。
道路内の制限
私道は私人が築造管理するものなので、その管理処分は私人に任されるのが原則なのはいうまでもありませんが、私道について道路位置指定を一旦なされると、道路としての通行を確保するために道路内の建築制限が行われます。
この建築制限は、建築物又は敷地を造成するための擁壁を道路内に建築したり、道路に突き出して築造してはならないというものです。
ここでいう建築物には、建築物の一部である出入り口や窓の扉も含まれます。
したがって、私道であっても道路位置指定を受けている場合には、その私道内に門や塀を設けて敷地の一部として使用する事はできないわけです。
接道義務
建物の敷地が公道に接していないために、私道に道路位置指定を受ける事によって接道義務を満たしている場合には、私道の変更・廃止により、その道路に接する敷地が接道義務違反になる事があります。この場合、私道の変更・廃止は禁止されるか制限される事になります。
接道義務を満たさなくなるかどうかは、私道を変更・廃止しようとする者の敷地についてだけでなく、その私道に接する他の敷地を含めて判断される事と定められています。したがいまして、私道を変更・廃止して、敷地を広げる事により、当該敷地が接道義務に違反する事はもとより、その私道に接する他の敷地が接道義務に違反する事になる場合も、そのような私道の変更・廃止は認められません。
通行権者の承諾
その他にも、私道について、通行権を有する者がいる場合は、その者の承諾が必要になる場合があります。
例えば、通行地役権者、賃借人などですが、承諾が必要か否かについては、それぞれの通行権の内容と私道の変更・廃止の態様により様々です。
そして、通行権を侵害しない範囲であれば、通行権者の承諾を要せず、私道内に敷地を広げる事が出来ますが、侵害する場合には、通行権者の承諾や代替通路の提供などが必要となります。
(建築基準法42条~45条)
騒音・振動に関する問題
自動車の排ガスによる健康被害
私たち家族は夫の仕事の関係上、引っ越しをしました。しかし、その引っ越し先の前の道路は大型トラックがひっきりなしに通りますので、その排ガスで大気汚染が深刻な状況です。
ここに住み続けた場合、排ガスにより健康を害された私たち家族を含む沿道住民は損害賠償の請求をする事が出来るのでしょうか?
Ans
一般的に、損害賠償を請求する事が認められるには、その原因と結果の因果関係を証明する必要があります。つまり、大型トラックなどの排ガス中に含まれる大気汚染物質と沿道住民の健康被害との間の因果関係を、疫学的に証明する事が出来れば可能です。
また、排ガスに含まれる大気汚染物質によって健康被害が生じる危険があるにもかかわらず、何ら被害発生の防止措置が講じられていない場合は、道路管理に瑕疵があると考えられますので、損害賠償の請求をする事が出来る可能性があります。
原因と結果
大型トラックの排気ガスで沿道の大気汚染深刻な場合でも、個々の大型トラックの排気ガスと沿道住民の健康被害との間に因果関係があるということは困難です。
なぜならば、個々の大型トラックの排気ガスに含まれる大気汚染物質は、それだけでは人の健康を害するだけの危険性を有しないのが普通だからです。
また、個々の大型トラックについて、その排気ガス中に含まれる大気汚染物質を特定の人の健康被害との関連性を証明する事は非常に困難です。
その他にも、排気ガスによってどの範囲の地域に大気汚染が及んでいるのかを証明し、且つ被害者ごとに健康被害の発生原因を自然科学的に証明する事は、実際上、証明が困難といえます。
しかし、このような場合でも、大型トラックの排気ガスによって沿道の大気汚染が深刻であることが明らかで、しかも沿道住民の健康被害の原因が一様に排気ガス中に含まれる大気汚染物質に起因していると認められる場合は、疫学的に因果関係があると考えられますので、健康被害と大気汚染物質の排出との間に因果関係があると認めてよいでしょう。
道路管理の瑕疵
沿道住民の健康被害の救済にあたっては、個々の大型トラックの運転手やそのものを雇用している企業などを相手取る事は実際上困難です。
このため、大型トラックが多数通行して、沿道に深刻な大気汚染を発生させるような道路は、その設置ないし管理に瑕疵があると考え、その道路管理者に対して損害賠償の請求をする事が出来ます。
しかし、道路は公共の利用に供されているものですので、大型トラックの通行台数が多いからといって、ただちに道路の管理に瑕疵があるとはいえません。
道路管理に瑕疵があるといえるためには、通行する大型トラックなどにより沿道に大気汚染をもたらし、且つ、それにより健康被害が生じることが予見する事が出来るにもかかわらず、その防止策を講じない事は、道路の管理に瑕疵があるといわれてもやむおえません。
結論
今までの事をまとめてみますと、大型トラックの排気ガスによる健康被害については
- 大型トラックなどの排気ガス中に含まれる大気汚染物質と沿道住民の健康被害との因果関係の証明
- 道路管理の瑕疵の存否
- 道路の公共性という観点から、一定限度の被害は受忍されなければならない
といった事が問題となります。
したがって、一般道路においては、排気ガスにより健康被害が生じたとして損害賠償などの請求をする事は、実際上困難と思われます。
しかし、大気汚染防止法の定める環境基準に適合しないほどに深刻な汚染が生じている地域等における健康被害については、道路管理者に対して損害賠償の請求等が認められる余地があるかと思われます。
(民709条)
(国家賠償法2条)
産業廃棄物処分場の建設差止め請求
建設中の産業廃棄物処分場から有害物質が漏洩し、地下水の汚染されるおそれがある場合、工事の差止めを請求する事が出来るのでしょうか?
Ans
産業廃棄物処分場から有害物質が漏洩して地下水が汚染されるおそれがある場合、地下水を飲料水として利用している住民などは、産業廃棄物処分場の建設差止めの請求をする事が出来るると考えられます。
人格権としての差止め請求
憲法25条は
すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する
と規定しています。
こうした生活利益の侵害に対し、人は人格権として差止め請求が出来るという考え方があります。
しかし、このような人格権だからといって、他人の権利を無視してもいいわけがなく、これらとの調和の上に認められるものであり、この他人の行為が、その態様、性質、内容、公共性の有無や程度に照らして違法と認められる場合に差止め請求が認められるものと考えられます。
差止め請求可能な者
人格権に基づく差止め請求が認められる為には、人格権が抽象的に侵害されるおそれがあるというだけでは足りず、侵害の蓋然性、具体的可能性の有無が必要と考えられます。
今回の場合について考えてみますと、産業廃棄物処分場から有害物質が漏洩して地下水に混入するおそれがあるとしても、地下水脈と差止め請求する者の使用する井戸がつながっているという事情がないならば、人格権侵害に対する蓋然性や具体的可能性がない為、差止め請求は認められないという事になります。
地下水汚染の危険性の証明責任
地下水が汚染されるおそれがあると言う為には、産業廃棄物処分場から有害物質が漏洩するおそれがあるといった事が必要です。
これを証明しなければならないのは、差止めを求める側なのか、産業廃棄物処分場を設置する側なのかという事がよく問題となります。
一般原則ですと、差止め請求をする側が立証しなければなりません。
しかし、有害物質が含まれる産業廃棄物処分場を建設する側に、有害物質が漏洩しない事の証明責任があるとした裁判例があります。
環境権と人格権
私の知人の話なのですが、その知人の家の近所に場外馬券場が出来たそうです。競馬の開催日には馬券を買いに来る人で周辺道路が混雑したり、ゴミが散らかるなど、大変迷惑しているそうです。
こうした事に対してどのような主張をする事が出来るのでしょうか?
Ans
環境の悪化などにより、周辺住民の健康や生活に被害が生じ、その程度が、社会通念上、受忍限度を超えると認められる場合には、営業の差止めや損害賠償の請求が認められる可能性があります。
環境権
誰でも良好な環境の下で健康的で快適な生活を送りたいと思うものです。
しかし、社会生活の様々な場面では、産業活動や娯楽施設の建物が出来る事によって環境が悪化し、周辺住民の平穏な生活が脅かされるという事態が生じています。
そうした事から、良好な環境を守る事が、人間の健康で快適な生活のために不可欠であるとして、環境を悪化させる原因となる行為があれば、その差止めを請求する事が出来るという考え方が提唱されています。
これが「環境権」といわれるものです。
しかし、環境権という権利を観念しうるかについては争いがあります。なぜなら、環境が悪化しても、それによって直ちに生命・健康が脅かされたり、その危険があるとは限らないからです。
こうした事から、環境権という権利は、いまだ確立していないというのが大方の見方といっていいでしょう。
人格権と受忍限度論
しかし、環境の悪化が、人の生命・健康を害する等の場合には、それによって生じた損害の賠償の請求が認められるべきですし、そのようなおそれがある行為について、差止めの請求が認められるベきだと思います。
つまり、人の生命・健康が害されまたは害されるおそれのある時は、人の人格そのものが否定されようとしている訳ですから、人格それ自体によって、その差止め等が認められるべきです。
これが「人格権」と言われているものです。
今日では、人格権という権利それ自体について、単に学説上だけではなく、裁判実務においても広く受け入れられています。
このように人格権という権利の存在そのものは認められるとしても、社会生活は、人と人の交渉の場ですから、人格的利益は時として衝突したり相互に制約し合って社会の中で存在しています。この為、人格的利益が制限を受けたとしても、その内容の程度によっては、これをもって直ちに違法であるとする事は出来ません。
人格的利益を侵害ないし制限される行為の態様、目的、公共性等を比較考量して、社会生活上、受忍すべき限度を超えている場合にはじめて違法と評価され、損害賠償や差止めの対象となるというべきです。これが「受忍限度論」と言われているものです。
裁判例
場外馬券売り場が出来ると、競馬の開催日等には馬券を購入する為に、多くの人が集まって混雑するばかりでなく、ゴミが散乱するなど環境が悪化する事があります。そこで、人格権に基づいて、馬券の販売を差し止める等の行為をする事が出来ないかが問題になります。
ある裁判例では、
場外馬券売り場の周辺住民が、売り場に来る客の自動車で付近の道路が混雑したり、駐車違反の車による付近住民の通行の妨害、ハズレ券の散乱や放尿による不衛生な状態、付近の小中学校に通う生徒に与える教育上の悪影響、などがあるとして環境権または人格権に基づいて馬券発売の差止め等を請求したのに対し、
裁判所は、
場外馬券売り場の周辺は、工業地域または商業地域に指定されていて、平日でも付近の道路の交通量はかなりあり、騒音も高く、馬券発売日の土曜日、日曜日、祝祭日と比較しても騒音値は殆んど差がない。
人の混雑によって住民が迷惑しているとしても、その被害は耐え難いものとまでとはいえない。
混雑の程度も環境整備事業の実施等によって緩和されている。
などとして、それらの被害は受忍限度の範囲内にとどまるので、馬券の発売の差止めと損害賠償の請求はいずれも認められないとしました。
又、裁判所はこの裁判で
環境権という権利は認められないとしましたが、人格権に基づく差止め請求は一般論としては認められるとしました。
実際に人格権に基づく差止め請求が認められるか否かの判断は、被害の深刻度と環境の悪化の原因となった事業等の有益度との比較考量が重要視されると考えられます。